奈良県の水道広域化、県域水道一体化の問題点

投稿者: | 2020年2月4日

(2019.01)講師小峠 憲司 氏(監事 奈良自治労連特別執行委員)

記念講演には、非会員の方2名を含めて31名が参加しました。講師の小峠さんは元奈良県職員で、土木、水道行政等に携わってこられた経験も踏まえて講演を進められました。

広域化、民営化を押し進める水道法改正

先ず、昨年12月に十分な議論もなく成立した改正水道法の説明をされました。
・水道法の目的が「水道を計画的に整備し、水道事業を保護育成する」から「水道の基盤を強化する」に変わった。経営の改善が主目的になった。
・都道府県が「水道基盤強化計画」を定め、「協議会」を組織できることになった。都道府県が広域化の中心的役割を果たすようになった。
・官民連携の推進 地方自治体が水道事業者としての立場を残しながら、水道施設に関する公共施設運営権(コンセッション方式)を民間事業者に設定できる仕組みを導入した。
コンセッション方式とは、民間資金を活用する公共施設整備の一種で、水道事業を民間事業者が収益していく方式です。民間事業者の収益確保・増大のために、経費削減や利用料金が高騰し、住民のための安くてきれいな水が損なわれる恐れがある。ひとたび、コンセッションの契約をすれば、民間事業者の情報は「企業秘密」として情報公開されず、地方議会で料金が妥当かを議論することもできなくなる。一般には契約は20年の長期にわたり、途中解約すれば民間事業者から損害賠償を請求される恐れがある。

時代遅れの水道民営化

 海外の民営化の先進国では、料金の高騰や水質の低下などの問題が多数起きて、再び公営化に戻す動きも広がっています。少なくとも267件が公営化へ。
・フランス・パリ市 料金高騰に加えて、民間企業の不透明な経営が問題となり、再公営化へ
・フィリピン・マニラ市  水道料金が4~5倍に跳ね上がる。
・ドイツ・ベルリン市 契約解消に1700億円もかかり、水道料金に上乗せする。
・アメリカ・インディアナポリス市  水質が悪化し大問題に。しかし、早期解約には30億円必要。

広域化・民営化の動き

 国は広域連携を進めてきたが、29年4月で協議会等の設立が26都道府県にとどまっています。しかし、水道法改正により広域化・民営化の動きが強まることになる。奈良県は、31年一体化推進協議会設立、32年一体化に関する覚書締結のスケジュールをたてています。
◇香川県 2018年4月県下全ての水道事業を一元化した広域水道事業がスタート
◇浜松市  2018年4月下水道の一部をコンセッション化  水道は反対運動により当面延期
◇奈良市  東部山間部のコンセッションを議会で否決  2018年10月包括的業務委託を締結
◇大阪府 2010年府営水道から大阪広域水道企業団設立し、府域一水道をめざす
◇大阪市  2017年3月水道民営化を議会で否決

奈良モデルと県域水道

「平成の大合併」において、奈良県では合併が進まなかった。それで、合併に代わる手法として、県と市町村の垂直連携、市町村相互の水平連携により、地方行政効率化を図ることとしました。その方針の下、県と市町村が連携協働する奈良モデルの候補として、73業務を選定した。県域水道一体化もその一つ。

 県域水道一体化とは何か

 

続いて、奈良県の「県域水道一体化の目指す姿と方向性H30.2」より県が行おうとしている県域水道一体化の説明を進められました。
奈良県内上水道事業(28市町村)の現状分析によると、
・人口減少等による水需要の減少、料金収入の減少
・老朽化施設の更新や耐震化対応による投資費用の増大
・職員の減少、退職による技術力低下、人員不足 
 これらのことにより、ムダな経費を抑制して、効率的な経営をする必要があるとし、県は、県域水道ビジョンの策定、県域水道ファシリティマネジメントの実行をした。

