人口減少とコロナ危機を乗り越え、安心して生活できる地域づくり

投稿者: | 2021年3月16日

日本弁護士会主催シンポジウム

日本弁護士連合会主催の「第63回人権擁護大会第3分科会プレシンポジウム 人口減少とコロナ危機を乗り越え,安心して生活できる地域づくりを考える-日弁連自治体調査報告から-」が2月26日夜ZOOMにより開催されました。魅力あるシンポジウムでしたので、奈良研は奈良自治労連事務所をお借りして参加しました。その概要は次のとおりです。

先ず主催者より、地域の衰退が著しい、地域が豊であってこそ都市も豊かになる、人口減少とコロナ危機を乗り越えて地域の再生をどう図るのかということで特色ある地域の調査を行ったとの説明があり、シンポは、先に5地域の調査報告があり、その後2人のパネルディスカッションがありました。

①神奈川県 小田原市

 小田原市は神奈川県西部の人口19万人の中心都市。SDGS持続可能な地域社会をつくるため、地域コミュニティ組織の育成、地域における「新たな支え合い」を目指すケアタウン構想の取り組みが紹介されました。

②北海道 帯広市、下川町

・帯広市は中小企業振興条例により積極的な中小企業振興策が取られている地域経済の成功例です。中小企業振興条例をつくることが重要、中小企業者と一緒につくることが重要、市域だけでなく十勝全体を考えることも重要、それらを支える市民・中小企業者も重要、信用金庫の役割も重要として行動してきました。成功したプロジェクトの一例として、「フードバレーとかち」 = 十勝の「食」と「農林漁業」を柱とした地域産業政策が紹介されました。

・下川町は過疎化が進む北海道の中でも最も過疎化が進んでいる町の1つで、林業をベースにエネルギーを中心とした地域循環型経済を目指し、振興を図っています。バイオマスを含む森林資源の活用とそれによるエネルギー自給率の向上、集住によるコンパクトタウン化などに取り組み、町の産業連関表を作成しています。平成の大合併では合併を拒否し、今は人口増となっています。

③岡山県 奈義町、西粟倉村

・奈義町は岡山県北東部の町、合計特殊出生率2.81を達成した町です。子育てや移住定住などの施策を複合的に一体として行い、子育て応援宣言をしています。子育て等支援施設なぎチャイルドホーム等が紹介されました。  (奈良研は2016年5月同町を訪問し、役場で説明を受けた後、なぎチャイルドホーム、若者住宅、現代美術館等を見学しました。)

・西粟倉村は地域資源は森林しかないという認識の下、持続可能な林業を目指して「百年の森林」構想を立て、林業のサプライチェーンの構築、再生可能エネルギー自給率100%を目指しています。

奈義町と西粟倉村の共通するところとして、次の点があげられました。
○合併しないことを選択した
○人口減少に危機感を持った
○自分たちの弱みを強みに(発想の転換)
○地域経済の活性化
ナギフトカードと奈義しごとえん(奈義町)
百年の森林構想を核にした各種事業(西粟倉村)

④長野県 阿智村、下條村、泰阜村

・阿智村は中央道恵那山トンネルを抜けた所の町、憲法を暮らしの中で実践し、住民自治を重視して行政が行われています。「住民一人一人の人生の質を高められる、持続可能な発展の村」を掲げ、住民の間で意見が対立する問題については、住民が学習し、その意見の内容を問わず村が支援し、問題の本質を住民の間で共通のものとする。住民投票のような多数決ではなく、住民の学習と認識の共有化により結論を出す。住民同士の協働とそれを支える役場の役割を大切にしています。住民自治の実践として、「地域を基盤にした地域自治組織」と「課題を中心とした村づくり委員会」を両輪とし、村づくり委員会から生まれた「ごか食堂」、多機能型事業所「夢のつばさ」、全村博物館構想の一環として作られた東山道園原ビジターセンター「はは木館」、阿智昼神観光局が紹介されました。 (奈良研は2011年11月に同村を訪問し、役場で説明を受けた後、「はは木館」、「ヘブンスそのはら」、熊谷元一写真童画館等を見学しました。)

・下條村は長野県最南端の村の一つ。少子化対策として、住宅施策、子育て支援の充実に力を入れています。その結果、2007年に合計特殊出生率2.59を達成しました。 (奈良研は2006年11月に伊藤喜平・下條村長に奈良に来ていただいて「自立(律)に向けた村づくり」を講演していただきました。)

