小学校の統廃合を考える視点 

投稿者: | 2020年1月25日

講師 中山 徹 氏(奈良女子大学教授、大阪自治体問題研究所理事長)

11月9日午後、大和郡山市市民交流館で4者共催の講演会を行い、参加者は30数名でした。
 基調講演「小学校の統廃合を考える視点」 中山徹先生
 特別報告「奈良県下における学校統廃合の流れ」吉本憲司氏
以下、概要を紹介します。

中山徹氏 基調講演

統廃合しても市町村レベルの財政では大きな負担減にはならない

行政側は、学校統廃合すればクラス数が減り、教員の数が減らせる。義務教育学校にすれば校長も減らせる。人件費が減るというが、本当に減るのか。

小中学校の経費の7割強は人件費だが、人件費は県が出している(国1/3、県2/3負担)。維持管理費で少し負担減にはなるが、維持管理費も地方交付税でまかなわれているはず。統廃合しても市町村財政に大きな影響はない。

基調講演する中山徹氏

「小規模校は教育的に問題がある」は、科学的根拠はない、問題のすり替え

小規模校では競争がなく、子どもの学力が伸びない。社会性が育ちにくい。クラス替えがないと、いったん友だち関係が崩れると対応できない。小中一貫にすると中1の壁がなくなる等々言うが、教育アンケートでそんな結果は出ていない。クラスの人数を減らした方が、教育効果が上がるというアンケート結果はある。

国が統廃合を進める本当の狙い 財政的理由と教育的狙い

統廃合によって国費は減らせる。国にとって財政効果はある。子どもが減っても、統廃合することによって競争的環境を維持できる。競争に勝ち残る子どもを育成できればよい。

統廃合は新たな段階へ 公共施設等総合管理計画、立地適正化計画

従前の統廃合は、市町村が自主的に判断して行ってきた。しかし今は違う。
国・総務省の指示で全自治体が作成した公共施設等総合管理計画は、実体的には公共施設の統廃合計画になっており、特に少子化が進むため子どもに関する施設の削減率が30%と高くなっている。そこには教育的視点はなく、行政改革の視点で、財政、人口予測をもとにした削減計画となっている。所管は教育委員会から財務課に移った。国が計画を定期的にチエック、進行管理を行い、公共施設等適正管理事業債等を用いて財政誘導を行っている。

国・総務省の指示で全自治体が作成した公共施設等総合管理計画は、実体的には公共施設の統廃合計画になっており、特に少子化が進むため子どもに関する施設の削減率が30%と高くなっている。そこには教育的視点はなく、行政改革の視点で、財政、人口予測をもとにした削減計画となっている。所管は教育委員会から財務課に移った。国が計画を定期的にチエック、進行管理を行い、公共施設等適正管理事業債等を用いて財政誘導を行っている。

国・国土交通省の指示で市町村が作成している立地適正化計画は、①人口減少に応じて市街地の範囲を縮小し、効率的に施策を展開する。②分散した公共施設、民間施設などを中心部に集中させる、いわゆるコンパクトシティである。

これは、人口減少 → 税収の減少 → 行政サービスを維持するためには効率化が必要 → 中心部で集まって暮らす → 中心部に公共施設等を集中させるという計画だが、次の問題点が出ている。
①周辺部での行政投資が縮小(公共施設等の統廃合)②想定以上の人口減少が起こり、地域全体が衰退した。③中心部の開発が失敗した。地域を離れることは中心部に行くことにはならない。

統廃合をめぐる問題  子どもにとっての問題

①通い慣れた小学校がなくなり、統廃合で不登校になる子どもが発生
②通学の長時間化(文科省基準 スクールバスで1時間以内)体力の消耗、通学以外の時間が削減、いったん家に帰ると友だちと遊べなくなる。
③大規模化 グラウンド、体育館などの利用が制約される。
④小学生と中学生が混在(小学生の自由度が減少、中学の年間スケジュールを尊重。中学生は小学生の発達段階を尊重)
⑤小中一貫校、義務教育学校(小6が最高学年でなくなり、小6の成長を阻害する。6歳から15歳までが同じ場所で過ごす。)
⑥学童保育の問題  校庭、体育館、プールなどを使えなくなる。

統廃合をめぐる問題  地域、保護者にとっての問題

①コミュニティの弱体化が進む

 日本のコミュニティ組織は小学校区が基本となっており、小学校区が変更されるとコミュニティ組織の弱体化に繋がる。コミュニティ組織を変更しない場合は小学校のないコミュニティ組織になり、コミュニティ組織を統廃合すると範囲が大きすぎてコミュニティ活動が困難になる。コミュニティの重要性が指摘されているなか、小学校の統廃合はそれに逆行する。

②地域の拠点が失われる

 自然災害が増大しているが、避難場所、避難訓練の拠点は小学校。地域のまとまり、お祭りなどのイベントも小学校。様々なコミュニティ活動が小学校を拠点として活用している。

統廃合後、旧小学校を活用する場合もあるが、地域の小学生が日常的に使う小学校なら地域活動の拠点になり得る。単に場所を確保すればいいという問題ではない。

③コミュニティと学校の関係が希薄化する

 放課後子どもプラン(地域子ども教室)、地域住民の協力が重視されている。コミュニティと学校の対応関係が明確であれば、地域の協力を得やすい。地域の防犯活動、見守りも同じことである。

