大規模災害と自治体~災害復興への備え 

投稿者: | 2020年1月25日

       講師 塩崎賢明(神戸大学名誉教授)

9月21日、大和郡山市市民交流館で講演会「大規模災害と自治体 災害復興への備え」を行いました。講演会には、会員22名、非会員19名の41名の方の参加がありました。講演会は、まず、塩崎賢明先生が講演し、次に、小林秀穂さんが「奈良県内自治体の防災体制」を報告し、最後にお二人への質疑応答と進みました。

「復興への備え」 災害が一段落してから生じる問題にどう備えるか

塩崎賢明先生(神戸大学名誉教授、工学博士)は、阪神淡路大震災以降、災害被災者の住生活の問題に携わってこられています。話のポイントとして、「復興への備え」=災害が一段落してから生じる問題にどう備えるか。災害から一命をとりとめた後、何が待っているか。命はあるが家や町はない。避難所、仮設住宅、生活再建、住宅再建、そこで生じる問題にどう対処するか。その備えができているかと話され、講演を進められました。

巨大地震だけでなく、毎年の水害にも注意が必要  半壊・一部損壊被害の救済が重要

日本は4つのプレートがひしめき合い、プレート型巨大地震が起こる。内陸部には2000以上の活断層やひずみ集中帯があり、直下型地震が起こる。世界で発生するM6以上の地震の約2割が日本周辺で発生している。それに加え、暴風、竜巻、豪雨、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、津波、噴火、地滑り等が起こっている。昨年の地震、豪雨、台風の大災害では、建物の全半壊には救済があるが、救済措置がない半壊、一部損壊が圧倒的に多く、1年経ってもブルーシートを張ったままの建物もたくさんある。復興できていない。これらも救済することが重要だ。

災害対応の責務を負っている自治体にそれだけの力量があるのか

法制度上、災害対応の第一義的責任は市町村などの地方自治体が負うことになっている。首長や全職員が被災者救済の最前線に立つことになる。しかし自治体にそれだけの力量があるのか。職員の数は減らされ、災害対応の研修も受けていない。国が災害対応の研修を行うべきだ。避難勧告等のガイドラインが改定された。早めの避難というが、実際に「全域に避難指示」が出されても全員が入れる避難所もない。そこに対応する職員もいない。避難所、職員の対応を再検討すべきだ。

近年の災害の特徴 ― 関連死の増加(復興災害)

関連死の比率が増大し、阪神淡路大震災以降の関連死は5,000人を越えている。これはもう一つの災害というべきもの。この主な原因は、避難所等への移動中の肉体的精神的疲労、避難所等における生活の肉体的精神的疲労にある。

非人間的な避難所・避難生活  災害時も憲法25条の最低限度の生活を営む権利がある

 体育館での雑魚寝、87年前と同じ状況だ。ホコリを吸う、プライバシーは守られない、肉体的精神的にとても悪い。

 難民や被災者に対する人道援助の最低基準として、「スフィア基準」がある。水1日7.5~15L、トイレ50人に1基、女性はこれの3倍、居住空間は覆いのあるフロアで1人当たり3.5㎡以上・・・。 日本の避難所の生活状況は、とても先進国とはいえない。体育館での雑魚寝、車中泊、おにぎり1個もらうのに何時間も並ぶ、おにぎりパンおにぎりパンの繰り返し、温かい食事がない。工事現場のトイレではもうしたくないという気持ちになる。これらは即刻改善しなければならない。人道上の危機だ。なぜ日本人はこれに甘んじているのか。災害時でも健康で文化的な最低限度の生活を営む権利がある。国民の意識改革が必要だ。

災害時でも普段と同じ生活を イタリアの実態

10分で組み立てられるハイドロテントの設置、簡易ベッドの使用、1時間で1000食作れるキッチンカーで温かい食事がとれる。パスタ、サラダ、肉、果物、ワイン等・・・、日本の冷たいおにぎりと比べて大変なごちそうだ。日本は先ずはTKBの改革をすべきだ。Tトイレ、Kキッチン、B簡易ベッドの改革を。

隠れた被災者―在宅被災者の救済

避難所や仮設住宅に行けず、壊れた自宅で暮らしている被災者が多数いる。災害救助法による応急修理制度があるが、いろいろと制約があり、補助限度額が低い。応急修理をすると仮設住宅、公営住宅が利用できない。住んでいる自治体によって補助が異なるのもおかしい。

