幼児教育・保育の無償化は保育需要の増大へ-奈良市ニーズ調査から見えること

投稿者: | 2020年2月4日

事務局 竹本嘉雄氏(奈良県保育運動連絡協議会)

幼児教育・保育の無償化(3才以上児+住民税非課税所帯の0~2歳児)を内容とする子ども・子育て支援法の一部改正案は5月10日参議院本会議でも可決され成立しました。翌日の奈良新聞の記事は「安全面を中心とする保育の質の確保が課題」「実務を担う自治体の混乱も懸念される」と不安な内容に言及しています。

幼児教育・保育の無償化については様々な問題点が指摘されており、当研究所でも昨年11月17日中山徹奈良大学教授を講師に学習会を開催したところです。(概要はならの住民と自治NO・309)問題のひとつとして、先行して無償化を実施した自治体の結果から、無償化は新たな保育需要を掘り起こすのではないかといわれていました。

奈良市は2018年12月に、奈良市こどもにやさしいまちづくりプランの次期プラン(計画期間2020年~2024年)の策定に向けてニーズ調査を実施していましたが、その結果を19年5月21日に公表しました。(奈良市子育てに関するニーズ調査 調査結果報告書 奈良市ホームページ) 今回の調査は国の保育・教育の無償化が実施された場合の、現在の保育の利用や就労状況の変化等も含んでいます。奈良市のニーズ調査の結果を紹介するとともに、注目をしておきたいと思います。

子ども・子育て支援事業計画の策定

ニーズ調査の調査対象は 〇就学前0歳から2歳の子どもの保護者、1,000 人 〇就学前3歳から5歳の子どもの保護者、1,000 人 それに〇小学生(2年生・5年生)の子どもの保護者、2,029 人と〇母子健康手帳交付者 223人ですが 就学前の子どもの保護者には郵送配布を行い合わせて1,024通(回答率51.2%)となっています。

このプランは、子ども・子育て支援法第61条で、自治体に策定を義務づけられた子ども・子育て支援事業計画(以下 事業計画)の奈良市版で、国の指針では事業計画は5年を 一期として、①教育・保育の提供にかかわる計画 ②地域子ども‥子育て支援事業の需給計画 の2つを主な内容とした実施計画を求めています。

奈良市は第1期の計画策定にあたって平成25年9月25日からニーズ調査を実施し、又、第1期の中間年の見直しあたっては平成29年7月13日からもニーズ調査を実施しており、今回の調査結果報告書はこの3回の調査結果を同じグラフで、時系列で並べているためわかりやすいものとなっています。

この調査結果を基礎資料として2019年度中に第2期の「量の見込み」と提供体制(確保の内容と実施時期)を策定することになっており、すべての自治体で事業計画が作成されています。

急速に増加する母親の就労

母親の就労状況

驚いたのは、母親の就労がここ1年間に前の調査に比べてもさらに増加していることです。特に0~2歳で著しい増加を示しています。報告書のグラフから「就労している」の増加率と「現在は就労していない」の減少率を計算してみますと

〇就労している(育休等含む)
     25年調査  29年調査  増加率  30年調査  増加率
       A     B    (B/A)-1    C   (C/B)-1   
0~2歳  42.7%   51.2%   19.9%   58.3%  13.9%
3~5歳  45.3%   58.1%   28.3%   63.2%  8.8%

25年→29年の4年間に0~2歳で19.9%増加(平均すると1年間に5.0%)に対し29年→30年の1年間に13.9%増加しており、同じく3~5歳では25年→29年の4年間の平均7.1%増加に対し29年→30年で8.8%の増加率となっています。

〇以前は就労していたが現在は就労していない
     25年調査  29年調査  増加率  30年調査  増加率
       A     B    (B/A)-1    C   (C/B)-1   
0~2歳  52.8%   44.7%   △15.3%  40.3%  △4.4%
3~5歳  47.7%   39.2%   △17.2%  32.9%  △6.6%

25年→29年の4年間に0~2歳で15.3%減少(平均すると1年間に3.8%)に対し29年→30年の1年間に4.4%減少しており、同じく3~5歳では25年→29年の4年間の平均4.3%減少に対し29年→30年で6.6%の減少率となっています。

