第65回自治体学校in岡山、参加報告 清家康男(弁護士)

投稿者: | 2023年8月21日

7月22日から24日まで岡山市で自治体学校が開催されました。

  22日は中山徹全国研理事長による記念講演「厳しさが増す自治体を巡る状況 ではどうすればいいのか?」で始まりました。まず中山理事長は、安保3文書の改定により軍事費の大幅増額が政府の既定路線となり、その分社会保障費、教育費の減少が予想される。社会保障費は地域経済に関する効果が大きいが、防衛費は波及効果が少ないため、地域経済に深刻な影響があることが予想される。このような状況で地域の暮らしと経済を守るためには政治が変わらなければならないと述べました。

 その上で、政治が変わるためには投票率を上げることが必要であるが、そのためには、①「原因がどこにあり、どうすれば変えることができるのか」具体的に政策を示し、②「どのような政治勢力が伸びれば新たな政策を実行できるのか」政策の主体を明示し、③その政策と主体を女性や若者に伝えることの3つが必要であるとしました。

 2つめの記念講演は、岸本聡子杉並区長「地域の主権を大切に、ミュニシパリズムの広がり」で、ミュニシパリズムとは、地域に根差した自治的な民主主義による合意を目指す運動で、行き過ぎた市場化、民営化で失われた公共財(コモンズ)を取り戻し、公共の再生を図ることを目標としています。ミュニシパリズムには①住民運動②地方政治③地域経済の3要素があり、住民運動の母体が地域に根差した政党を作って地方政治に進出し、地方政治の方向を変えて地域経済の向上を目指し、向上した地域経済が運動にはずみを与えるという3要素の好循環が目指されています。

 具体例として岸本区長が挙げたバルセロナでは、公共空間を人間中心に再編成し、住宅政策に力を入れて公営住宅を建設して、全ての人に必要な住宅の提供を公の責任としています。また、岸本区長は「地域経済の民主化」のテーマとして脱炭素政策、ケア中心社会の構築2つを挙げ人間を中心とした経済を地域で作ることを訴えました。

 2日目の23日は10の分科会、2つの講座が開かれ、私は分科会「住民とともに進める持続可能な地域づくり」に参加しました。

 午前中は、分科会の助言者である関耕平島根大学法文学部教授が第2次安倍政権発足時の「地方創生」政策を振り返り、当時の石破地方創生相の発言を引用しつつ、政府から「やる気も知恵もない」と自治体が一方的に判定されれば見捨てられる「地方創生」=「地方早世」であったと批判し、当時Iターン人口の多さで注目を集めた島根県海士町について、町が苦心して色々な補助金を獲得したことが政策の基盤になっているものであり、地域の再生には財源保障が重要であることを裏付けるものと位置づけ、①公共部門の縮減に対しては地域のニーズに即して拡充も含めた支援と公共部門の役割の強化と公共事業に偏重した地方への再分配を改めて、医療、福祉、介護という準公共部門による多様な資金チャンネルを通じて地域経済に資金を還流し地域内経済循環を生み出すこと、②地域の自律的取組支援への財源保障、③共助を強制するのではなく、地域住民の自己決定を保障し公共部門が担いてとなる公助も拡充する必要があることを述べました。

関教授のお話の後、島根県美郷町の儲かる農業を掲げる町長に対し家族・有機農業を対置する町会議員の実践、倉敷市水島地区で「公害」の歴史を踏まえた環境再生のまちづくりに取り組む「みずしま財団」、出雲市佐田町の農村事業による地域振興の実積報告があり、午後にはその他の各地からの発言が相次ぎました。各地からの発言で多く見られたのは、どの自治体でも若年者の人口を増やすための施策を行っているが思うように増えないこと、まちづくりには拠点となる公民館や小学校の施設が必要であるが、これらの施設の統廃合が進められていることでした。また、高知県本山町の町会議員から「公民館活動が市民自治の中心」との考えから、自分で「私設公民館」をつくり、図書コーナーを設けたりこども食堂に場所を提供したりして市民が気軽に通える場所を目指しているとの報告がなされ、分科会参加者の関心を集めていました。

 3日目は2つの特別講演があり、始めは本多滝夫教授「暮らしから考える自治体行政のデジタル化」で、政府が自治体行政のデジタル化を進める理由の一つは行政手続のオンライン化であり、これ自体は住民の利便性の向上になり得るし、自治体行政にとっても必要な業務改善であるが、他方で政府は基幹系20業務(住民基本台帳、児童手当、住民税関連生活保護、介護保険、国保その他)について、政府が指定する、自治体が共通利用するクラウドの上に各ベンダーが標準仕様に準拠したアプリケーションを構築し、自治体はその中から選択するだけなので、窓口対応する職員の削減や、各自治体の独自の事務用システムも廃止され地域経済への影響があり得ることや、システムによって自治体事務の内容が左右される結果、地域の課題解決のための住民要望が、新しいサービスの創出が認められないなど、住民サービスそのものへの影響もあり得ること、自治体の情報システムと民間事業者の情報システムの連携が目論まれており、住民情報が営利目的に転用されかねないこと、収集された膨大な個人データが平時には政府に都合の良い住民の行動変容の促進、非常時には住民監視に悪用されかねない懸念が示されました。そして、行き過ぎたデジタル化を防ぐためにマイナカードの市民カード化の阻止、検査業務等におけるデジタル代替ではなくリアルな検査等の維持の必要を訴えました。

 2つ目の特別講演は岡山県真庭市長による「地方自治体が直面する課題への挑戦」で、市長は、
地域を真に豊かにすることとは市民一人一人の幸せを実現することであり、そのための地域の魅力を増進することが自治体の役割であると位置づけ、地域資源を生かして「回る経済」を確立するために、大学等の研究機関の協力を得てバイオマス発電所を中心に林業、製材業と連携し、生ごみやし尿等もたい肥化して農業に利用する事業、多彩な地域の個性を育てるための「真庭なりわい塾」などの実践を紹介しました。

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