ドキュメンタリー映画「プリズンス・サークル」を鑑賞して  

投稿者: | 2020年11月14日

中村 篤子(理事、奈良自治労連)

2020年度文化庁映画賞・文化記録映画大賞受賞  ~取材許可まで6年、撮影2年、初めて日本の刑務所にカメラを入れた圧巻のドキュメンタリー~

 「島根あさひ社会復帰促進センター」は、官民協働の新しい刑務所。警備や職業訓練などを民間が担い、ドアの施錠や食事の搬送は自動化され、ICタグとCCTVカメラが受刑者を監視する。しかし、その真の新しさは、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを日本で唯一導入している点にある。なぜ自分は今ここにいるのか、いかにして償うのか? 彼らが向き合うのは、犯した罪だけではない。幼い頃に経験した貧困、いじめ、虐待、差別などの記憶。痛み、悲しみ、恥辱や怒りといった感情。そして、それらを表現する言葉を獲得していく…。(パンフレットから)

刑務所内を撮影したドキュメンタリーだけあって、目が離せませんでした。TCが進んでいって受講生が変化していく様子を丁寧に映し出しています。「人生を取り戻して」(監督)行く過程は、自分のようであったり、親しい人のようであったりで、身に迫りました。受講生の幼少期の貧困や虐待、いじめの深刻な話を聞いていると、貧困対策、子ども家庭センター(児童相談所)・児童養護施設等が十分に充実されておれば、罪に至らなかった人は多かったのではないかと思いました。防げた罪も多かったのでばないかと感じました。

TCは、「英国の精神病院で始まり、1960年代以降、米国や欧州各地に広まった。TCでは、依存症などの問題を症状と捉え、問題を抱える当事者を治療の主体とする。コミュニティ(共同体)が相互に影響を与え合い、新たな価値観や生き方を身につけること(ハビリテーション)によって、人間的成長を促す場とアプローチ」で、「希望する受刑者が、面接やアセスメントなどを経て参加を許可される。アミティのカリキュラムを導入しており、30名〜40名程度の受講生が半年〜2年程度、寝食や作業を共にしながら、週12時間程度のプログラムを受ける。TC出身者の再入所率は他のユニットと比べて半分以下という調査結果もあり、その効果が期待される。」(公式HPより)とありました。アミティとは、「刑務所内外に拠点を持ち、独自のカリキュラムによって様々な気づきや学びを促し、徹底した語り合いや人間関係の新しい構築によって、問題行動に頼らなくても生きていける方法を学ぶ」TCだそうです(公式HP)。「エビデンス・ベースの複数の研究において、アミティのアプローチの効果(特に犯罪傾向の進んだ受刑者)が立証されている」にもかかわらず、日本で受講できる受刑者は40人しかいないのです。成果が出ているのに…。

映画「プリズンス・サークル」HPより

上映後、坂上監督と、映画にも少し登場されていたNPO法人の支援員、出所後に大学進学し社会福祉士・精神保健福祉士の資格を取られたTC・1期生の3人のトークイベントもありました。受刑者の顔にはスモークがかかっています。法務省矯正局は受刑者に「顔出しの可否」を聞かず、「全員スモークで」と指示したそうです。そのため、TCが進み受講生の目頭が熱くなったりといった細やかな表情が映画で使えない、仕方がないので手や足の微妙な動きを使ったそうです。受講生の1人が出所後、顔出しで映画に登場するのですが、それも矯正局はなかなか許可を出さず、本人の同意もあるし等粘って交渉して、やっと実現できたそうです。「矯正局は固いですよ」と、監督は笑って話されていました。撮影中も部屋に必ず刑務官2人がおり受講者のインタビューで本音を聞き出すのは大変だった、法務省と「闘って」撮影したこの映画をよくぞ文部科学省は映画大賞にしたなと感慨だった、今後は刑務所の撮影はやりやすくなったではないかと思うと、話されました。文科省の中に「前川さん」後継者がいるのかなと、私は勝手に想像していました。

撮影現場の島根あさひ社会復帰促進センターは明るい感じでしたが、他の刑務所と違うそうです。「島根あさひ(略称)」へ移送されて来た1期生の方は、TCでは笑顔があるし、私語が可能なのは驚いたそうです。トイレに行きたい時も、歯磨きをする時も、手を挙げて、刑務官の許可がないとできないのは、どこも同じとか。受刑中の作業で分からない事が聞けないのは、困ったと。違反をすると独房に入れられるそうですが、そこでは無言でずーっと座っているだけで、一人でグルグル同じ考えが巡っているだけ。TCのように、会話で深めて反省することはできないと話されていました。出所後で大事なことは、人とのコミュニケーション。困った時に誰を頼るのか、人とのコミュニケーションをどう取るのか、TCでの学びが役に立っていると語っておられました。

やはり、人は人の係わりの中で成長し、変化できるのだなと思いました。それは何も受刑者と私とで違いがあるはずないなと感じ、コロナ禍の今、どうしたものかと、思案しました。

自主上映で満席になっていない日帰可能場所が、名古屋市でした。せっかくなので、近鉄特急「ひのとり」に乗って行きました。リクライニングシートが良くて、車内で居眠りするのにもってこいでした。

※ 島根あさひ社会復帰促進センターは島根県浜田市旭町にあるPFI方式の刑務所で、2008年10月に開所されました。事業主体は、島根あさひ大林組・ALSOK グループです。PFI方式の日本の刑務所としては、美祢播磨喜連川に次ぐ4番目の開設でした。

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