自治体問題研究所創立60周年記念シンポジウム~軍拡と地方自治~日本国憲法を守るために

投稿者: | 2023年6月17日

5月28日、自治体問題研究所(全国研)の2023年度定期総会が東京で開催され、総会終了後に、創立60周年記念シンポジウムがハイブリッド形式(開場参加+Z00M参加)で行われました。奈良研としては、シンポを集団で視聴しようと、大和郡山市市民交流館でZ00M参加しました。参加者は5名でした。

「岸田大軍拡と地方自治の未来」

岡田知弘氏(前理事長、京都橘大教授) 

記念講演をする岡田知弘氏の映像

岡田先生は、コロナ禍の3年4か月の間に、①コロナ禍と物価高による住民の命と暮らしの危機が深化した、②ロシアによるウクライナ侵略を機にした戦争の危機が現実化した、③経済安全保障の名の下で、大学・研究機関を政府の意の下に再編・支配する動きが強まった、戦前の京大・河上事件、滝川事件前後の時期と重なる動きがあり、若い研究者が自治研に参加しにくい情勢になってきている、④地方自治についても、デジタル改革や財政誘導による国による統制、自治権の侵害が広がっており、戦後の憲法と地方自治体制の存在意義そのものが問われる重大な岐路に立っている。

 地方自治法での自治体の責務は「住民の福祉の増進」であるのに、「儲ける自治体」が強調され、コロナ禍は日本における「公共サービス」改革の本質的問題を一気に顕在化させた。大阪維新の改革は、大阪に全国最悪のコロナ死者をもたらした。

 このような情勢の下で、いかに戦争を止め、公共をとり戻し、地方自治を確立する運動を展開し、展望を切り開くのかが問われる局面になっていると、先ず話されました。

着々と進められている経済安全保障

 次に岡田先生は、コロナ禍での政治的変動―安倍・菅政権の崩壊と岸田政権の誕生、2023年版「新しい資本主義」を解説した後、経済安全保障へと話しを進めました。

 安全保障概念の拡張は1970年代末からあった。当時はエネルギー、食糧の海外依存をめぐるエネルギー主権、食糧主権という問題意識だったが、今は、安倍政権の国家安全保障体制の強化策としての側面が強い。2013年の国家安全保障法の制定から始まり、安保関連法の改定、「経済安全保障の司令塔となる」経済班の設置・・・、経済安保担当大臣の設置、2022年春の経済安全保障推進法の成立と続いている。この中心には公安警察出身者がおり、特定秘密保護法、重要土地利用規制法、学術会議会員任命拒否にも関与したと言われている。

2022年春に成立した経済安全保障推進法の柱は次の4点、①海外依存度の高い特定重要物資の供給網の強靭化。②基幹インフラの安全確保 指定された施設設備や業務委託についての事前届け出。③官民技術協力 半導体、宇宙、量子、AIなどについて軍民両用技術の開発促進。④機微な技術の特許非公開 国の安全を損なうと考えられる特許について非公開

 そして法成立後、次々と政策が具体化されている。防衛費増額と敵基地攻撃能力保持を表明、IPEF中国包囲網への参加、日米で経済安全保障の観点から戦略物資確保合意、特定重要物資11分野を指定・・・・。

 ②の特定社会基盤役務を担う指定事業者には、地方自治体や公益的事業を行う民間企業も含まれ、道路、港湾、空港といったインフラだけでなく、金融、情報、放送等の事業がすべて国家の指示の下に置かれることになる。

経済安全保障の何が問題か

①日米同盟を大前提にした軍事的安全保障体制の強化の一環として、経済分野を取り込む動きを岸田政権は実行している。そこには、従来の防衛産業だけでなく、情報系企業、コンサル系企業も利害を共有している。かつての戦時経済統制体制の現代版を志向しているようだが、憲法9条と対立している。②対外的には、東アジア諸国との緊張関係をさらに高める。また、従来のWTO、TPPの自由貿易体制推進政策と大いに矛盾することになる。③国内的には、個人や企業の情報が自治体警察の上に立つ警察庁の「デジタル特高」(公安警察)の監視対象となるとともに、経済活動の自由を奪ったり、土地所有に関わる制限を行ったり、科学技術のデュアルユースを推進するために学問の自由を侵すことと必然的に結びつく。④政府が経済安保体制の一環として、自治体が保有する個人情報の「流通」を促進する公共サービスの産業化政策や「DX」政策を通して、自治体の役割と機能を大きく変質させ、政府の末端に置く改革(自治体戦略2040構想)がなされつつある。デジタル化と経済安全保障政策による、国と地方自治体との垂直的関係(明治憲法体制と同じく「戦争ができる統制体制」)への実質的転換を推進しつつある。

自治体問題研究所創立60周年記念シンポの視聴風景

「経済性」か「人間性」か 「人間性」に基づく主体的な運動こそが解決の道を切り開く

 コロナ禍の下で、「経済性」(惨事便乗型、短期的な金儲けの追求)と「人間性」(命と人間らしい暮ら しの尊重)の対立が広がった。「人間性」に基づく主体的な運動こそが解決の道を切り開く。例えば、
・カジノ反対の運動が市政転換の原動力になり、山中横浜市長が誕生した。
・住民運動を基礎にし、住民との対話、公共の再生を重視し、女性を中心とした市民との連携を強めた岸本 聡子杉並区長が誕生した。
・スペイン・バルセルナ市のコラウ市長の画期的な市政  水道再公営化、自然エネルギー供給会社の設立、 空き家を住宅、公共施設へ転換。デジタル化に対しては、市民参加のプラットフォームを作り、「個人デー タは企業や政府のものではなく、それを持つ人自身のものである。」という「データ主権」の思想を具体化

 足元からの地道な調査活動を  自治体問題研究所の歴史的役割を再確認

 大災害と戦争の時代に入るなかで、足元から住民の命を守り、平和を守り、人間らしい暮らしを再生・維持する持続可能な地域づくりが求められる時代にある。また、憲法と地方自治をめぐる戦後最大の危機局面が一段と深化している。今、改めて「憲法を暮らしの中に生かす」(蜷川虎三)ことが問われている。

 自治体問題研究所設立の契機となったのは、地域開発に伴う公害問題。それを告発した自治研運動の全国的広がりが革新自治体の誕生につながった。住民・各種団体と協力した調査活動(自治研活動)で地域固有の課題を見つけ、公共的な視点から運動を転換し、新たな政策・施策を創造し、解決することが重要だ。自治体問題研究所が全国・各地域でそのような活動をしてきた歴史的意義を再度学ぶべき。 国や自治体を少数の大企業のものではなく、主権者である国民、住民のものにする、その新たな潮流が世界的に広がっている。自治体問題研究所がその運動の基礎となる調査研究の旺盛な展開と情報発信に取り組み、地域研究所とのネットワークを維持強化し、新たな時代を切り開く主体として歴史的役割を果たし続けることを期待しますと話して、岡田先生は講演を終えられました。

島袋隆志さん(おきなわ住民自治研究所理事長)が「最前線基地化する沖縄」を、永野泰子さん(世田谷区職労副委員長)が「憲法を守る自治体職場からの取組」を報告されました。

 最後に発言を求められた岡田先生は、政府のやっていることには、正義も正当性も合理性もない。しかし、だから進まないということではない。政府のやっていることを知らない人が多い。歴史を知らない。地方自治は戦前にはなかったということも知らない人がいる。事実を正しく分かりやすく知らせていくしかない。行動していくことが大切だと話されました。

(文責 城)

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