大深度地下法は憲法第29条違反

投稿者: | 2024年1月27日

12月21日夜、国際環境NGO「FoE Japan」主催のオンラインセミナー「未来の交通インフラが環境破壊 !? <シリーズ第4弾> 東京外環道・リニア・北陸新幹線から見る大深度地下法の問題点」が開催されました。このセミナーは、大規模な交通インフラ開発による環境や社会への影響を問題提起し、「未来の交通」のあり方を問い直すシリーズです。

今回は、公共の利益となる事業の円滑な遂行のために、地下深くを工事する際に、地権者の承諾や補償を必要としないと定める大深度地下法(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)がテーマでした。

昨年3月、奈良で行った「リニア問題学習会」で講師をされた柳井真結子さんがセミナーの司会をし、①大深度地下工事による深刻な事故や多くの影響が発生している東京外環道(東京外かく環状道路)、②東京・神奈川・愛知という広範囲にわたって大深度地下工事が計画され、すでに前途多難な状況と見られるリニア中央新幹線、そして③京都の地下を掘り進めることになる北陸新幹線延伸のリスクについて報告された後、大深度地下法の問題点と今後の運動について議論されました。

1.大深度地下法の憲法違反性と東京外環道の住民権利侵害

武内 更一氏(弁護士、東京外環道大深度地下使用認可等無効確認訴訟)

2017年より訴訟をしている。大深度地下法は、地上の土地の収用ができないので、所有者の承諾なしに事業をしたいために、地表に影響がない、地権者に影響がないというフィクションを前提に、正当な補償もしない憲法第29条のすべての条項に違反する違憲の法律だ。

憲法第29条 1項 財産権は、これを侵してはならない。 2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。 3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

土地の所有者や使用権者の承諾または同意を得ずに使用したり、破壊したり変更を加えたり(トンネルの掘削も)することを認める法令であり、そもそも憲法第29条1項の規定に違背している。使用権の設定自体についての「正当な補償」がなされなければならないが、大深度地下法には、大深度地下の使用権設定による補償の規定が置かれていない。「損失補償」ですら、大深度地下使用認可が告示された日から1年間の期間制限が設けられており、現実的には意味がない。同条第3項に違反する。

大深度地下は、科学技術の発展によって、今日では誰もが利用できる場所となった。また、トンネル掘削工事の振動や地盤変位によって、建物が壊れたり・ 傾いたり・建物に亀裂が生じる事故が起こっている。大深度地下の使用によって地中や地表への影響を及ぼさないから 地権者の同意や補償を要しないとする大深度法の基本的な前提は当初から誤っており、実体としても存在していなかった。

2.リニア新幹線はもうやめどきだ 首都圏大深度工事と残土処分

天野 捷一氏(リニア新幹線を考える東京・神奈川連絡会)

品川駅から神奈川県駅間37km、うち大深度地下使用区間が33km。この区間に非常口9ヶ所が掘られ、うち4カ所からシールドマシンが掘り進めている。工事が進んでいる東百合丘非常口は、直径39m、深さ80mの巨大な縦穴で、この底でシールドマシンを組み立てた。シールドマシンは外径14m、重量3000t、一日当たり平均掘進速度20m、月平均400m。2023年度からトンネルを掘削し始めたが(調査掘進)、工事は非常に遅れている。 

2020年10月18日、外環道大深度工事が原因で調布市の住宅街で道路が陥没し、その結果、現場付近の約40戸の住民に転居を強制し、今後2年間にわたり付近の地盤改良工事をせざるを得なくなった。それで、JR東海は外環道の工事事故を見て2021年8月説明会を開催して、調査掘進と家屋調査開始を表明し、「リニア大深度地下には特殊地盤はない」「外環道のような工事管理ミスはしない」と説明したが、住民の不信感は深まった。

大深度工事のための技術指針では、「100~200m置きにボーリング調査が必要」となっているが、JR東海が実際にボーリングした数は非常に少なく、慎重な工事が必要な地域についての調査結果がない。そのため地質調査が不足し、掘り始めてシールドマシン稼働の不具合、シールド機の不良、コンクリートパネルの壁打ちなどで予定通り作業は進んでいない。

建設残土問題では、川崎市・梶ヶ谷非常口掘削残土140万㎥を貨車で川崎港まで運び、東扇島堀込部の埋立てに利用するが、川崎市は40億円を負担する。また、川崎以外神奈川県内の一部、東京都内のリニア残土600万㎥は横浜港新本牧ふ頭のための埋め立て工事に利用するが、横浜市は200億円を負担する

大深度工事は進めてはならない。

3.北陸新幹線の大深度工事のリスク

榊原 義道氏(北陸新幹線延伸計画の環境アセスの一旦停止を求める会事務局長)

先日、「北陸新幹線延伸計画―巨大トンネルはアカン!一緒に歩こう」パレードに240人が参加して歩いた。京都市内を中心に18以上の「延伸計画の中止を求めるグループ」が作られて活動している。

北陸新幹線京都延伸計画とは、福井県から京都、新大阪まで総距離140kmのうち、80%、112kmをトンネルで貫く地下トンネル路線、そこには7つの問題があると考えている。

① 掘削で出る残土や建設汚泥は880万㎥以上、10t積みダンプカーで160万台以上と言われているが、まともな処理計画を持っていない。
② 掘削土砂に重金属のヒ素が含まれている可能性の高い場所がすでに明らかになっており、京北などでは環境基準の数十倍から100倍近くという猛烈に汚染された土・建設汚泥が出てくる危険性がある。
③ 京都は水盆と言われる水の豊かな都。茶道もお菓子もお酒も豆腐もゆばも地下水を利用している。水が抜ければ、取り返しのつかない被害を発生させる。
④ このルートはどこを通っても京都の活断層を通過する。断層を切断するルートは、大地震が起きた場合に断絶の危険もある。
⑤ 陥没事故の危険がある。
⑥ 2兆1千億円という莫大な建設費がかかるというが、この金額で収まる保証はない。この負担の大部分は国民の税金となる。京都府だけでも数千億円規模の負担となり、耐えられない。
⑦ 並行在来線問題 並行在来線とは「新幹線が完成後、JRが営業面から経営判断して切り離す路線」と定義されているが、北陸新幹線・京都延伸をきっかけに、山陰線や湖西線などの在来線が縮小されることになれば、地域の衰退を招くのは必至。北陸に行くにはサンダーバードなどがあり、その充実こそ求められている。

 三人の方の報告の後、次の議論がありました。
・地権者に対して無補償で事業が行えるのがまかり通るなら、これからはどれも大深度でやられる。
・リニア、外環道、北輪新幹線延伸、それぞれの市民団体の連携が必要だ。
・京都市長選挙で、北陸新幹線延伸白紙撤回の候補者が勝利すれば、この問題は決着する。
・長い間活動して高齢化している。若い人の参加が欲しい。
・事業費が増大する = それは税金が投入されるということだ。みんなの共通の問題だ。他人事として捉えず、自分事として捉えてほしい。

FoEJapanのホームページから過去のシンポジウムをYoutubeで視聴できます。

(文責 城)

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