奈良に「2000m滑走路」は必要なのか

投稿者: | 2020年11月14日

10月17日、「2000m滑走路より暮らし守り、コロナ対策を 五條市への2000m滑走路建設を考える県民集会」を奈良県平和委員会と共催で行いました。

山村幸穂県議から経過の報告

2007年に五條市が陸上自衛隊駐屯地誘致を初めて要望した。2013年に奈良県が自衛隊駐屯地誘致+防災へリポート建設を打ち上げ、翌2014年から県が調査費等をつけた。2014年~2018年の5年間で1億8330万円。2015年に日本共産党は、陸上自衛隊の駐屯地はいらないと訴える署名1557名分を奈良県知事に提出した。2018年に急に2000m滑走路案が出てきて、2019年、2020年の2年間で計3億1400万円もの調査費等がつけられた。8年間で4億9730万円にもなるが、先の5年間1億8330万円はムダになってしまった。この2年間の調査結果を早く確認したい。

 県の提案は、紀伊半島における「大規模広域防災拠点」整備が必要なため、大型ヘリの離発着・集結が可能な600m滑走路から、最新の固定翼輸送機・自衛隊輸送機の離発着が可能な2000m級滑走路を有して、物資・人員の集積配送機能を向上させたいということである。
 災害時の初動は消防の力が必要だが、消防の広域化で各地の分署が減らされ、初期の対応が遅れるのではとの心配の声が出ている。消防力を高めるため、消防にもっと機材の投入がまず必要だ。

 紀伊半島周辺には、関空、大阪、中部、南紀白浜、神戸、八尾の6空港があり、南紀白浜空港が災害時に拠点としての対応をする。なぜ新たに2000m級滑走路が必要なのか分からない。自衛隊の訓練のため?

 なぜ奈良に陸上自衛隊基地がないのか歴史をみてみると、朝鮮戦争時に県内に基地設置の動きがあった。朝鮮戦争から帰休した米兵向けの慰安施設が奈良市尼ヶ辻町に設置されたが、地域では米兵による犯罪が多発して風俗の乱れは極に達し、県民の廃止運動で慰安施設の移転・廃止を勝ち取った。大和郡山市矢田山、奈良市高畑でも基地設置の動きがあったが、それも反対運動で断念させた。平和を希求する県民の世論と運動が基地のない奈良をつくってきた。

岡田知弘氏(京都橘大教授・自治体問題研究所理事長)の講演

岡田氏は、菅政権による学術会議任命拒否問題に関連して、戦前の京都大学の川上肇経済学部教授、瀧川幸辰法学部教授への国による思想弾圧、辞職要求をとりあげ、

言論弾圧の対象が共産主義思想から自由主義的な言論へと拡大し、京都大学が全面的に国に屈服して、思想信条の自由が敗北した。そして医学部では関東軍731部隊に協力・派遣していくまでになった。蜷川虎三元京都府知事は「反共は戦争の前夜の声」と言ったが、まさにその危機にあると先ず話されました。

講演する岡田知弘氏

2000m級滑走路建設は全国的に例のないことで、「今時そんな話があるのか」と知人に驚かれている。この問題は、地域開発論、防災論、自衛隊論、財政論、環境論の多方面からの視点が必要だが、今回は専門の地域経済論からの視点から疑問を提示し、今後の議論、運動の参考に供したいとして講演を始められました。

なぜ「空港」ではなく「滑走路」なのか

 国は第7次空港整備計画で、地方空港整備を抑制して大都市圏の拠点空港の整備を優先する方針に 転換しており、民間空港としての奈良空港は不可能になっている。 後発地方空港である静岡空港、茨城空港はコロナ禍で運行ゼロになり、自律的経営が難しい状況になっている。
関西空港も多額の累積債務を抱かえている。地元自治体出資額は当初534億円から1785億円に膨らんでいる。約1兆円をかけて建設した関西空港、りんくうタウンは、地元経済を活性化させることはなかった。農業、漁業、製造業はむしろ衰退した。
したがって、2000m滑走路建設の目的は、「空港」ではなく、「防災」と「防衛」しかなくなる。

600mヘリポートから2000m滑走路計画に変更した根拠は正しいのか

  県は東日本大震災時の山形空港の活躍を例にしているが、山形空港と奈良とでは大きな違いがある。山形空港は空港整備計画に基づく一般空港、平場立地、2000m滑走路で、陸上自衛隊神町駐屯地が隣接している。仙台空港等の代替として活躍したが、仙台空港が復旧するなかで利用が低下した。 C-2輸送機の離発着に使えるとしているが、C-2輸送機は最短500mでよい。C-2輸送機積載の物資は奈良県民のために使うわけではない。南海トラフ激甚被災地を想定している。陸上自衛隊駐屯地が誘致されれば、オスプレイ等が演習のため頻繁に離発着することになる。