・泰阜村も長野県最南端の村の一つ。早くから在宅福祉へ挑戦し、介護保険制度が導入されてからも負担軽減に取り組む。また、若者の定住支援、住民が主体的に参加するための施策、ガソリンスタンド゙生き残り施策等に取り組んでいることが紹介されました。

静岡県 浜松市

浜松市は2005年に12市町村が合併し、2007年に政令指定都市になりました。調査したのは市北部に位置する旧佐久間町、旧水窪町の2地域で、両地域とも人口が40%以上減少しています。
 合併による職員の減、議員の減、公共施設の削減による財政効果、また、合併特例債を活用した消防ヘリコプター整備事業の推進等、赤字拡大している佐久間病院の存続維持といった合併の「光」と、地域のリーダーがいなくなった、行政との距離が遠くなった、人口が著しく減少した「闇」、合併の功罪がそれぞれ報告されました。

次に、パネラーの 岡田 知弘 京都橘大学教授(自治体問題研究所理事長)より講演がありました。

 岡田さんは、コロナ禍の下における全国各地の地域類型の違いによる地域経済・社会の実態とともに、国や地方自治体による政策の効果や限界が明らかになるとして、この日弁連の調査の画期的意義を先ず強調して、次のように話されました。

1 地域のなりたちと地域産業・経済、地方自治体

 地域とは、固有の自然と一体になった「人間の生活領域」(半径500m程度)だが、資本主義の時代においては、「資本の活動領域」としての地域が分離し、「人間の生活領域」との乖離が拡大した。グローバル経済時代の産業空洞化はその矛盾の典型。

 地域経済は均等に発展するわけではなく、地方で生産された経済的果実は企業組織や徴税機構によって、東京や各地域ブロックの中枢都市に集中する。地域経済の不均等発展にともなう財政力の不均等性、それを是正するのは国の地方財政調整制度と都道府県財政。
  地域経済の再生産を支えるのは多様な地域産業。地域内の再生産は、生活・景観・環境の再生産に繋がる。地域内再投資力の質と量が当該地域形成のあり方を規定する。
 地域づくりとは地域の意識的再生産、正しい処方箋が必要。

2 経済のグローバル化と地域産業・経済

 人口流動構造が、1980年代後半以降に転換し、特に列島周辺部から人口減少局面になった。人口減少自治体の増加、深化する「集落消滅」の危機。産業構造が転換し、農林水産業・製造業の後退、サービス業の増加。非正規雇用の増大等、就業の不安定化と貧困化。これが「少子化」の一大要因。
 地域経済衰退の原因は何か。海外進出と輸入促進政策。グローバル化と構造改革による富の東京への集中。「三位一体改革」「平成の大合併」以降、地方財政圧縮による地域建設業の衰退。これに、リーマンショック、消費増税等による消費不況が重なった。
 地域で暮らし続けることが困難になった。災害の続発とウイルス感染症。格差・貧困、孤立化、社会の不安定化の進行。公共交通がない、年金がおろせない、医者にかかれない、生鮮品が買えない、人口減少と限界集落の広がり。
 人間の生活の場としての地域をつくり、守る主体としての地方自治体の役割とあり方がクローズアップされている。

3 「地域が活性化する」「豊かになる」とはどういうことか。

 大規模公共事業プラス企業誘致の地域開発政策・「選択と集中」政策は失敗した。立派な道路や建物ができたとしても、雇用効果の少ないハイテク工場が立地したとしても、そこで住民が住み続けることができなくなれば、地域の「活性化」とはいえない。(白川前日銀総裁)

 「地域が活性化する」「豊かになる」とは、住民一人ひとりの生活が向上すること。地域発展の決定的要素は「地域内再投資力」の量的質的形成だ。地域内にある経済主体が毎年再投資を繰り返すことで、そこに仕事と所得が生まれ、生活が維持拡大される。地域内での取引網を太くし、地域内循環をつくれば、多くの住民の生活向上に波及する。資金・所得の循環、物資・エネルギーの循環、人と自然の循環。
 地域内の再生産の維持拡大は、生活・景観・町並みの再生産、自然環境の再生産、国土保全につながる。大都市と農村を「選択と集中」で分断するのではなく、相互の連携を強め、とくに農山村に社会的投資を行うことが災害の時代において重要だ