鳥取県の災害ケースマネジメント 住宅だけでなく、生活全般の状況把握

2000年10月の鳥取県西部地震に際して、鳥取県は住宅再建に県独自で300万円の支援金を出した。これで希望が持てて家を再建し、地域が復興した。

2018年3月鳥取県はこれをレベルアップし、被災者の生活復興支援体制を構築した。被災者を行政側から訪問し、住宅だけでなく生活全般の状況を把握し、様々な分野で連携して被災者を支援することにした。生活保護のケースワーカーのような仕事だ。

応急仮設住宅  ムダのない住みよい住宅に

阪神大震災時は全て鉄骨プレハブ住宅だったが、東日本大震災時ではプレハブ仮設、木造仮設、みなし仮設の3種類となったのは前進だ。しかし、応急仮設住宅は次のような問題点がある。・使用期間は原則2年間、・欠陥施工、寒冷地仕様なし・居住性が悪い(二重ガラス、床下シート、断熱材、風呂釜の取り替えなどの追加工事が必要)・生活施設の欠如(医療、買い物、便利施設が近くにない)・抽選入居、遠隔地、従来のコミュニティ破壊、・コストは1戸当たり700万円以上かかるが、それを2年で壊す、・老朽化進み、カビの発生

木造仮設住宅は、優秀な断熱性・遮音性があり、地元産の木材を地元の業者が建築するので地域経済が活性化する。また建設費も比較的安い。2年後に払い下げて大人気となったところもある。

仮設住宅の供給システムとして、全県がプレハブ協会と協定しているが、全国木造建設事業協会とも協定締結を進めていくべき。

みなし仮設(借り上げ仮設住宅)は民間賃貸住宅の家賃を支給(6万円、2年間)するものだが、民間賃貸住宅のある自治体が限定される、また、入居者の実態把握ができず支援活動が届かない等の問題がある。

自力仮設住宅にも支援を

自力で従前の土地に仮設住宅を建築する方法もあるが、これには公的支援はない。しかし、これへの金銭支援は法律上可能である。要は知事が必要と認めるかどうかである。従前の土地に住め、2年で解体撤去することなく、継続使用、増改築等できる。コミュニティは維持され、地域の活性化もする。新しい技術でムービングハウスもでてきた。自力仮設住宅を推奨すべきだ。

インドネシアのコアハウス、アメリカのミシシッピコテージ、これらは仮設の小さな住宅が復興の進展にしたがって、増築し恒久住宅となるしくみだ。元の地域を離れず、徐々に復興していく。ムダのないいい見本だ。

イタリアの震災復興に学ぶ

イタリアも地震災害の多い国。しかし、災害復興への対応はきっちり行っている。決していい加減な国ではない。災害を受ける前と同じ生活を送れるよう仮設住宅を建設している。

・CASE住宅(持続可能な耐震エコ住宅)RCの耐震デッキ上に鉄骨集合住宅を建築。恒久建物を仮設住宅として供給。家具、電化製品、食器備え付け  2LDK 、3LDK等
・MAP住宅(仮設住宅モジュール)木造1~2階建て 40~70㎡

復興公営住宅の評価

復興公営住宅は、国、地方自治体による低家賃住宅で、自力再建できない人へのセーフティネットとして極めて重要である。しかし、狭い、間取り不自由、庭や畑なし、コミュニティの破壊等の問題がある。本来は、自分の生活にあった住宅を自由に再建できるのがいい。

孤独死  復興災害の典型

阪神淡路大震災1195人、東日本大震災230人、熊本地震では9人が孤独死で亡くなっている。その原因は、①低所得(金がない)②慢性疾患(アルコール依存症も)③社会的孤立(家族とも切れている)④劣悪住環境(人間らしい住まいの欠如)である。

自力再建こそ分かりやすい復興/被災者生活再建支援制度の課題

自分の土地で自由な建築、もとのコミュニティが維持される。自力再建が被災者にとって、一番分かりやすい復興だ。阪神淡路大震災の被災者の運動の成果として「被災者生活再建支援法」が制定された。しかし、わずか100万円、それも住宅再建には使えなかった。

2007年に抜本的改正がなされ、国から最大300万円、住宅建設にも使用できるようになった。しかし、これで十分か?
・支援金300万円は極めて不十分、これでは家は建てられない。
・半壊・一部損壊には支援がない。
・自治体による独自支援にはばらつきがある。
・ナショナルミニマムとして国民生活を守るべき
・対象拡大、支援金増額の法改正が必要。

被災者生活再建支援に回すお金はある

支援制度開始以来の支援金の総額は、272,670世帯、4,674億円。うち、東日本大震災で200,631世帯3,594億円である。
東日本大震災復興予算は32兆円。(このお金がどこへ?)
因みにF35戦闘機147億円 x 105機購入 = 1兆5千億円

