水道の広域化、民営化、利用料金値上げ~持続可能な水道を考える~

投稿者: | 2020年1月25日

第28回 水とくらしの110番シンポジウム(近畿水問題合同研究会主催)

近畿水問題合同研究会主催の「第28回水とくらしの110番シンポジウム」が、12月7日、大阪市内で開催されました。昨年、奈良市内で開催された第27回シンポジウムで、水道事業が大変なことになることに気づかされました。その一年後の今回のシンポの概要を紹介します。
 基調講演「改正水道法後の水道事業の民営化の課題」 仲上健一氏
 特別報告「持続可能な住民自治による水道」 近藤夏樹氏
 報告「浜松市の水道コンセッションに市民はどう向き合っているか」
 報告「大阪市の水道管路更新業務のPFI」
 報告「奈良県の水道広域化計画と葛城市水道事業の将来」
 報告「橋本市の施設更新事業と料金値上げ」

改正水道法後の水道事業の民営化の課題

基調講演 仲上 健一氏(立命館大学名誉教授、近畿水問題合同研究会理事長)

改正水道法は、①広域連携の推進(スケールメリットを活かして効率的な事業運営が可能)、②適切な資産管理の推進(水道管の計画的な更新や耐震化を進める基礎)、③多様な官民連携の推進(民間の技術力や経営ノウハウを活用できる)として提起された。

これに対して、「水道は生命にかかわる最も重要なインフラだ。」「再公営化が世界の潮流だ。」と民営化を危惧する意見が多数出た。また、イギリスが2018年10月29日に「官民パートナーシップを廃止する。金銭的メリットに乏しく、柔軟性がなく、過度に複雑」として新規PFI事業の中止を宣言する中で、日本では2018年12月改正水道法が成立した。

改正水道法のポイントは、①水道事業者に、施設の維持・修繕や台帳整備を義務づけ。収支の見通し公表を求める。②国が水道の基盤強化のために基本方針を策定。都道府県、市町村の責務も規定。③広域連携を進めるため、都道府県が市町村などでつくる協議会を設置可能に。④自治体が水道事業の認可や施設の所有権を持ったまま、民間企業に運営権を委託できるコンセッション方式の導入である。

 浜松市は、基幹管路の耐震化対策、老朽化対策、主要な浄水場の改築更新投資額としての2,900億円を生み出すために、2037年度までに水道料金の46%値上げが必要という課題設定をした。そして種々の組織形態を検討のうえ、経済効率性という視点でコンセッション方式が最も優れているとして、コンセッション方式による民営化を進めた。これに対して市民から強い反対運動があり、上水道についてはストップした状態になっている。

水道事業は経済性のみでは評価できないという特殊性を有している。水道事業と地域社会がこれまで築いてきた歴史と市民感情を踏まえた方式でなければ、経済原則主義と問題解決型志向のみによる事業推進では、受益者である市民との対立は深まるばかりである。

全国自治体の水道危険度ランキングでは、ワースト上位の自治体には次の4つの共通項がある。
①住民が散らばって住んでいるため、人口一人当たりでみた水道管の長さが長く、採算がとれない。
②人口が少なく、給水施設などのインフラ維持費を水道料金で賄えない。
③自治体の財政が苦しく、水道料金の赤字を補填しがたい。
④採算が取れていないため、すでにかなり高い水準の水道料金を設定しており、更なる値上げは難しい。→→→ 北海道に迫る限界

水道事業には、社会(公平性、効率性、持続性)、行政(経営、管理、技術)、労働者(勤務形態、給与水準、生き甲斐)、地域住民(安全、料金、情報)の調和のとれた対策が必要である。 広域化は地域によって事情が異なる。流域を考えた広域化は必要であり、自治体の実態に応じてていねいな議論が必要。広域化の範囲を誰がどう決めるのかが非常に重要になる。

持続可能な住民自治による水道

特別報告 近藤 夏樹氏(自治労連公営企業評議会事務局長、名古屋市水道労組委員長)

近藤さんは、昨年は公公連携、中核的事業体(例えば名古屋市)が中小規模事業体と技術支援・災害支援協定を結び、人材育成職場となって職員研修を行う、人材派遣を行う。また、他の中核的事業体と災害支援協定等を結び、災害派遣を行う。国や日水協が人材育成にかかる人件費、災害支援機材・費用を負担する仕組みを提案されました。今年は、住民参加、水の教育・学習、情報公開、建設的な議論をする大切さを話されました。広域化で一番の問題点は、職員が施設を知らなくなること、住民から姿の見えない水道になることだ。人口密度の少ないところは経営が苦しくなる。どう全体で賄えるようにするのか。水源、流域で広域化を考えることは大切だ。広域化とは表流水、ダム水に頼ることになるが、地下水の利用は必要だ。

