学習会「地方行政のデジタル化と地方自治」

投稿者: | 2021年12月19日
2021年11月27日大和郡山市市民交流館にて

 

11月27日、 本多滝夫龍谷大学法学部教授 を講師に、大和郡山市市民交流館で学習会を行いました。参加者は18名(うち会員15名、非会員3名)でした。本多先生は、デジタル化の一般的なイメージは、役所に行かずともあらゆる手続きができる、都会と同様の医療や教育が受けられる、画面で仕事をすべて済ますことができる、地方に暮らしていてもテレワークで都会と同じ仕事ができるというイメージだろうが、果たしていま進められている地方行政のデジタル化はそういうことだろうかと話して、講演を始められました。

デジタル社会における自治体行政

デジタル化に関する用語の理解

  • Digitization  デジタイゼーション
    文書作成や事務処理手続きをアナログ形式からデジタル形式に転換する。   ex行政手続きをオンライン化する。ラインを使ってコロナ情報や学校休校等の情報を提供する。
  • Digitalization デジタライゼーンョン
    デジタル化された情報(データ)の活用とデータ相互の間の連携を可能とする、デジタル技術によるプラットフォームを形成すること。
      exネットショッピング  発注者の個人情報とカード会社の個人情報が連携し、購入情報が蓄積され、ビッグデータとなって、発注者に新たな商品情報を提案する。
  • Digital Transformation (DX) デジタル・トランスフォーメーション
    デジタライゼーションに対応できるICT人材を中心とする組織に再編し、課題をデジタライゼーションを通じて解決するといった志向に組織文化を転換すること。 組織の編成をデジタライゼーションに変える。首長の下に新たに設けるポストCIO(最高情報責任者)を設け、CIOを中心とする全庁的なDX推進体制を整備する。自治体の中にはICT人材はいないので、民間から来てもらうことになる。

自治体DX推進

 本多先生は、デジタル社会とSociety5.0、デジタル社会とデジタルガバメントの説明をしたのち、自治体DXの説明に入られました。

 自治体DX推進計画には、自治体が取り組むべき重点事項として、①自治体の情報システムの標準化・共通化、②マイナンバーカードの普及促進、③自治体の行政手続きのオンライン化、④自治体のAI・RPAの利用促進、⑤テレワークの推進、⑥セキュリティ対策の徹底があげられている。

 自治体の情報システムの標準化・共通化とは、自治体の主要な基幹系17業務の標準仕様書をデジタル庁が作成する基本的な方針の下、関係府省において作成する。「Gov-Cloud」の活用に向けた検討を踏まえ、各事業者が標準仕様に準拠して開発したシステムを自治体が利用することを目指す。自治体の情報化システムは、国が定めた標準化基準に適合しなければならない。カスタマイズは例外。「Gov-Cloud」を想定したクラウドを活用する努力義務があるという。これでは地方分権から中央集権化ではないか。

なお、基幹系17業務のうち、厚労省の障害者福祉、介護保険の2つの標準仕様書が公表されています。

自治体DXと地方自治制度の再編  自治体戦略2040構想研究会(2018年7月 第2次報告)

 構想研究会は、「2040年頃にかけて迫りくる我が国の内政上の危機」に対応することができる「新たな自治体行政の考え方」として、①スマート自治体への転換、②公共私による暮らしの維持、③圏域マネジメントと二層制の柔軟化、④東京圏のプラットフォームを提示した。

 ①のスマート自治体への転換では、破壊的技術(AI、ロボティクス等)を使いこなすスマート自治体へ、従来の半分の職員でも自治体が本来担うべき機能を発揮できる仕組みが必要、全ての自治体でAI、ロボティクスが処理できる事務作業は全てAI、ロボティクスによって自動処理するスマート自治体へ転換する必要がある。また、自治体行政を標準化された共通基盤を用いた効率的なサービス提供体制へ、期限を切って標準化・共通化を実施する必要があるとしている。
 自治体戦略2040構想は、スマート自治体として半分の職員による業務、公共私のベストミックスとしてアウトソーシングとシェアリング・エコノミーの拡大による自治体業務の削減、圏域マネジメントと二層制の柔軟化として圏域内の周辺市町村は中心市の「内部団体」、圏域外の小規模市町村は「特例的団体」としている。これは地方自治の否定そのものだ。

自治体DXと地方自治制度の再編  第32回地方制度調査会(2020年6月 答申)

 自治体戦略2040構想研究会報告を受けて開催された調査会は、政府にとって地方行政のデジタル化を最重要課題とし、社会全体で徹底したデジタル化が進めば、東京一極集中による人口の過度の偏在の緩和や、これによる大規模な自然災害や感染症等のリスクの低減も期待できるとしている。

「地方行政のデジタル化」は、住民、企業等の様々な主体にとって利便性を向上させ、公共私の連携や地方公共団体の広域連携による知識・情報の共有や課題解決の可能性を拡大し、組織や地域の枠を越えたイノベーション創出の基盤を構築するものとしている。