県域水道ビジョンとは、水源の適正利用、施設投資の最適化、業務の効率化に着眼して、自然的条件、浄水場の規模、施設形態などの特性で、県を3つのエリア(県営水道エリア、五條・吉野エリア、簡易水道エリア)に区分した。
県域水道ファシリティマネジメントとは、県営水道と市町村水道を一体としてとらえ、県営水道と市町村水道の有する水道資産を、県がイニシアチィブをとって、県域全体で最適化する取り組み。もって、安全・廉価・安定的な水道供給を持続できる県域水道を目指すとしている。

一体化の目指す姿として、県営水道エリアでは、浄水場(水源)を奈良市緑ヶ丘、県御所、県桜井の3ヵ所に集約し、外は順次廃止を検討。五條吉野エリアでは、吉野町飯貝を廃止、五條市小島を縮小。この2エリアの管理・運営を統合し、その後、組織体制を統合して上水道を一体化する。簡易水道エリアは、業務支援内容の具体化を図り、広域的な支援体制を構築して、受け皿組織を設立するとしている。

 H31年~32年が一体化に進むかどうかの大きな判断時期

H31年に一体化推進協議会の設立、H32年一体化に関する覚書の締結、H36年経営母体設立基本協定の締結という一体化のスケジュールを立てています。そして、H38年を目標に経営統合(企業団?)を行い、その後10年以内に事業統合(水道料金の統一、資産の一体化等)を行うとしている。

奈良県の水道広域化・一体化の問題点は

優良な自己水を捨てさせて県水を買わせる - 県水の給水量を維持して収益の悪化を食い止めるためか

県水の水源は宇陀川と吉野川、2013年に大滝ダムの供用が開始されて大きな水利権量を持ったが、2016年度の県水給水量は半分にも充たず、77,350千m3にとどまっている。市町村も含めた奈良県全体の給水量145,400千m3の53%である。H52年の水需要将来予測では、145,400千m3が110,000千m3に減少することになる。県市町村同比率の場合、県水が54%で60,200千m3。市町村が自己水を優先すれば、県水が45%で50,000千m3となり、いずれにしても県水の給水量が大幅に減少する。一体化案のように奈良市以外の自己水を廃止した場合は、県水が74%で81,300千m3と現在の給水量を維持できることになる。収支面からみて、県水は毎年10億円以上の利益を上げているが、H52年県水比率が現行と同じ場合は3億円と減少する予測である。

事業統合で統一料金に 水道料金の大幅な値上げの市町村も出てくる
市町村が県水転換しやすいように、140円/m3を130円/m3に引き下げ、加えて基準水量を超える受水に対しては原価割れの90円/m3を設定しています。でも、これでも県水は高い。給水原価は103.62円/m3、供給単価は123.38円/m3ですが、給水原価の全国平均は74.56円/m3、供給単価の全国平均は85.30円/m3です。市町村の水道料金は現在2倍以上の開きがありますが、事業統一で料金が統一されれば、大幅な値上げになるところが出てきます。
大規模災害を乗り越えられるか
一体化計画では、浄水場を奈良市緑ヶ丘、県御所、県桜井の3ヵ所に集約する計画ですが、これらは奈良盆地の縁にあり、長距離の送水管で送水しています。奈良盆地周辺には多くの活断層が走っており、南海・東南海巨大地震によって活断層が動くことも想定されています。このような時に自己水を持っていることは、災害時の安全、断水時間の短縮に大きく寄与することになる。

住民の命の水を守るのは自治体の責任

優良な自己水は市民の宝です。自己水を維持することは経済的理由だけでなく、災害時の安全にも大きく貢献する。県の提案に対し十分な検討と対応が望まれます。自治体として、議会での議論や住民の参加した議論をつくし、自己水源や人口、産業、交通などの「自治体の自然的・社会的条件に応じた計画」の視点を貫いて、各自治体に最もふさわしい水道の計画をつくることが重要ですと話して、小峠さんは講演を終えられました。

講演終了後、参加者から多くの発言がありました。・住民を無視して県一本化を決めるな。近隣の市町村で協力できないのか。・水は公共のもの。県一本化されて企業団になると住民から遠く離れる。いつ民営化されるか分からない。・奈良市の水道コンセッションは、東部地域住民がこぞって反対し、市議会で否決された。・県は水利権の半分も使っていない。(事務局 城)