奈良市の水道を守る運動に参加して

投稿者: | 2022年11月15日

奈良自治労連特別執行委員 小峠憲司

はじめに

 2022年10月4日に奈良市長が奈良市は県域水道一体化に入らないと記者会見で表明しました。県域水道一体化に反対してきた私たちにとって大きな前進でした。県内の30%の水を使用する奈良市が入らないことを表明するにあたり、県下の市町村長からの引き留め工作よりも、市民の奈良市の水を守りたいとの熱意が市長の決断を促したのでしょう。残っている市町村に対しても働きかけを強める必要がありますが、「奈良市の水道を守るという大きな運動」が一段落しましたので、私なりの思いをつづります。

市町村サミットから

 県域水道一体化の話が出てくるのは、2010年の市町村サミットで、奈良モデルとして73業務の一つとして水道運営の連携を選定しています。翌年の2011年には、県域水道ビジョンを策定しています。これが県域水道一体化の原型です。この先、県は作業を進めていきます。

奈良市東部山間のコンセッション計画

 2016年に全国で最初の事例として、奈良市の東部山間地域の上下水道コンセッション計画が持ち上がりました。奈良市水道労組は奈良自治労連の傘下の組合です。この問題を深めるために、自治労連の関連団体である近畿水問題合同研究会が2018年に全国規模で「第27回水と暮らしの110番シンポジウム」を奈良で開催することになりました。このシンポジウムで、奈良市東部山間地域のコンセッション計画の問題点を奈良市水道労組が発表し、ほとんど知られていない県域水道一体化の問題点を小峠が報告しました。市町村サミットの内容はほとんど外部に出てこなくて、一部の人間に限られていましたので、水道一体化の報告をした時には、そんな計画があるの?と驚きの声が多かったようでした。その後、奈良市の東部山間地域のコンセッション計画は議会で否決されました。

奈良自治労連の立場

 奈良自治労連として、県域水道一体化は、①経費削減として市町の浄水場を廃止し、個々の優良な水源を取り上げ、3カ所の浄水場に集約する計画で、大規模災害時の断水のリスクを増大させる計画です。②過大なダムの取水権を持つ県水を守るため、高い水道水を県民に押し付け、③文句を言われないように企業団にしてしまう計画です。④企業団にまとめてしまえば民営化は簡単です。⑤水道法改正の先取り。であるので、反対運動を進めると決定しました。 以降、学習会の要請があれば講師を派遣することにしました。

学習会

最初に話がありましたのは、19年1月26日奈良自治体問題研究所総会でした。次に、3月2日に葛城市でシンポジウムが開催されました。葛城市は県下随一の安い料金で運営している市です。市の水道事業に関する計画はきちっとしていました。11月に共産党の議員研修会に呼んでいただきました。20年9月には県会で山村議員が代表質問で問題点を指摘しています。11月には田原本町で学習会がありました。

反対運動のはじまり

 奈良市で大きな動きが出てきたのが、20年11月26日に教育会館の大会議室で「県域水道一体化を考えるつどい」を開催し、井上議員・小峠・奈水労役員が発言しました。ここで「奈良市水道問題を考える会」が結成され、問題点を市民に知らせ、署名も集めることが採択されました。12月1日には構成10団体と個人署名を奈良市長に提出しました。続いて、3日には市庁舎前で集会を行い、60名が参加しました。新聞も取り上げ、市民にアピールしました。

21年1月25日覚書の締結

 水道サミット(20年8・11月)で、資産引継ぎの考え方、更新投資の考え方、覚書(案)などがだされ、21年1月に覚書が27市町村の参加で締結されました。
大和郡山市は、「関係団体が所有する水道事業活動に伴い生み出された資産等は、企業団にすべて引き継ぐものとされているが、各市町村の有する資産等には大きな違いがあることから、持ち寄る資産等に一定のルールを定めて統合すべきであると考える。」として、覚書に参加しませんでした。このようなまっとうな市町村の意見を聞き入れない県の姿勢は上から目線しかありません。

早まった統合計画

・従来の統合計画では、2026年上水道の経営統合(県・市町村で経営母体設立)⇒10年以内上水道の事業統合(浄水場の集約・料金統一) 
・新しい計画では、2024年企業団設立、2025年事業統合(料金統一)と大幅に早まっています。