浜松市の水道コンセッションに市民はどう向き合っているのか

報告 池谷 たかこ氏(浜松市の水道を考える市民ネットワーク事務局長)

浜松市の水源は天竜川、自然流下方式で給水しているため、水道料金が安い。政令市では大阪市に次いで安い。(水道料金の安いところから民営化が狙われている!)浜松市は、民営化によって管路等更新費用の節約、水道料金の値上げを押さえられると主張した。

しかし、2018年4月に民営化した下水道(西遠処理区)浄化センターでは、民営化前の2017年10月に料金の値上げがあり、民営化後の改築工事は全て仏ヴェオリア社の子会社が随契で工事を請け負った。情報公開にもほとんど応じない。

 これらのことから、地元建設業者も水道民営化に反対を表明した。それにより浜松市長は結論を先送りした。

 市民ネットワークの活動は、出前口座、学習会、署名提出(32,000筆)、市役所前水曜スタンディング、駅前日曜街頭宣伝、公開質問状提出、市議・市長候補者へアンケート、SNSで発信、リーフレット配布(24万枚)、署名協力店を募集してブログで公開してきた。今年1月の全国のつどいには600名以上の人々が集まったが、来年9月13日には1000人規模の更に大きな集会を開催したい。

大阪市の水道管路更新業務のPFI

報告 池田 かおり 氏(NPO法人AMネット事務局長)

大阪市の水道事業の民営化は,2017年2月の条例廃案を受けて、事業全体の民営化はストップしている。しかし、「副首都推進」の文脈の中で、大阪府知事、大阪市長、堺市長による「副首都本部会議」が府域全体に関わる政策を進め、「府域一水道」が一つのテーマとなっている。ここには議会も他の自治体の関与もない。小規模な自治体は異を唱えることができるのだろうか。

大阪市は一部業務をつまみ食い状態で民営化することを検討しており、管路更新促進事業をPFIで行う条例を提案する予定である。加えて堺市、やがては大阪府域まで広げてPFIによる管路更新を進めるとしている。管路は重要な財産であり、耐震化は重要な施策だが、PFIで本当に耐震化が進むのか。自治体が耐震化のノウハウを失ってしまうだけではないのか。「これ以上、行政は現場を失ってはいけない。」水道に限らず、将来世代のためにも、皆で考え守らなければならない。

奈良県の水道広域化計画と葛城市水道事業の将来

報告 谷原 一安 氏(葛城市議会議員)

葛城市にとっての奈良モデルは、評判の悪い消防の広域化。県下12市で一番安い国民健康保険料が県単位化で毎年7年間引き上げられる。今また、県域水道一体化計画で、県下一安い葛城市の水道料金が引き上げられる。「住みよいまち葛城市」が失われる。

県域水道一体化のスケジュールは、R1年度に協議会設置、R2年度に覚書締結、R3年度から広域化事業開始、R8年度に経営統合、10年以内に事業統合だが、ここにきて奈良市企業局が実施作業の中心にすわり、R3年度から広域水道事業団を設立する案も浮上している。

葛城市は、自己水75%、県水25%で、3浄水場、4主要配水池を持ち、地震や渇水などの災害に対して被害を軽減できる配水形態になっている。自己水が安価であるため、水道料金も安く経営も安定している。人事配置にあたっては職員の技術継承に配慮している。優良な財務である。

しかし、県域水道一体化により、水道料金の値上げ、防災上の不安、漏水等への対応が遅くなる、住民の声が反映されない等の問題点が出ている。 「葛城市の水道を守る会」として、パネルディスカッション、映画鑑賞会、上水道施設県学会、経営分析を行ってきた。それで市民運動と議会との連携も生まれ、議会を動かしつつある。

橋本市の施設更新事業と料金値上げ

報告 中村 尚 氏(橋本市の水道を考える会)

橋本市は今年、上下水道料金の25%の値上げを提案した。それで、5月に「橋本市の水道を考える会」を立ち上げて学習し、市民に説明するようにと運動してきた。その結果、下水道料金の値上げは否決、上水道料金は10%値上げに押さえることができた。 橋本市の上水道は県下9市の中で一番高い。それは、過大な開発計画による設備投資、大滝ダムの水使用による過大な負担のためである。水道施設の老朽化対策、耐震化対策は必要だが、どういう規模でいつ行うか、必要な資金をどう確保するかは、市民の納得と理解を得て進めるべきだ。