 2000m滑走路は奈良県の防災に寄与するのか

 紀伊半島全体の防災拠点というなら、県費投入の根拠が薄弱化している。
 広域防災といいながら、関西広域連合の了解、連携を必要としないと言うのは矛盾している。
  南海トラフ地震防災対策推進基本計画では、空路参集拠点として明示されているのは南紀白浜空港等であり、奈良県南部は想定されていない。 奈良県域に対する自衛隊の災害派遣体制としては、陸上自衛隊大久保駐屯地が対応している。 防災対策として、南海トラフなど広域大規模災害対応のC-2輸送機離着陸と自衛隊立地のみを想定した事業に、多大な調査費を支出したうえ、膨大な建設費を投入し、県職員の人的時間的浪費を行うことはとても妥当とは思えない。
優先すべきは、奈良県各地域での防災体制づくりをいかに進めていくか、県域での防災拠点づくりと事前防災のために効果が高い農林業振興と地域中小企業の育成に予算を割り引くことだ。

 なぜ、はじめから五条市の特定地域が指定されているのか

  広域的な観点からの滑走路選定は、通常複数の候補地から選定すべきだが、当初から五條市のゴルフ場に特定されている。静岡では5地点から選定した。奈良県内のゴルフ場事情「県内で32クラブくらいある中の3分の2が民事再生」と言われている。特定のゴルフ場の経営救済策でないことを、県は立証する必要がある。

 建設に関わってまだある問題点

 具体的な工事方法と地盤・自然環境問題が不明である。リニア新幹線建設残土とのリンク、アクセス道路とトラック公害、自然環境のアセスはしっかりなされるのか、飛行体の騒音問題もある。既に多額の調査費等を支出し、総建設費は不明のままである。参考に、静岡空港(2500m滑走路、山間地立地)では、本体建設費490億円、周辺整備費等に1410億円、年間管理費5億2000万円である。静岡県財政に重い負担をかけている。 奈良県財政、五條市財政の経常的な負担想定額が不明であり、着陸料収入が見込めないなかで、自治体の負担増大が予想される。それとも、防衛省は防災目的だけの駐屯地の建設はあり得ないとしているなか、自衛隊を誘致して「特定防衛施設周辺整備調整交付金」を当てにするのか。

今こそムダな支出を避け、住民の命と暮らしを守るために

コロナ禍で県民が苦しむ中で、なぜ2000m滑走路プロジェクトを最優先するのか。今こそムダな支出を避け、住民の命と暮らしを守るための県行財政の総合的活用を図るべきである。あわせて、小規模分散型の防災施設の整備、事前復興の取り組みを地域の中小企業等と連携して実践するための取り組みを強化する必要がある。

 最後に、東京都世田谷区では産業政策、防災政策、公契約を連結させて重機を持った業者の育成を図っている。コロナ対策とともに参考にされたいと話して講演を終えられました。

大谷たつお(五条市議)さんからの報告

次に、大谷たつおさんから、この間の五条市での活動と9月23日初めて行われた県の説明会の報告がありました。説明会では、住民から説明会の開催が遅い、騒音などを心配する意見などが多数出たとのことです。

 河戸憲次郎さん(奈良県平和委員会)の報告

最後に、河戸憲次郎さんからオスプレイの飛行について説明がありました。
 国は沖縄県の離島に基地を造っているが、奈良県が2000m滑走路を造って自衛隊に使ってくれと言われれば使うだろう。千葉県木更津基地にオスプレイが配備されているが、それは5年の暫定配備で、5年後には佐賀空港に配備するとの約束がある。しかし、佐賀空港の基地化は地元の反対で目処が立っていない。となると、奈良県も五條市も自衛隊駐屯地の誘致していることから奈良の2000m滑走路が基地となり、オスプレイ訓練の場となる恐れがある。

 奈良県は「貧乏県」だと言って、できるだけ県の負担を減らして事業してきたように思います。例えば、特別史跡・平城宮跡に都市公園・平城宮跡歴史公園を被せて国土交通省に復元事業をさせる。京奈和自動車道・大和北道路の建設では、公共事業では県負担金が大きいので、ネクスコ西日本を引き込むことで公共事業と有料道路事業との合併施行方式を導入し、奈良県の負担金を減らしてゴーサインを出した。奈良公園内に高級ホテルを建てるのを可能にして、その地代を公園管理費に充てるようにした。  今回の2000m滑走路建設について、県の負担を減らすために国の事業を入れる = 自衛隊駐屯地を誘致するということなのかどうか分かりませんが、防衛省は大規模広域防災拠点の利活用などの検討業務に予算をつけていることから、駐屯地が来る来ないにかかわらず、奈良でオスプレイが飛ぶ恐れは非常に高いと思いました。  (J)

奈良に「2000m滑走路」は必要なのか」への1件のフィードバック

  1. 小林秀穂

    南海トラフ巨大地震が発生しても、奈良県には津波の被害はないとされています。しかしながら、奈良圏域全体が
    特別対策区域に指定されています。また、県内に陸上自衛隊が駐屯していないのは、全国都道府県において、奈良県だけといわれています。陸上自衛隊の駐屯地は是非必要だと思っています。2,000mの滑走路は必要ではないと思います。600mで十分だと思います。また、米国の使用は必要ないと思います。

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