維新政治の本質~組織化されたポピュリズムの虚像と本質~ 冨田宏治氏講演要旨

投稿者: | 2024年2月16日

 奈良自治体問題研究所第25回総会記念講演 講師 冨田宏治氏(関西学院大学法学部教授)

総会記念講演には、会員28名、非会員1名の29名が参加しました。冨田宏治先生は、日本政治思想史が専門で維新研究の第一人者、大阪自治体問題研究所理事、大阪革新懇代表世話人、原水爆禁止世界大会宣言起草委員長をされており、奈良県にも度々来られて講演されています。維新政治には三つの大罪+④憲法平和の破壊があると講演を始められました。

維新政治の三つの大罪 ① 熟議としての民主主義の破壊

ポスト真実の時代
「事実がもはや重要ではなく、どうでもよくなった状況」「事実は死んだ。事実なんて時代遅れ。重要なのは個々の感情であり、自分が世の中をどう思うかだ。」SNSで自分に都合のよいものだけを流し、聞く時代だと。⇒ 民主主義の根幹である熟議の前提としての事実・真実という価値基準を崩壊させた時代

第25回総会で講演する冨田宏治氏

維新は空気のように嘘を吐く
・1回目の大阪都構想住民投票時、大阪市を廃止するのに「大阪市における特別区の設置」として、まるで大阪市が残るかのような誤解を与える投票用紙を用いた。
・「大阪では私立高校を完全無償化する」という嘘 所得制限590万円がある!まるで言ったもの勝ちの世界。

多数決は究極の民主主義か?
・大阪都構想住民投票では、問題を単純化し、「白か黒か」の選択を市民に迫った。
・議論すればウソがばれる。議論するのは無駄。議員を減らして、議論させずに多数決で決める。
・都構想住民投票は2回も強行したのに、「カジノの賛否を問う・・・直接請求」は即日否決した。

維新のウソを暴くのは大切だが、それだけでは勝てない。公共の再生をもっと前面に!

維新政治の三つの大罪 ② くらし・いのち・教育の破壊

新自由主義的緊縮政策の絵に描いたような失敗
・「財政再建」のための「緊縮」政策の名目で、福祉・教育・子育て・医療予算を大幅にカット 中小企業への補助金も、文楽、オーケストラへの補助金もカットした。
7年間で1,551億円の削減
・大阪府の税収は、2007年度1兆4,260億円→2014年度1兆2,021億円へ減少した。 年間2,000億円の税収減  中小企業への補助金をカットした結果、法人事業税が減少した。この2,000億円の税収減をカバーしようと、都構想、市から府へ2,000億円の財源移譲を企んだ。
・大阪府の負債残高は、2007年度→2014年度 7年間で6,000億円の借金が増えた。
 兵庫県も堺市も財政緊急事態宣言を出そうとしているが、出せば結果として緊急の事態を招く。現実は健全なのに、緊縮政策をすることで、結果として緊急事態にしてしまうだろう。

大阪維新に殺される
・コロナに感染しても自宅療養させられる。2021年5月の3度目の緊急事態宣言時、大阪府の自宅療養者数は13,650人、この時の宿泊療養施設利用率は48.2%だった。そして重症者数が重症病床数を上回り、死者数が急増していった。
・全国の100万人当たりの死亡者数は218人、大阪府は515人、大阪市は660人。殺された!

大阪における医療崩壊の原因は?
・「大阪維新プログラム」で府内の医療機関を徹底的にリストラした。赤字の施設は廃止、黒字の施設は民間へ。府立病院の予算を大幅削減、大阪赤十字病院等への補助金廃止、府立健康科学センター廃止・・・。これが大阪の医療崩壊の原因だ!
・橋下は「有事の際の切り替えプランを用意していなかった」と言い訳しているが、医療、公衆衛生、防災等は平時から有事に備えるものだ。
・「改革の実績」と誇る公務員削減 2007年~2019年で大阪の医師・看護師など病院職員は50.4%削減(全国平均の8.1倍削減)、大阪の衛生行政職員は24.1%削減(全国平均の1.6倍削減)した。大阪の保健師数は全国ワースト2、全国平均の6割しかいない。

cf 2022 年 5 月 3 日奈良県立医科大学県民健康増進支援センターの研究グループは、全国都道府県別の人口当たりの保健師数と新型コロナウイルス感染症の新規感染者の割合(罹患率)について同時点の統計資料に基づいて分析(横断面分析)し、人口当たりの保健師数が多い都道府県は、新型コロナウイルス感染症にかかる人の割合が低いことを発表した。

 教育現場の荒廃と教員の疲弊  背景には深刻な子どもの貧困が
・暴力行為発生件数、不登校児童生徒数が増加している。
・大阪市立高校は全て府立高校に移管された。定員割れの高校は廃校へ、浮いた金で私立高校無償化。
・子どもの貧困率は21.8%、全国ワースト2。
・大阪市の子どもの1/4が、給食がないと一日一食しか食べないと言われている。
・貧困を放置していることが、教育の荒廃に繋がっている。

万博は「維新」のアキレス腱 (その1)
・「身を切る改革」はどこへ行った? 万博に投入される国費 1,647億円 会場に関係するインフラ整備費 8,390億円 関連費用は総額14.1兆円!
・パビリオン建設は手付かず
・「空飛ぶ車」も飛ばない 
 万博を隠れ蓑にして、公共事業を前倒しにする。ゼネコンの金儲けを確保している。 現場の労働者の奪い合いが起こっている。
 万博、辺野古・・・ 資材、ヒト、カネを能登にまわせ!

