第64回自治体学校 in松本  清 家 康 男(弁護士)

投稿者: | 2022年8月14日

長野県松本市で7月23日から25日まで開催された第64回自治体学校に現地参加しましたので、報告します。

第1・・  7月23日

     第1日目は全体会で、中山徹自治体問題研究所理事長と室崎益輝神戸大学名誉教授の2本の記念講演と4本のリレートークが行われました。

  1  中山先生の記念講演は「参院選の結果とこれからの課題」と題し、まず7月10日の参院選について、自民党は1人区で大幅に議席を増やしたが比例区で1議席減らしておりその政策が評価された訳ではなく、野党共闘が機能しなかったことが自民大勝の原因であること、維新の会は比例で躍進したものの、政権に就くためには自公と連立せざるを得ず、そうするとこれまで繰り広げた与党批判との整合性が問われるので、なお展望が開けていないこと、また、改憲政党が3分の2超の議席を占めており、世論も改憲を急げという声は少ないものの自衛隊9条明記案に過半数が賛成する世論調査もあり、今後の動向を注視しなければならない、と総括しました。

    また、地方政治について、国政と比較してその個別性が強調されるが、地方が抱える問題も根本は全国共通であり、地方自治のあり方を抜本的に変える共通した方向性を示す必要があることを強調されました。例えば、先進国で実質賃金が20年来低下しているのは日本のみだが、これは国政における経済政策として新自由主義を採用し、格差が拡大してGDPの半分以上を占める個人消費が低迷していることが原因であるから、国の政策是正が無い限り地方経済の向上も無い、社会保障も同様で自治体の努力だけでは限界があり、むしろ社会保障の経済効果は雇用より大きいから、十分な高齢者福祉と福祉労働者の待遇を改善することにより地元経済にお金が落ちるから、これを地元で循環させたり、日常生活圏(おおよそ小学校区)で日常生活を支える施設、サービスを整備し、バス無料化などで住民の移動手段を支え住民の健康維持を図ることを考えるべきであることを訴えました。
    そして、このようなまちづくりを住民参加で行うことにより、住民も市民として成長する、まちづくりの目標は自覚的市民の形成であると、講演を締めくくられました。

2   室崎先生の記念講演は「大規模災害に備える自治体の課題」で、先生は、自然の力は人間の計り知れないものであるから、「防災」のように人間の力で災害を押さえ込む考えを戒め、自然と共生しつつ災害の緩和を図る「減災」の考えに立つべきだとした上で、災害に対応するための事前の取組、いざというときに災害救助に機能するのは身近なコミュニティであるので、コミュニティの改善、どうすれば人間が行動に移るのか具体的な人間心理に即した手段の検討が大切であると述べられました。
     また、行政について、かつては自治体全職員で災害対策を研究していたが、現在は職員数の減少等で目先の仕事に追われる上、危機管理部局ができたためにそこに任せてしまう状況にあるが、これを改めて全部局で連携を考えると共に地元事業者の協力を引き出せるような横のつながりを作ったり、ボランティアを確保するためにまず身近で無事な人が動けるような態勢づくりが必要であることなどを述べられました。

3   リレートークは、始めに静岡自治労連医療部担当の中村恵美子さんが、コロナ対応病院で働く職員が、コロナ蔓延当初に色々な不安に苦しめられていたところを、組合で学習会を開いたり、県の担当課と交渉して手当支給の改善や宿泊施設療養者の食事改善を実現させたり、地域医療構想で再編・統合の対象となっていた病院の存続を住民アンケート等を生かした市長交渉で実現したことの報告がありました。

     次は名古屋市職労副委員長の塩川智代さんで、名古屋市では保健師の人員が足りず、他部署から人員が回ってきたが代わりにその部署で残業が頻発したり、コロナ対応に追われて乳幼児検診等通常業務ができなくなったりするなどの支障が生じたが、230名もの保健師が日常的に感染症対策に携わっており、地域担当制の力が発揮され、他機関との日常的な連携や社会資源の知識が生かされたこと、市民が「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ための公衆衛生を担う保健所の役割の重要性を述べられました。

     3本目は吹田市職労副委員長の寺坂美香さんで、組合が労使交渉の中で吹田市の市民課業務の委託計画の存在を知ってから、対策会議を立ち上げて学習会や他自治体からの聞き取りを行い、その問題点を公表し、これを受けて「吹田の豊かな公共を取り戻す市民の会」が発足し、市民の会が3万枚の市長宛ハガキ付ビラを配布するなどの宣伝活動を行い、弁護士5人が作成し、賛同者27人の意見書を市や市議会に提出し、計画が提案された2月定例会では議員がハガキや意見書をもとに質問をして、結局全会派が予算削除を求めて市が計画撤回に追い込まれた経過の報告がありました。