どうすべきか ①基本

学校を地域に残しつつ、子どもの願いに応える
小学校をどこに作るかは子どもの数だけで決まらない
保護者が統廃合に反対するかどうかが決定的

②小学校の適正立地 キーワードは「日常生活圏」を守る

日常生活圏は一般的には小学校区、小学校区は日常生活のかなめ 面積1k㎡、人口5000人~1万人
生活圏内に日常生活を支える公共的施設とサービスが整備される地域が、暮らし続けられる地域である。
公共的施設とサービスとは、日常的な医療、高齢者福祉、障害者福祉、社会教育、小学校、保育所等、日常生活圏内に各種施設を配置し連携を広げることが大切。

小学校を統廃合すれば日常生活圏のかなめが崩れることになり、日常生活圏の破壊は生活条件を破壊することになる。それは、「生活困難→ 便利な地域への転居→ 人口減少→ 公共施設、民間サービスの縮小→ 生活困難の拡大」の悪循環につながる。小学校の統廃合は地域を衰退させることになる。

行政側の想定は、不便な地域から市内の便利な地域に転居するので人口減少はないとしている。しかし、市民の転居先は様々で、市外転居も選択肢にある。必ずしも同一市内にこだわらない。結局、小学校の統廃合は市町村の人口減少を招く。

住み慣れた地域で安心して子育てできるようにする。住み慣れた地域で年を取っても安心して住み続けられるようにする。この二つの実現が人口減少を食い止めるまちづくりの課題だ。小学校を残し、子育てしやすいまちをつくり、人口減少を食い止めるべきだ。明石市は子育て支援に力を注いでいるため、若い層がどんどん移住してきている。

③新築よりも長寿命化、改修して長く使い続ける

施設の老朽化が進んでいるが財政的理由で全てを立て替えられない。統廃合して新築をするという理屈を言ってくる。しかし、統廃合新築よりも長寿命化の方がコスト削減効果が大きく、財政的に有利である。また、冷暖房(教室だけでなく体育館も)、トイレ、プール、グラウンドの施設整備を重視しなければならない。このような改修は避難場所として使う場合も役に立つ。   

④学校を残して子どもの願いにこたえる

・学校、施設間の連携を進める
 横の連携:行事、文化活動、スポーツ活動などは地域の学校が連携して取り組む。別に一つの学校にこだわる必要はない。特に中学校のクラブ活動では有効だ。毎日スクールバスで通学するよりも、連携は容易である。
 縦の連携:日常生活圏の核は小学校。保育所、幼稚園、学童保育、中学校などが縦の連携を進め、成長の連続性を確保する。小中一貫よりも実質的な連携を。
・地域との連携を強める
 地域コミュニティの学校への協力、市民の様々な協力が教育の幅を広げる。
・小規模校での取組を大事にする
 俗説に流されず、小規模校、僻地校での取り組みを評価し、正しく発展させる。少なくとも大規模校の方が教育的に優れているという根拠はない。大規模校では見られない縦の繋がり、教員と子どもの関係、子どもと地域の関係を大切にする。インターネットを活用した教育、語学教育は小規模校の方が取り組みやすい。

⑤行政の地域化

 現状は行政責任の後退、コミュニティと民間への丸投げになっている。地域の運営は、行政とコミュニティが両輪である。行政責任を後退させると地域の運営が困難になる。日常生活圏に対応する行政組織(出張所)が必要だ。

⑥運動のかなめ

 川西市や四条畷市でのように、学校統廃合を止める事例が増えている。成功するかどうかは地域と保護者の連携ができるかどうか。「子どもの適正集団確保=大規模校優位」という俗説を乗り越えて、「学校を地域に残すことが子どもと地域にとってプラス」で連携できるかどうかにかかっている。保育所の場合は保護者が動いて地域を巻き込むのが多いが、小学校の場合は地域が動いて保護者を巻き込む形が多い。保護者の動きが遅いのが現実だ。ぜひ頑張ってほしいと話して、中山先生は講演を終えられました。

奈良県下における学校削減の流れ

報告 吉本 憲司 氏(奈良県教職員組合委員長)

吉本さんは、県下の小中学校削減の状況、全国比類なき最悪の県立高校削減、奈良市の幼稚園・保育園の削減・民営化を説明し批判した後、教育的課題について次のように話されました。
・大規模化の中で、教師の目がゆきとどかない。
・子どもを育てるのは、その地域が一体となって面倒を見ること。
・義務教育学校における学力偏重の動き
しかし、小中一貫の中で、小6が幼い。
・就学前の教育保育の最低限の安全が担保されない事態がある。
・民間も収支が見通せないところは進出を控えている。
・地域が衰退すれば、子育て世代の流入はもうない。Iターンも成立しない。
・格差社会の中で、子どもたちの日常に対する大人のきめ細やかな対応が何よりも必要な時代となっている。虐待、成長不安。小規模における豊かな実践が必要。

公立小学校、中学校廃止一覧を見ていると、奈良東部、宇陀、吉野の山間地域では統廃合がほぼ終わりの状況であり、合併前の旧町村ではほぼ1小1中となってしまいました。なんと旧大塔村では小学校中学校はなくなっていました。児童生徒は毎日あの天辻峠を越えているのか!

講演後、多くの方から事例報告、質問が出されました

・御所市は7小学校4中学校を統廃合して、1小学校1中学校にしようと計画していた。それに対して、統廃合すれば過疎化が進む。スクールバス(17台も必要!)では子どもの体力が落ちる。アンケートでは住民は学校を残してくれと言っていると議会で質問したら、現在「立ち止まって考えている」状況になった。 ・「子も孫ももういないので我々の問題でない。」と言う地域の人がいる。どう対応したらいいかについて、例えば、スーパーがなくなったら買い物できない。あのスーパーで買い物しようと運動するのと同じ。学校がなくなれば地域は衰退する。その地域が今後も続いて欲しいと思うなら、学校統廃合に反対しようと訴えればどうか。 (事務局・城)