「奈良モデル」と県域水道一体化計画

投稿者: | 2023年10月27日

9月16日、自治体問題研究所と自治労連・地方自治問題研究機構共催の第33次地制調合同研究会(シンポジウム)がオンラインで開催されました。

「分権改革」の30年を問う ―軍事国家化と地方自治のゆくえ」をメインテーマに、①国が1990年代より進めてきた「分権改革」30年の歴史を俯瞰して、地方自治の視点で到達点と問題点、課題を明らかにする。②軍事国家化、「非平時」と中央集権化、デジタル化と監視国家化、地域医療再編、福祉の自己責任化など、国が進めている地域・自治体戦略の問題を明らかにし、憲法と地方自治をいかす視点で対抗軸を探る。③最終答申に向けた第33次地制調の審議内容を見据え、今後の合同研究会の研究課題を考えることを目的に開催されましたものです。

※【 地制調 地方制度調査会 とは】 日本国憲法の理念を十分に具現するように、現行地方制度に全般的な検討を加えることを目的として設置され、内閣総理大臣の諮問に応じ、地方制度に関する重要事項を調査審議することを任務とする調査会。

このシンポジウムで、平岡和久・立命館大学教授が「地方財政と広域化について」発言されました。そのなかで、「奈良モデルと県域水道一体化」について触れられましたので、その個所を紹介します。なお、平岡先生は、昨年8月9日~10日に自治労連・地方自治問題研究機構・地方財政研究会主催の県域水道一体化の現地調査に調査団長として参加され、報告もされています。

「奈良モデル」

・自治体戦略2040構想研究会第二次報告で都道府県による市町村の補完の事例として「奈良モデル」が紹介され、「二層制の柔軟化」論へつながった。
・「奈良モデル」は、32次地制調答申における「協働的手法」(県・市町村による一体的な行政サービスの提供)の事例として位置づけられた。

「奈良モデル」と県域水道一体化計画

・県域水道一体化を「奈良モデル」の一環として位置付ける。
・「奈良モデル」としては、当初はファシリティマネジメントの推進が位置付け。県が市町村水道事業の経営分析を行い、県営水道の活用を提案するなかで、県営水道100%に転換する市町村が増加。こうして県水100%の15市町村が経営統合し、最終的には事業統合も視野に入れた改革方向が確立。
・2017年になるとさらに踏み込んだ改革として県域水道一体化を提起。その背景には、施設に関する建設投資の合理化を図るためには事業統合が必要との判断。
・背景の一つに高度経済成長と人口増を見込んで計画された大滝ダムの建設費と水供給能力の増大。水需要の減少のなかで県水の供給先の拡大の課題が重視される。
・ファシリティマネジメントの推進により、県水の受水100%の市町村が増加したが、県水の供給能力を最大限活かしながら、県域全体の施設に関する建設投資を合理化するためには、奈良市を含む県北部のエリアを県域水道一体化エリアとして事業統合を図ることが最も合理的であると判断されたものである。

県域水道一体化計画からみる「奈良モデル」の評価

・水道に関する市町村自治の「喪失」。住民自治が機能せず。
・県に運命を預けることになり、「離脱」、自治の回復がきわめて困難に
・財政誘導が意思決定に大きく影響
・国の水道広域化推進策の影響
・「横並び」の構図とともに県と市町村のパワーのアンバランスが影響
・以上にもかかわらず、奈良市と葛城市が不参加を決定できた背景には、当然のことながら「奈良モデル」が市町村自治を尊重するという建前をとっており、「協働的手法」といえども市町村の自主性を踏まえた県による補完
・支援という枠組みになっていることがある。
・なお、「奈良モデル」は多岐にわたっており、県域水道一体化のみから全体を評価できないのは言うまでもない。

「協働的手法」の評価をめぐって

・「協働的な手法」の対象は主に任意性の強い事業・サービスであり、市町村自治を尊重した自治体間連携や県による連携・補完・支援が可能。
・一方では、県と市町村とのパワーのアンバランスを背景に県の政策を市町村に押しつける可能性あり
・国が進める地方行財政の合理化において、市町村合併や法定による役割分担による方法以外の手法として「協働的な手法」が位置づけられ、その執行機関として県が役割を担う可能性あり。
・「協働的な手法」には住民や議会によるコントロールが困難であり、地域の総合性の観点からの検討や住民合意のプロセスの確保をどう図っていくかが課題である。

(講演の)まとめに代えて

・「戦争できる国づくり」に向けた地方制度改革や地方行財政合理化策は地方自治の基盤を掘り崩してきたが、必ずしも全面的には成功していない。
・地方創生政策を中心とした「産めよ増やせよ」政策も失敗した。
・一方、DX、GXの決定的な遅れと日本経済の低迷がある。
・財政赤字と円安のなかで軍拡に傾斜しており、財政拡大は限界となっている。
・現在、重点置かれているのが、都道府県を執行単位とした広域化・共同化策と、ガバメントクラウドおよびマイナカードを中心とした行政・社会のデジタル化。
・これらを遮二無二推し進めれば、地方自治の「空洞化」と住民生活の悪化がすすむ。

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