住民不在の県域水道一体化、奈良市が最大の値上げへ ~奈良市の水道問題を考える」集会~

投稿者: | 2020年12月18日

11月26日、奈良市革新懇等主催の「奈良市の水道問題を考える」集会がありました。県は令和7年度から県域水道を一体化した「奈良県広域水道企業団」による事業開始を目指しており、来年1月中に参加に合意した自治体との間で覚書を締結して具体的な協議に入る方針です。そこで、来年1月の覚書の締結が一体化に参加する大きな山場になることから、奈良市民にとっての県域水道一体化の問題点を整理して運動の方針を決めようと開催されました。3名の方が報告されました。

小峠 憲司(奈良自治労連特別執行委員)さんは、2018年の水道法改正は都道府県が旗を振って水道の広域化を進め、民営化を進めることを狙っている。しかし、民営化は世界で失敗した時代遅れのもので、再公営化が世界の流れだ。 奈良県では平成の大合併において市町村合併が進まなかったため、「奈良モデル」として地方行政の効率化を図ることとした。県域水道の一体化もその一つで、県営水道を受給している28上水道事業を経営統合し、浄水場を奈良市緑ヶ丘、県御所、桜井の3浄水場に集約して外は順次廃止する。国の交付金も活用して、これによって経営基盤の強化と効率化を図る。R2年度に覚書締結、R6に経営統合、R7に事業統合するスケジュールだ。

 しかし問題は、①水需要が減少して県営水道の収支が大幅に悪化するのを防ぐため、市町村に自己水を放棄させて県水を買わす、という県の真の狙いが隠されているのではないか。

②現在市町村の水道料金は約2倍の格差があるが、事業統合することで優良な自己水を持っている市町村ほど水道料金が上がる。

  ③大規模災害時には身近に自己水を持っていることが安全だ。3浄水場は奈良盆地の縁におかれているため長距離の送水管を敷設している。奈良盆地周辺には多くの活断層が走っている。特に、桜井浄水場の直下には名張断層がある。原発建設にあたって活断層の有無が大きな問題となっているが、浄水場も同じ問題ではないか。

最後に、住民の命の水を守るのは自治体の責任。優良な自己水は市民の宝、自己水を維持することは経済的理由だけでなく、災害時の安全にも大きく貢献する。県の提案に対し十分な検討と対応が望まれる。自治体として、議会での議論や住民の参加した議論をつくし、自己水源や人口、産業、交通など「自治体の自然的・社会的条件に応じた計画」の視点を貫いて、各自治体に最もふさわしい水道の計画をつくることが重要と話されました。

山村 さちほ(奈良県議)さんは、最近の県の動向を話された後、香川県水道企業団を視察した報告をされました。香川県は人口95万人、面積は全国一狭い、雨が降らない。徳島県から水を通水している。市町村どおしで水を融通できないかから始まって、2018年県下8市8町のすべての水道事業を一元化した広域水道事業がスタートした。料金統一されていない、各水源は残している、災害時緊急時応援体制を決めている、民営化は考えていない等である。奈良県のめざす広域化とはだいぶ違うと話されました。

井上 まさひろ(奈良市議)さんが、奈良市の動きを話されました。
  ①水道事業が抱えている3つの課題、「人口減少による水需要の減少」「老朽施設の更新、耐震化対応による費用の増大」「職員の減少・退職による技術力の低下、人員不足」は広域化では解決できない。 水余り、水需要の減少は、人口減少が予測されているのに過大な需要予測のもとにダム等を建設してきた結果であり、また、職員の減少は自然に減ったのではなく、「減らしてきた」結果だ。奈良市では上下水道あわせてこの5年間で40人余り減らしてきた。

  ②市民の暮らしに直結する水道料金は、統合時において、一番安い奈良市の料金に合わせるため、 他の市町村は全て今より安くなる。しかし、その値段では経営できないため、5年ごとに24年間上がり続ける計画だ。奈良市の水道料金はこれまで21年間据え置かれてきたが、統合されたら3割近く値上がりすることになる。奈良市民の負担が最も大きく、その負担分の惠は奈良市民ではなく、他の市町村に行ってしまう。統合せずに単独で事業を続けても料金値上げはありうるが、それでも、料金は奈良市で決められる、値上げ理由は明確にできる、値上げ分は自分たちのために使われる。これは大きな違いだ。

③企業団設置で住民や市町村議会の水道への関心が薄れ、市民から目の届かないところで大事なことが決められる。消防、後期高齢者医療制度も広域化されたが、それぞれの議会は年2回程度の開催で、1時間程度の審議しか行われていない。水道企業団も同様になる恐れがある。

④広域化すれば、大規模災害時に施設が損傷すると、被害は広範囲、長期化する恐れがある。近くに自己水源があれば、被害は小さくて済む。 2018年山口県周防大島に架かる橋に併設された水道管にタンカーが衝突し、40日間断水した。重い水を運ぶため、11人のお年寄りが骨折した。ここでも自己水源を廃止し、1本の水道管に頼ったことが被害を大きくした。

⑤水道法改正後の広域化協議はどんな形態であれ、その協議結果の尊重義務に縛られる。「広域化に加われ」となりかねない。

⑥奈良市、生駒市以外が広域化された消防の場合、37市町村で構成されているのに組合議会の議員は25人。天理市など7市町村議会が組合の議会構成は公平公正にすべきとの意見書を出している。 広域消防では、職員削減、署所削減、ポンプ車など消防資機材の削減が進んでいる。住民からすれば、身近にあった署所、資機材、職員が減らされ、救命救助体制、消化体制が後退することを意味している。

⑦3年前に県単位化された国民健康保険の場合、「借金してでも市町村は県に上納せよ。差し押さえは積極的に」と徴収強化と滞納対策が強まっている。国保が「酷保」に変質。コロナ禍で苦境に立つ自営業者や非正規雇用の市民をさらに追い詰めることになる。 消防でも国保でも「統一化」「効率化」の名のもとに市町村の自己決定権を奪い、住民にしわ寄せする事例が目立つ。水道でも同じことが起きることは間違いない。

  奈良市の水道は98年の歴史がある。先人たちが営々と築いてきた水道事業の認可を手放し、広域化に参加することに対し、市企業局職員も強い危機感を持っている。大和郡山市は覚書締結には参加しない模様だ。広域化に参加するかどうかの判断は首長だが、水道広域化がどのような影響を市民に及ぼすのか、具体的に分かりやすく、徹底して広く知らせることが最も重要だ。「広域化ストップ、命の水を守れ」を旗印にお互い頑張りましょうと話されました。

 3人の報告の後、主催者から「奈良市が県域水道一体化に参加しないことを求める請願書」を提出しようと提起がありました。

  

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