小さいからこそ輝く自治体

投稿者: | 2023年12月18日

 11月23日、「山添村の未来を考える 一緒に自立を考えるつどい」が開催されました。「自立の村づくり」から20年、山添村のこれからの20年を考えようと、奥谷和夫村議会議員(奈良研会員)ら5名の村議会議員が発案して開催されたつどいです。このようなつどいが自発的に開催されることは聞いたことなく、画期的なものなので、興味深く参加させてもらいました。

「平成の大合併」時、山添村では奈良市等との合併をめぐって賛否の議論運動が沸き起こり、2003年8月の住民投票で「合併協議しない」が多数となり、翌年の村長選挙で自立を目指す村長が誕生しました。岡田知弘さん(当時:京都大学教授)は2003年8月の住民投票の直前に、山添村で「自律のすすめ」の講演をされました。

「つどい」では、岡田知弘さん(京都橘大学教授)が「小さいからこそ輝く自治体」と題して講演をされ、続いて4名の村議会議員がパネラーとして発言されました。 岡田教授の記念講演は概ね次のとおりです。

「平成の大合併」の失敗と小さな自治体の優位性

「明治の合併」は小学校をつくるため、「昭和の合併」は中学校をつくるためと言われているが、「平成の大合併」には大儀がない。地方分権の推進、生活圏の広域化への対応等々言われたが、最大の理由は行財政改革、地方交付税交付金を削減して、大企業が集中する大都市開発へ財源を集中するためであった。小規模自治体は無能力、不効率なので、将来的に県や隣接都市自治体が補完すべきとの提言まで出した

 国は二つの合併特例法を出し、「三位一体改革」によるアメとムチの政策で合併を推し進めたが、その帰結はどうなったか。3,232市町村(1999年3月末)が1,718(現在)にまで減少したが、目標の1,000市町村には遠く及ばなかった。これには、2003年に始まった小さくても輝く自治体フォーラムの運動と合併の是非を決める住民投票運動の広がりが大きな影響を与えた。

 面積1,000㎢を超える大規模基礎的自治体も数多く誕生したが、役場が無くなった周辺部で激しい人口減少が広がり、中心部も衰退してきている。これは、地域経済や地域社会を担ってきた役場と自治体職員・議員が消滅したことによる必然の結果だ。合併特例期間終了後(16年後)、財政危機が顕在化している自治体もあり、「こんなはずではなかった」「だまされた」の声も出ている。合併を推進した西尾勝元地方制度調査会会長は、平成の大合併は惨憺たる結果となったと証言した。

 西川一誠・福井県知事は次のように述べている。「道州制導入論者の多くは、効率化の観点から、地方分権を企業の競争論理と全くの同列と誤解し、自治体を国家と見紛うまでに大きいものに変革しなければならないと考えている。最近の企業合併や大規模な自治体誕生など、「拡大化」に対する節度が感じられない事例が増えている。その論理には、生きた住民が登場しない。地方自治とは、そこに生活する住民の意思をいかに汲み取るかが重要なのである。」

「小さくても輝く自治体フォーラム」運動の広がりが、政策論、自治思想を進化させた

 2003年から始まった「小さくても輝く自治体フォーラム」が、強制合併政策や財政圧力に対する 社会的アピールを継続することで、大きな政治的影響を及ぼした。勇気ある首長、地方議会人の動き に多くの住民や自治体関係者、研究者が共鳴し、政策論、自治思想を進化させた。フォーラムは、当 初5名の呼びかけ人から60名以上に発展し、2010年に恒常的ネットワーク組織となった。政治的 信条は多様な組織である。

講演する岡田知弘教授

注目すべき地域づくりの実践 団体自治と住民自治、地域づくりの「三位一体」

① 長野県栄村  「一人ひとりが輝く地域づくり」を目的に、地域内経済循環と実践的住民自治による村づくり。道直し、田直し、下駄ばきヘルパー、雪害対策救助員制度
② 宮崎県綾町、西米良村、徳島県上勝町、高知県馬路村、岩手県柴波町 有機農業、森林エネルギーの活用、地域環境問題への地域からの取組み
③ 北海道東川町、長野県原村、島根県海士町、宮崎県綾町 
 早くから人口定住対策を自治体と住民が協同で取り組み、人口を維持増加させている自治体が多い。大都市圏よりも合計特殊出生率の高いところが多い。岡山県奈義町2.95人(2019年)
④ 長野県阿智村  社会教育による学習の力、自治力が、地域づくりや住民自治・議会改革に結びつく。学んで積極的に参加する。