    最後は神奈川自治労連書記長の政村修さんが、カジノ誘致反対横浜連絡会から住民投票直接請求運動を経てカジノ反対の市長を誕生させる横浜市民の会の結成、市長選勝利から市民のための横浜市政を進める会への戦いの経過と今後の展望を語りました。

第2・・  7月24日

     2日目は分科会で、私は分科会6「地域循環型経済を実現し自立したまちづくり」に参加しました。

  1  最初に分科会の助言者である小山大介京都橘大学准教授が「循環型地域づくりの重要性と実践例」と題して報告を行いました。はじめに小山先生は、私達は自分達の住む地域のことを以外と知らないが、暮らしの基礎は生活の場としての地域=半径500m圏にあり、これらが集まって地域経済、日本経済、世界経済をつくっており、この地域が豊かでなければ生活も豊かにならない、そして地域経済に目を向けてその方向性を定めるために地域調査が必要不可欠であり、地域調査が政策的な根拠となり、その後押しとなるのが中小企業振興基本条例であり、産業振興会議の設置であるとしました。

     先生がこれまで担われた多くの地域調査の紹介がありましたが、例えば北海道別海町では、これまで酪農の町というイメージがあったが、調査の結果多くの事業主体があることが判明したので、多くの事業主体の連携により一次産品に付加価値を付けることを提言したり、香川県丸亀市では、島嶼部、旧丸亀市、飯山・綾歌地域とでは地域毎の特徴が異なることから、地域の個性に沿って各地域に応じた政策を提言したり、京都府与謝野町では、丹後ちりめんの生産が衰退した現在においても町には地域を支える個性豊かな事業者が多くいることから、このような事業者同士あるいは事業者と米作農家との連携による付加価値創出等を提言したとのことでした。
    政策のポイントは地域内再投資力の強化であり、そのための地域調査では調査に住民や事業者も参加することが重要であると締めくくられました。

2   その後は4つの事例報告で、まず、小山先生が経済調査に携わった与謝野町から与謝野町地域経済分析会議代表の岸辺敬さんが、与謝野町が総合計画策定から産業ビジョン策定委員会による129の行動プログラム作成、5期10年に渉る産業振興会議の詳細な報告しました。

     次に稲葉典昭帯広市議会議員が、コロナ禍における帯広市の経済の現状と中小企業振興条例に基づく施策(市の制度融資、国保料減免、HP上のマルシェ、道の支援制度への上乗せ等)や今後の方向としての十勝バイオマス構想や農産品へ付加価値を付けた製品構想の紹介がありました。

     3つめは渋川北群馬民主商工会の生方大輔さんが、個人資産形成ではなく地域機材活性化促進として住宅リフォーム助成制度を考えて創設するよう繰り返し訴えてついに実現させたり、高崎市が商店リニューアル制度を創設したことを参考に「店舗改装助成制度」創設を働きかけてこれも実現させたり、制度説明会に市担当者を招いて民商会員の参加しやすい午後7時から開催し、市長懇談も民商事務所で午後7時から開催して、会員の声を直接市に届ける工夫をすると共に市との信頼関係を築き、産業振興会議のメンバーに選定されたことが紹介されました。

     最後の事例報告は、長野県大町市美麻地区から菜の花農業生産組合副組合長の種山博茂さんが、中山高原でそば消費拡大のために1971年から始めた新行そば祭りが年々来場者が増えたことから自分達でそばを売り始め、さらに製粉まで拡大し、一方で始めた菜種油もヴァージンオイルを売り始めて好評を得、風穴小屋を活用しそば焼酎を熟成して販売したり、獣害であるイノシシも給食等に提供するなど、色々と付加価値をつけて出荷していることの紹介がされました。

3  事例報告の後は参加者からの質問に小山先生が答える質疑応答となりました。

中小企業振興条例について、まず市民が学習会を行って市民がその重要性を認識し市民がその必要性を広めていくことや、中小企業家同友会の存在の重要性、産業振興会議の設置を入れること、域外企業にも地域への具体的貢献を考えてもらうことが必要であるとしました。
 次に地域経済振興に関し、大きく投資して失敗すると取り返しが効かないので流行に乗るのは危険で あること、例えばプレミアム商品券は振興に機能しないし、買えない人もいることから所得分配機能も限られること、キャッシュレス経済は情報の秘匿性に問題があるし、手数料は中小企業の経常利益率と同じ2%であることもあり、地域経済への利点が考えにくいとの回答でした。