反対運動の広がり

 覚書締結のニュースなどで、危機感を持たれたのか、今まで知らなかったグループなどからも学習会の依頼があるようになりました。21年4月には、ジャーナリストの浅野詠子さんの講演会を開くなどの動きが出てきました。また、共産党はユーチューブで配信するから喋ってくれとか、今までにない取り組みが増えてきました。ところが考える会の署名は21年5月で4433筆と伸び悩んでいました。

市民フォーラムの結成

 6月になり、1区市民連合と考える会が合わさって、「奈良市の水問題を考える市民フォーラム」が結成されました。7月の市長・市議会議員選挙には市民フォーラムから公開質問状を出し、結果を記者会見しています。7月の自治体学校の水分科会では、奈良市水道労組の役員が、報告をし、全国に発信しています。

締結に積極的だった市長ですが、統合に向けて県に3項目の要求(①全ての市町村が一体化メリットを受けること ②上下水道一体運営を継続すること ③下水道事業に対する県負担の拡充)を出しました。素直に見ると、この条件では統合はできないと多くの人が思ったと思います。チャンス!
市長は22年1月の第2回設立準備協議会を欠席しました。

情勢はこちらの方に向いてきているのに、運動がなかなか進まないジレンマがありました。2月28日に署名を提出しましたが、895筆合計で5326筆です。

運動の転換・広がり

 運動の範囲が今までのところからほとんど出ていない。はてどうするか?
自治労連は水問題で全国色々なところで、活動しています。その中で、大阪市の水道民営化をストップさせたAMネットの武田さんに協力してもらおうとなり、さっそく連絡しました。気持ちよく引き受けていただけました。
 運動を進めていくうえで、避けて通れないのが資金です。市民運動ではカンパで賄うのが常ですが、これでは時の間に合いません。奈良自治労連では組織討議を経て、特別闘争資金を発動することに決定しました。会場費やビラ代を気にせずに活動を広げることができます。「お金のことを心配しないで活動できるのは初めてや!」と感謝されました。
  今の奈良自治労連の力量では、組合員が直接市民の中に入って中心的に活動するのは少し心もとない所です。労働組合が資金を提供して、市民団体の後押しができて、全体として運動が進んでいくことが素晴らしいことです。

「奈良市の水道問題を考える市民フォーラム」は、以前から取組んでいる「奈良市水道問題を考える会」の西本守直さんと、1区市民連合の八木健彦さん、佐川愛子さんが中心となって、アドバイザー的にAMネットの武田かおりさんに座っていただきました。 4月17日に文化会館小ホールで行った学習会で、早速武田さんに登壇していただき「これは勝てる闘いだ」と題して闘いの進め方を分かりやすく説明していただきました。

運動の進め方

 どのように運動を進めていくのか? いろいろな府県で活動してきた武田さんには、どのように映ったのでしょうか? ・「問題点を市民に宣伝する媒体がお粗末」とは言いませんでしたが ⇒ もっとネットを使いましょう。 ・自分らだけで固まっている。⇒ 垣根を取り払いましょう。 ・市議会を味方につけましょう。 ・一体化反対を押し付けず、問題点を聞いてもらいましょう。等々
 早速ホームページかブログを開設しようとなりましたが、手が上がらないので、仕方なく武田さんにしていただくことになりました。
 水道問題にいち早く取り組んでいたのは共産党でしたので、大変努力していただいていましたが、より広く広げることができませんでした。市民フォーラムには1区市民連合が入っていただいたので、他の立憲政党や各種団体に広げられ輪が大きくなり、また繋がっていきました。

市会議員を味方に

 市議会に対しては、市長がふらふらしていているときは、市議会の勢力関係で決着するので、どれだけの議員をこちらの味方にするのか。会派の賛否の状況、無所属議員のそれぞれの考え方を洗い出す。賛否があやふやな議員にタウンミーティングに出席してもらって、水道問題について議員の考え方を聞く活動を行いました。4カ所していただきました。ご協力いただいた市会議員さんありがとうございました。初めての取組に皆さん大変頑張っていただきました。いい経験になったことだと思います。
また、議会に対して請願書の提出(60人)を組織して、議会始まって以来の出来事となりました。
  市長が一体化について議員や有識者の意見を聞く「市水道問題懇談会」を発足させたので、傍聴者を組織して、市民の関心が高いことをアピールしました。