奈良県知事に「維新」公認・山下氏が当選
公約は、
・徹底した行財政改革・新しい誇りある奈良県をつくるための「三つの責任」  県民や事業者の安心と暮らしへの責任、奈良県の子ども、若者の未来への責任  豊かで活力ある奈良県を創る責任
 この1年弱で、
・大規模広域防災拠点計画の見直し 2,000m滑走路 → メガソーラ・大和平野中央田園都市構想の見直し 県立工科大学、サッカー場・・→ 運転免許センター・・
・私立高校授業料無償化へ、「進学教育重点校」4校指定
・「身を切る改革」知事の退職金辞退

万博は「維新」のアキレス腱 (その2)
夢洲は、ゴミの埋め立て地(淀川河口しゅんせつ土(重金属、PCB、ベンゼン等)、産業廃棄物、建設残土、焼却灰(ダイオキシン))、マヨネーズ状の軟弱地盤、交通手段、電気、水道、下水道等インフラが未整備であり、万博にふさわしい土地ではない。
ではなぜ夢洲なのか? IR = カジノのためのインフラ整備でしかない。夢洲は「負の遺産」ではなく、優良資産だ。どんどん沈下するのでどんどんゴミを捨てられる所だ。

講演する冨田宏治氏

「維新」を監視する視点
・維新は「財政緊急事態宣言」を出して、福祉・教育・子育て・医療予算を大幅にカットしてきたが、本当に財政危機なのかよく研究し、財政支出削減が税収を減少させないかよく検討すること。
・利権の付け替えをしていないのか調べること。  大阪区役所の窓口はパソナ(竹中平蔵がパソナ会長、大阪市顧問) 大阪ワクチンのアンジェス(森下教授、補助金93億円ドブに捨て)、イソジン
藤原工業(森友学園、公共事業の受注増加) 莫大な万博利権
・私立高校無償化の財源はどこから来ているのか  公立高校の削減 定員未充足は廃校 2022年までに17校廃校済、2028年までに9校廃校予定 私学助成の縮小
・知事の退職金廃止する一方で退職金の月給への上乗せはないか

 「身を切る改革」が「民を切る改革」になっていないか、よく注意すること。

維新政治の三つの大罪 ③ 市民の分断とコミュニティの破壊

維新政治の本質は、市民を分断し、その分断を組織化・固定化すること
貧困と格差の拡大に直面する大阪の街を背景に、住民の間に生じていた分断を顕在化させた。中堅サラリーマン層・自営業者の「勝ち組」的気分感情に対して、ポリュリスト的煽りを行った。税保険料を多額に負担しているのに何の恩恵も受けていない。全部あいつ等に使われていると。
維新は、「経済的弱者(負担の割に見返りが少ないと思っている者)の味方」、「一般人(組織に属さず、既得権益を持たない)」の感覚に近いというイメージを自らつくってきた。
 そして、繰り返される選挙・住民投票を通じて、分断の組織化と固定化を行い、維新をモンスター的集票マシンにした。維新の票はガチガチの組織票になった。

モンスター的集票マシンとどう対峙するか
・大阪では維新は絶対得票率30%、これとどう対峙するか。➡1対1の構図をつくり、投票率60%以上に引き上げるしかない。
・「路地裏を主戦場」とした路地裏対話を続ける。  
 2回目の大阪都構想住民投票 路地裏を主戦場とした対話戦で勝利した。
・生きづらさを抱かえる人びとにどう寄り添うのか。

投票から遠ざかっている人びとに投票に足を向けてもらうには?
・国民の2割 = 2,000万人の大量棄権層 2009年の総選挙(投票率69%)で民主党に投票し、政権交代を実現したが、民主党政権に失望して棄権へ。  ➡政治に失望した人々に希望の灯をいかにして点すか
・国民の3割 = 3,000万人の無関心層 そのうちの何割かは、政治に関心を持つ余裕さえ奪われ、明日の暮ら  しに常に不安を抱いている人びと  ➡生きづらさに寄り添う政治が必要

政治に関心を持つ余裕や「ゆとり」さえ奪われた人びとにどう寄り添うか?
貧困と格差の拡大の中で、明日への不安に常にさらされている人々。生活保護を受給していると言えば差別される、じっと隠していかなければならない社会。人間の価値を生産性で測る社会は生きづらい。金を稼ぐだけが人間の価値基準ではない。 生きづらさを抱かえた人びとにどう寄り添うか。政治は財の再分配、再分配をこそ使命とする政治が本当の政治、本来的な優しい政治だ。そのような政治をどう具体的に提案していけるか考えなければならないと話されました。

 先生の講演の後、多くの質問、意見が出され、先生は次のように答えられました。 なぜ奈良の田舎町でも維新が伸びるのかについて、維新は基本的には都市型政党で、田舎農村に金が行くのは嫌だと思っている。意識的に分断をつくる。分断理由は何でもよい、都市―農村、老人―若者の世代間、労働組合員か否か・・。 何回も選挙して票が固定する。その時はきちっと票割りしてくるだろう。 万博・カジノにはどれぐらい金がかかるか分からない。中止しかない。

文責 城

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