公共調達については、ドイツでは中小企業優先で職員の裁量で地元企業に受注させて市民の税金を自 治体内に落とすようにしている、横浜市は災害時対応は地元企業でなければできないのでこれを考えて地元企業を支援していること、業務委託や指定管理者をしなければならないとしても、まず地元企業に受注させることを考えるべきではないかとのことでした。
  さらに、ある自治体の首長が「ロケツーリズム」に熱中していることを問われ、先生は観光産業は諸 刃の剣であり投資対効果を考えるべきで、京都市に見られるように外部からホテル等が来ても利益が域外に流れるだけであるし、地元自治体に労働力が少なければ外部から働きに来て外部で消費することになるので、移住型民泊など人口規模にあった観光を考えるべきであるとの答えでした。

   終わりの方で小山先生が強調していたのは、究極の地域振興は若い世代に対する子育て支援であり若 い人たちが子育てできる環境を整えれば、次の世代も同じ地域に定着する、マイノリティ支援も同様である、ということでした。このような活発な質疑応答で分科会6は終了しました。

第3・・  7月25日

   最終日は再び全体会で、宮本憲一大阪市立大学名誉教授の記念講演「地球環境の危機と地方自治」と 田開寛太郎松本大学専任講師の特別報告「社会教育から住民自治へ - 松本市の取組」でした。

1  宮本先生は冒頭に現在の3つの危機として、環境破壊、新型コロナによるパンデミック、ロシアによ るウクライナ侵略を引き金として始まった軍事ブロックの対立 = 第3次世界大戦の危機を挙げ、これらの危機を進めた原因はグローバル化を進めた新自由主義であり、これを制御する国際的政治組織がないことであるとし、これらの危機による被害が社会的弱者に集中していることを指摘しました。
  次に、パンデミックの最前線で奮闘したのは地方自治体であったが、環境危機も主体は自治体が担う、 そのことは1992年にリオデジャネイロで開かれた国際環境開発会議で採択された「アジェンダ21」で環境政策への住民参加が定められたこと、温暖化防止には原子力などではなく再生エネルギーを利用すべきであるが、再生エネルギーは事業体として地域経済に貢献するので、自治体が再生エネルギーを積極的に進める利点があることから明らかであると述べ、ドイツではシュタットベルケという自治体が出資する公益事業体や地域の協同組合により再生エネルギーが電源の40%を超えるまでになっていることが紹介されました。
   また、SDGsについても、具体的な資金と事業が民間企業に依存しているため、民間企業の手を出 しやすいところばかりが進展し、肝心な「平和」では国際平和や核問題には触れられておらず、「気候変動」は内容が曖昧になり、「貧困」は体制の問題には触れず金を出せば終わりになってしまっているなど、その限界についても指摘しておられました。

     終わりの方で先生は、21世紀は環境と地方自治の時代であり自治体は再生エネルギーによる内発的発展を目指すべきで、長野県佐久市(32%)、松本市(12%)などの例を挙げて日本でも再生エネルギーを導入しているところが結構あることを指摘し住民参加による自治体主導の再生エネルギー導入を訴えました。ただし再エネ導入が地域破壊に陥らないよう企業開発をコントロールする必要があり、土地利用計画を策定すべきことや炭素税などの環境税を地方税に導入すべきことも指摘されました。

2  田開先生は、松本市において旧町村毎に地区公民館が1館ずつ設置され、現在中央公民館1館、地区 公民館35館が設置され、地区公民館毎に公民館主事が配置され、同じ敷地内に支所・出張所等が併設されて緩やかな連携が取られている現状が紹介されました。
 次に、このように至った歴史として、1970年の主事会結成、自主的な定例研究会の実施、主事会 による「松本市公民館実態白書」の刊行による問題提起とこれを受けた「松本市公民館制度研究委員会報告集」による現実的解決の展望のまとめ、「住民は生涯学習の権利を持ち、その実現の場が公民館であり、そのためにもモノ・ヒト・カネの三位一体の条件整備が必要なこと、そして、住民が主役の自由な社会教育活動のために節度ある適切な教育行政の役割が果たされなくてはならない」(松本テーゼ)の明記、その後の住民主体の生涯学習計画の議論、市民と職員が共同した「松本市生涯学習構想」への展開が述べられました。 そして、公民館を利用した市民の学習の例として、市民がつくる松本市財政白書の会の活動が取り上 げられ、「松本市財政白書Vol.1」や他地域の財政白書からも学んだ「Vol.2」に結実したことが紹介されました。

3 最後の閉会の挨拶では、来年は岡山市で開催されることが披露されました。
                                 以上

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