復興まちづくり  東日本大震災被災地ではいたる所で大規模な移転事業

東日本大震災被災地は、土地が水没し、津波の危険性があるため、住宅復興の前にまちづくりをするという困難があった。防災集団移転事業によりいたるところで大規模な移転事業が行われたが、様々な問題が発生した。
・合意形成や事業に時間がかかる
・高台移転で仕事や雇用はあるのか
・高い防潮堤で町はどうなるのか
・住宅再建の困難 資金不足、物価上昇、資材・職人不足
・移転後の住宅地にいつまで人が住むか
・まちづくりと生活再建のギャップ
・まちづくり事業には3年、5年かかる

 当面の生活再建のめどが立たなければ、地域を離れる人が増える 一方、大船渡市の「差込型移転」では、既存集落の近くで空き地や遊休農地を見出して、小規模な集団移転を行った。費用が安い、事業が早い、周辺との融合、将来の空き地空き家の発生に対応しやすいメリットがある。

身の丈に合わない巨大事業は危険

「創造的復興」というスローガンは、実際には巨額の資金を投じて開発事業をするもの
・被災者の生活再建や営業再建に打撃を与える
・まちづくり事業そのものの問題として、事業完成まで待てない  事業等の遅れ、進む高齢化、住宅再建費用の不足、移転戸数の減少、空き家発生、巨大事業完成後の持続可能性はあるのか、買い取り跡地の活用問題
・神戸市新長田の再開発  商業・業務床はシャッター通りに
・熊本県益城町の県道4車線化  300件の土地建物の買収  規模が大きすぎて復興の妨げ?

今後の備え 災害後の復興に備えるシステムが必要(提言)

現状のまま巨大災害を迎えると、莫大な資金を投じても生活再建ができない。関連死が後を絶たない。この現状を変える復興制度の改善が必要。
・避難所の生活環境を劇的に改善すべし。TKB(トイレ、キッチン、お風呂)
・仮設住居の改善  プレハブ仮設を見直す。自力仮設への資金投入。様々な仮設住宅の容認。
・被災者生活再建支援金の大幅増額。
・復興庁廃止後の体制づくり 防災・復興省の創設

イタリアの災害対策 常設の災害対応機関 ・市民安全省  民間ボランティアが活動

常設の災害対応機関があり、全国の災害状況を3交代で24時間365日モニタリングしている。州、県、市町村に下部組織がある。発災後1時間以内に災害対策委員会を開催し、対応策を全国に指示する。

災害現場で実際に活動するのは民間ボランティア団体。ボランティア団体の登録人数は140万人、何らかの専門性を持っている。2週間のボランティア活動を法律で保障。交通費などの実費を国費で支給している。

日本の(スコップ1本持って行くようなアマチュアの)ボランティアではなく、救急車やキッチンカ―などの機材を持ったプロフェッショナルなボランティア団体だ。

日本にも常設の防災・復興機関が必要

日本では災害の経験・教訓の系統的な蓄積や人材育成ができていない。内閣府防災は各省庁からの出向人事だ。莫大な資金をつかって、被災者の復興ができていない。2次被害を防げない。2020年度廃止予定の復興庁は東日本大震災だけに対応する組織だ。

新しく「防災・復興省」を創設し、災害の始まりから復興までの全体を見通したシステムをつくり、有効に資金を使うことが必要。地方自治体が最前線に立てるだけの力量をつける。あるいはイタリアのように国とボランティアが全体を仕切るシステムにするか。

憲法改正や「緊急事態条項」は不要、有害だ。

お金はある 何に使うかが重要

莫大な被害が想定されている南海トラフ地震に対して、これまでのようなお金の使い方はできない。これまでは国家財政の30%程度の復興費を使ってきたが、230兆円もの被害額が想定されている南海トラフ地震に対して、国家財政の2倍以上もの復興費は出せない。しかし、東日本大震災では既に27.6兆円も使っているが、被災者の生活再建にはわずか2兆円程度しか使っていない。

お金はある。要は何にお金を使うかが重要だ。避難所での生活の質の向上や応急修理制度、被災者生活再建支援制度の抜本的改善にもっと資金を投入し、関連死などの発生を防ぐべきだ。自力再建方式の方が、行政コストは安上がりだ。

被災者支援の体制づくりと国民意識の改革

住宅の被害程度で支援内容がきまる仕組みではなく、生活被害の実態にあった制度をつくること。
被災者一人ひとりのカルテをつくり、その人にあった支援を行う「災害ケースマネジメント」が大切。国民の側に自分たちの生活を取り戻すこと、生活文化への強いこだわり・執念が必要。それが制度改革をもたらす。(日本人はもっと怒れ!)

 南海トラフ、首都直下地震までに早急に制度改革が必要と話されて、塩崎先生は講演を終えられました。