4 一人ひとりの住民が輝く地域をつくるには

 中央政府レベルでの野放図な国際化、構造改革政策、規制緩和政策を根本的に見直す。「選択と集中」生産性一本槍の政策は、地域経済を破壊するだけ。一部の多国籍企業の利益を優先する「グローバル国家」型の政策でなく、地域経済の担い手である中小企業や農林漁家、協同組合を重視した転換する。
「小さくても輝く自治体フォーラム」参加自治体の実践から学ぶことが重要だ。
・強制的な市町村合併政策への異議申し立ての開始
・早くから人口定住対策を取り組み、人口を維持増加させている自治体が多い。下川町、海士町・・
・地域内経済循環と実践的住民自治による村づくり             栄村・・
・有機農業、森林エネルギーの活用、地球環境問題への地域からの取り組み  綾町、上勝町・・
・社会教育による学習の力、自治力が、地域づくりや住民自治・議会改革に結びつく
・団体自治と住民自治、地域づくりの三位一体の関係が明確に
大規模自治体での「都市内分権」、住民自治の基盤づくり
・地域自治組織を活用した多様な地域づくりを展開  上越市
・政令市での区役所機能と地域自治組織強化     横浜市、新潟市
地域の多数者のための新たな地域経済政策の広がり
・中小企業振興基本条例を活かした地域づくり           帯広市
・公契約条例の制定による最低賃金、原価底上げと地域経済振興策  野田市、世田谷区
・地域内経済循環、地域の再生可能エネルギーの活用で地域社会を持続させる  紫波町、湖南市
「年金経済」の重要性

 最後に、コロナ禍の厳しい環境の中で、新たな地域経済社会への展望も開けてきたとして、
①必要なのは「新しい生活様式」ではなく、「新しい政治・経済・社会のあり方」
②グローバル化・効率一本槍の経済成長戦略、「選択と集中」戦略の限界とリスク。しかし、菅政権では見当違いの中小企業・地域金融機関淘汰論が台頭
③遠隔地との交流・交換がストップするなかで、地域の地金、宝物の発見
④足元の地域に視点を置くことが、経済社会再建の原点に
⑤足元から人間性を回復する地域づくりが、災害の時代&グローバル化時代だからこそ求められている。
⑥地方自治体は「儲ける自治体」ではなく、憲法と地方自治法の精神に基づいて、一人ひとりの住民の福祉の向上と幸福追求権を具体化するために、とくにコロナ禍という災害局面においては「公共」の役割をきちんと果たすことが基本。
⑦地域住民主権の担い手として、地域経済の担い手として、また地域社会、地方自治の担い手として、地域に根差した中小企業、農家、協同組合の役割は極めて大きいと話されました。

 次に、パネラーの 小出 太朗 氏(全国町村会行政部長)より講演がありました。

2020年11月、全国町村会は「コロナ下・コロナ後社会を見据えた町村からの日本再生に関する提言

~地域発・価値創生社会の実現に向けて~」を提言した。

その内容は、私たち町村は、コロナ下・コロナ後社会を見据えるとき、農山漁村を抱え、多様な地域の価値を有する町村の将来にわたる持続可能性の追求が、大都市地域のバックアップ機能の強化につながり、これからの国づくりに大きく貢献するものと考える。そして、我が国の今世紀を見通して最大の課題ともいえる人口減少・少子高齢社会を克服し、災禍に強く、持続可能な国づくりを推進するためには、「東京一極集中の是正」及び「地方の活性化」を車の両輪にして、必要となる各般の政策を強力に押し進めなければならないとして、次の3点の取り組みを提言した。

第一に、東京一極集中を是正し、「地方分散型の国づくり」を推進するためには、地方への人の流れや様々な業務機能等の地方移転・地方分散を強力に促進するための格段に思い切った政策を推進しなくてはならない。

第二に、その受け皿となるべき地方のハード・ソフトの環境基盤を整えなければならない。とりわけ、地理的位置や規模等のハンディキャップを克服する全国を網羅するデジタル社会の推進は必須の取組である。併せて、地方活性化のカギを握るのは「ひと」であり、多様な人材が全国どこでも活躍できる環境の整備と柔軟な制度づくりが不可欠である。

第三に、東京と地方、都市と農山漁村が、限られた人口や経済等のパイを奪い合う過度な競争社会から脱却し、それぞれの地域が分散しながらも、多様につながり交流する「都市・農山漁村共生社会の実現」とともに、みんなが力を合わせて、安心や喜び、幸せを実感できる新たな価値を共に創る「価値創生社会の実現」をめざさなくてはならない。

この後、司会者より、地域経済困難の原因、市町村合併の評価、地域内再投資力等の質問が出され、お二人がそれぞれ答えられました。

 (文責 城)

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