自治労連本部の協力・援助

 自治労連は組合員の労働条件の前進の活動は当然ですが、もう一つの大きな柱として住民の暮らしのための運動をしています。本部には地方自治問題研究機構という組織があって、大学の研究者と協力して地方自治の研究を進めています。全国で水道事業の広域化や民営化が進められているのですが、奈良県の水道事業一体化を取り上げて分析することになりました。8月9・10日、葛城市、大和郡山市、奈良市、奈良県水道局に、立命館大学の平岡先生を中心にした7名の研究班を派遣して、ヒヤリングを行いました。詳細の結果は後日報告されます。また、市民向けのビラ作成費用も援助してくれました。

熱い思いで93シンポジウム成功へ

9・3シンポジウムのチラシ

 懇談会が8月で終了することから、9月には市長が何らかの発表をすることがあるとみこして、市民総決起の場として9月3日に100年会館で300人規模のシンポジウムを計画しました。当初の計画(反対集会ではなく、ニュートラルな立場での開催⇒市民に情報を広げ、関心を喚起し、市議と市民で考える場を創る)として、県水道局、市企業局、市議数名に講師として登壇してもらうことなどをもくろみましたが、残念ながら県水道局は断ってきました。県が作った計画を県民に説明できないとは何という組織でしょうか。 結局、他の方も出席できなくなり、ジャーナリストの浅野詠子さんと、立命館大学教授の平岡和久さんのお話と、パネルディスカッションを行うことになりました。
  このシンポジウムの成功のためにビラを10,000枚印刷しましたが、もっと配布しようとあと20,000枚追加しました。運動の範囲がどんどん広がっていきました。 当日の参加者は280名で大成功でした。カンパも12万円も集まり、高い会場費も払えました。

こんな反応はじめて

署名用紙チラシ

 市長にアピールするのは署名の数です、署名を広げるため、署名の返信はがき付きのビラを50,000枚印刷して配布をしました。皆さんの協力により、ほぼ全数配布し終わりました。お疲れさまでした。
  配布が始まると、奈良自治労連には署名はがきが続々と返ってきました、1日に50枚を超えるはがきが返ってきていました。一体化の問題点と、100年ブランドの奈良市の水道の存続を願う市民の声が聞こえてくるようでした。
  10月27日に最後の署名を市に提出しました。 全体で10,977筆(内はがき署名613枚1,273筆)でした。ご協力ありがとうございました。

おわりに

 県域水道一体化の問題点について、奈良市が一番分かりやすいので、奈良市の100年ブランドの水道を守れという運動を盛り上げ、市長を市民の側に引っ張ってこられたように思います。 大和郡山市については、市が将来を見越した資金建てをしてきたのを、借金がある市町村のために吐き出せという県の設定には同意できないのは当然のことです。 葛城市のように優良な水源をもち県下1安い水道料金を維持している市に対して、近い将来水源を放棄して、県下同一の高い水道料金にせよとはなんと無茶苦茶なことでしょうか。

県域水道一体化は、県水供給区域にある市町村の浄水場=水源を放棄させ、余っている県水の水だけにすることです。県水の桜井浄水場は活断層の真上にある施設です。大丈夫でしょうか? 一体化され、企業団に統一されたら 企業団の運営はうまくいくのでしょうか?今までであれば、各市町村で、議会で、論議されていましたが、市町村の手を離れてしまいます。
  市町村長さんは水道から手を引きたいのでしょうか? 消防の広域化はうまくいっているのでしょうか? 企業団の議会では、小さな町村は議員すら出せないと言われています。各市町村の意見はどのように企業団に反映されるのでしょうか?

水道法改正で、水道の民営化への道筋がつけられました。外国では30年も前から民営化が行われ、結果として大失敗になっています。民営から再公営に舵を切り替えています。外国の水メジャーの利益が少なくなったので、日本で儲けようとしているのです。一体化しても民営化はしないとの確約が必要です。

 100年間水道を守り抜いた奈良市の様に、今後100年先を見据えて、安心して水が使えるように、今が頑張り時です。

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