震災でもコロナでも明らかになった小さな自治体の優位性

東日本大震災の翌日に起きた長野県北部地震での栄村の被害は最小限に抑えられ、災害復興住宅は翌年に完成した。コロナによる感染者・死亡者は大都市に集中した。ワクチン接種、特別定額給付金も小さな自治体が早かった。

小さいからこそ輝く自治体と「大きくても輝かない自治体」の違い

① 主権者としての住民と自治体との距離が近い。一人ひとりの住民に自治体が寄り添える。
② 基礎的自治体が地域を総合的に把握できる。総合的視点から地域づくりが可能。
③ 住民自治に基づく効果的な施策を策定、執行することができる。行財政を住民のために運用でき、地域内再投資力と地域内経済循環が構築できる。
④ 最高裁判例は妥当であった。 
 「単に法律で地方公共団体として取り扱われているだけでは足りず、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識を持っているという社会的基盤が存在し、沿革的に見ても、また、現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的機能を附与された地域団体であることを必要とする。」 ―これぞ地方自治の実態的本質

小さいからこそ輝く自治体の展望

① ポストコロナ時代の国づくりの必然的方向は「選択と集中」ではなく、「適疎」適切な過疎と分散だ。
② 住民の命とくらしを守り、国土を保全するために地方自治体の役割が重要な時代になってきている。フォーラム参加はその実績を各地で積み上げてきた。
③ 産業自治、エネルギー自治の側面でも先進的な取り組みがなされてきた。
・北海道下川町では、早くからバイオマスを中心にした地域づくりを進め、エネルギーと経済活動の地域内循環を進めてきている。
・京都府与謝野町では、中小企業振興基本条例に基づく産業振興会議に若者も参加し、農業から福祉事業所までを直接支援し、経営と雇用を維持。コロナ下で地域経済分析調査を町民の協力で行い、年金経済に注目して新たな地域内経済循環を構築している。年金を地域内で循環させることが重要だ。
④ 政府はデジタル化と「広域連携」・公共サービスの産業化による「統治機構」の再編を狙うが、デジタル化と民営化ではコロナ対応できなかった。むしろ、住民が主体的に参加できる「小さな自治体」は、大都市自治体にも都市内分権、住民参加の拡大という形で影響を広げ、日本の地方自治の未来を切りひらくものである。

報告するパネラー

 次に、4人の村議会議員の方がパネラーとなって議論されました。議論の一部を紹介します。

・ 自立のむらづくりを20年、村財政は健全だ。20歳まで医療費無料、きれいな学校トイレ実現。・まねることで学んだ。地域をウォッチングし、地域の資源を発掘し、観光、農業を盛り上げてきた。・高齢の男性だけが力を持って物事を決めてきた。これは変だ。同質集団はいかんと立候補した。いろんな人が議論して決める場にしよう。・住民投票時、住民自治を護ろうと合併に反対した人もいるが、反対派の中には既得権益を確保しようとした人もいた。・人口減少は、旧月瀬村>山添村>旧都祁村となっている。これをどう見るか。旧都祁村には外国人労働者が多く転入しているとの指摘もある。地域別に人口等を把握して勉強会したらどうか。・なぜ若者が出て行くのか。伊賀市で住んで役場に通勤している。土日も地域の仕事に従事することが辛いのではないか。・地域で学ぶものがないので若者が出て行く。新しい業種を入れることだ。・メガソーラ問題で、役場は自分で判断できなかった。組織力が弱い。・山添村は大和高原の中心、大和高原村に名称変更して気概を持って住もう。

・決まったことを聞かせるだけではダメ。どうしようかと言うことから始めるべきだ。地域内で意見を出し合うことが大切。

最後に、岡田教授が次のように話されました。

・このつどいは画期的、素晴らしい集会だった。
・学ぶことから始める。公民館活動が重要。長野県阿智村では、住民が学んで政策を提案し、それを実現してきた。
・子どもの意見を聞くことも大切だ。子ども議会を開催している自治体もある。
・持続的に発展するには、「若者、バカ者、よそ者」の力も必要だ。

         (文責 城)

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