〇就労したことがない
  29年度調査で 0~2歳で3.5% → 30年調査で1.2%
          3~5歳で2.8% →       3.3%

<B市の事例>
●29年度から全年齢区分で無償化を実施している。その結果、支給認定者数は増加している。
【参考】2号認定者数の推移
H27年 1,479人 H28年 1,409人 H 29年 1,682人 H30年 1,759人
●H29年度とH30年度の人口を比較すると、総数については△121人の減少である一方で、0~5歳人口に限定すると+128人の増加となっている。

<A市の事例>
●今年度から4・5歳児の無償かを実施しているが、現状において、無償化の保育需要への影響は分析できていない。
●認可外保育施設も対象としており、その補助金支給(個人への年1回の償還払い)に係る事務量は増えている。

現在は「定期的な教育・保育事業」を利用していない人のうち、新たに教育・保育施設を利用したいかどうか。:問7-13

保護者の方の就労状況が変わるかどうか。:問7-15

無償化先行自治体では保育需要が増大

18年8月 中核市市長会は「幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置等に関する緊急提言」を行い、そのなかで無償化の充実は潜在的な保育需要を掘り起こすとしてその財源確保を求めています。中核市市長会の配布資料のなかで無償化先行実施団体に対するヒアリングの結果としてB市の事例をあげていました。

大阪府守口市は17年(平成29年)4月から幼児教育・保育の無償化を全ての年齢で実施しています。守口市のホームページから無償化の前後で支給認定割合の推移の資料を探してみました。

守口市の子ども・子育て支援事業計画 量の見込みと確保方策の中間年の見直しについて(17年11月17日)

守口市の子ども・子育て支援事業計画より

無償化を実施して半年目の17年(平成29年)10月と実施前の16年(平成28年4月)の0~5歳の児童数は51人の増でほとんど変わっていませんが、支給認定数は合計で599人(14.9%)増加しています。内訳として、3号認定(保育)の0歳では200人(98.0%)増 1~2歳では318人(34.5%増)、2号認定(保育3~5歳)では350人(24.8%)増 1号認定(教育3~5歳)では269人(18.1%)減となっています。保育を要する0歳~2歳で大幅に増え、3~5歳でも1号認定(教育)の20%近くが2号認定に移るとともにそれ以上に増えています。

ここで留意しておきたいのは1号認定と2・3号認定では認定のしくみが異なるということです。2・3号認定されるには「両親がはたらいている」など「保育の必要な事由」に該当することが必要です。守口市の資料はニーズ量ではなく、保護者が自治体に申請して認定されたという数値ということを見ておく必要があると思います。

児童数の減少を超えて保育需要の増加が予想される…

奈良市ではニーズ調査の結果を受けて次期こどもにやさしいまちづくりプランが19年度中には策定されると思います。19年3月1日の奈良市の0~5歳の住民基本台帳上の人数(3月市議会配布資料 奈良市ホームページ)は、1歳は5歳に比べ12.6%減少しています。

今回の教育・保育の無償化は0~2歳では住民税非課税所帯に限られています。しかし保育需要は急速に増大していることを、特に0~2歳で大きく、3~5歳でも1号から2号への移行が起こることをニーズ調査の結果は示していると思います。

18年(平成30年)3月に見直された19年度(平成31年度)の確保量は次のようでした。

19年3月の保育所待機児童数は0歳 169人 1~2歳 65人 3~5歳 9人 合計243人(同 配布資料)とされています。年度が変わった19年4月の待機児童数は不明ですが、18年4月では76名となっています。

職員の処遇改善が緊急に必要 公設公営の堅持を

保育者がますます足りなくなることが目に見えています。施設は用意できても、保育者が足りないので定員枠までの子どもを募集できない。県内外の自治体でこの話はよく聞きます。奈良市の公立保育所でも臨時保育士の募集を通年行っているように思われます。民間保育園では保育士の採用はさらに困難で問題が山積していると聞いています。 保育者が長く勤務できるよう給与・賃金の引き上げや超勤・持ち帰り残業をなくす等の労働条件の改善、職員定数の改善、そして障害のある子どもへも対応等の配置基準の加算が緊急に急がれます。受け皿の確保は民間保育園に頼るのではなく、市が直接子育てに責任を負う公立施設を中心とするべきであることを、ニーズ調査の結果はまた示しているのではないでしょうか。