以上を受けて、本多先生は地方自治には2つの「近未来」があると言います。

地方自治の「近未来」シナリオ1

・「各府省の施策(アプリケーション)の機能が最大限発揮できるようにするための自治体行政(OS)の書き換え」が文字通りに実装化される。  これは新たな中央集権、同じ仕事をするなら自治不要となる。
・情報システムの標準化・共通化は広域連携を容易にし、自治体は「行政区」化する。 新たな市町村合併
・行政手続きのデジタル化による窓口業務の縮小(住民に対する応答性の劣化)は、公共サービスの、公共私の連携として構築されたプラットフォーム上に展開したシェアリング・エコノミーへの丸投げを容易にする。新たな自治体リストラ
DX化した自治体は、個人情報保護の緩和と相まって、自治体を個人情報の収集・提供事業者となり下がる。

地方自治の「近未来」シナリオ2

・自治体における情報システムのカスタマイズ
住民の意見を反映して自治体が情報システムのカスタマイズ化を必要とする場合には、国はそれを制限すべきではなく、団体自治の保障の観点から逆に支援すべき。
・自治体窓口の高機能化
オンライン化は、対面窓口の削減ではなく、住民の多様なニーズを反映すべく高機能化すべき。
・自治体における個人情報保護のリニューアル
・自治体におけるデジタル民主主義

スペイン・バルセルナ市では、都市環境で現在進んでいるデジタル・トランスフォーメーションの影響を評価し、デジタル時代に人権を強化し、人々を技術の展開の中心に据える、より持続可能で公平、包摂的なデジタルへの移行における構築方法を議論している。

 自治体のデジタル化は、持続可能な住民の生活保障や自治を、デジタル技術とネットワークを利用してより豊かなものにするという趣旨であるべきだ。シナリオ1であってはならない。

デジタル社会における個人情報保護と自治体

個人情報保護制度の見直し

 今年9月に施行された「デジタル社会形成法関係整備法」により個人情報保護制度が見直しされることになった。その内容は、個人情報保護法、行政機関個人情報保護法、独立行政機関等個人情報保護法の3本の法律を1本の法律に統合するとともに、地方公共団体の個人情報保護制度についても統合後の法律において全国的な共通ルールを規定し、全体の所管を個人情報保護委員会に一元化する等である。これは、社会全体のデジタル化に対応した「個人情報保護」と「データ流通」の両立という内圧と、個人情報保護に関する国際的な制度調和と我が国の成長戦略への整合という外圧に対応するものである。

新個人情報保護法と自治体
適用対象    地方公共団体の機関及び地方独立行政法人を対象とし、国と 同じ法律を適用する。
定義の一元化  個人情報の定義について、国・民間部門と同じ規律を適用する。
     生存者の個人情報(死者の個人情報は規律対象外)
     容易照合可能性(完全照合可能性よりも保護される範囲が狭い)
     要配慮個人情報(要配慮個人情報の収集制限規定はない)
個人情報の取り扱い  国と同じ規律を適用する。
           保有の制限(本人からの取集を原則としていない)
           安全管理措置

自治体における個人情報保護

 新個人情報保護法において自治体が取り組むべき課題を条例に限定して指摘すると、
・必要的条例事項  (条例を定めないと新個人情報保護法を当該自治体において施行できない事項)
開示請求に関する手数料、行政機関等匿名加工情報の利用に関する手数料
・狭義の任意的条例事項 (自治体の自主的な判断で追加規定を条例で定めることを明文で認めている事項)
条例要配慮個人情報、開示、訂正及び利用停止の手続き並びに審査請求の手続き、審議会等への諮問
・広義の任意的条例事項

 (地方自治の本旨にのっとり、自治体が新個人情報保護法とは別に定めることができる事項)

  地方議会における個人情報保護、死者の個人情報保護、個人情報の取り扱いの特例(オンライン結合の制限、執行機関内部部局相互の間での提供の制限)

個人情報保護と地方自治

 個人情報保護法の目的は、あくまでも個人の権利利益の保護だが、なおも不十分だ。GDPRと比較すると、忘れられる権利、データポータビリティの権利、プロファイリングに対して異議を唱える権利、自動処理のみに基づき重要な決定を下されない権利がない。

 自治体が保有する個人情報に関する事務は自治事務だ。住民自治を踏まえた個人情報保護の伝統こそ地域の特性だ。(本人の同意を得て個人情報を収集する。

審議会への諮問等慎重な手続きを経て公正かつ透明性が確保された管理。) 平井担当大臣の言う「(自治体条例の)リセット」は自治の侵害だ。

カタカナ文字が多く出てくるととたんに理解が困難になります。ぜひ、本多先生と久保貴裕(自治労連)さん共著の「自治体DXでどうなる 地方自治の近未来」をお読みください。

(文責 城)

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