西粟倉村に学ぶ~自然再生エネルギー社会実践

投稿者: | 2021年6月29日

奈良自治体問題研究所 理事 田中 義夫

『住民と自治』誌7月号・特集「自立分散型再生可能エネルギーをめざして」から

6月23日、奈良県知事が平群町のメガソーラー工事の停止を指示したことがニュースになりました。申請内容の虚偽・誤りが判明したためとされています。昨今、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現が社会課題となる中、再生可能エネルギー固定買取制度(FIT)をテコに、急速かつ大規模な開発が各地ですすめられ、その影響が自然環境や地域社会に大きな歪みをもたらす事例が頻発しています。平群町の事案はその典型といえます。再生可能エネルギーは、本来、地産地消により利用され、地域での生産活動や消費行動を環境に負荷の少ない仕組みとして開発がすすめられるべきものです。

 『住民と自治』誌7月号は、特集「自立分散型再生可能エネルギーをめざして」と題して、住民有志や地域企業、自治体などによる再生可能エネルギーを利用した地域振興の取り組みを紹介しつつ、地域でのこうした活動の意義を考える企画となっています。①岡山県西粟倉村の報告(地域資源である森林の利活用によって、自然エネルギーを軸に地域に新しい企業、人材、雇用を創出し、循環型地域経済のモデルを実践)、②北海道における雪氷冷熱利用の可能性、③自然エネルギーと農業を組み合わせたソーラーシェアリングと木質バイオマスの挑戦、④群馬県中之条町の自治体によるエネルギーの地産地消事業の実践報告などで、いずれもすばらしい活動です。その中から西(にし)粟倉(あわくら)村(そん)の実践報告を紹介します。(本誌では井内尚樹氏・名城大経済学部教授が報告されています。) 

「百年の森林(もり)構想」と地域循環型経済システム 

取り組みの出発点は、「平成の大合併」がすすめられた2004年、西粟倉村の道上前村長が、住民アンケートの結果を尊重して合併協議からの離脱を決断、自主自立の道を選択するとともに、自立できる村の振興策として「百年の森林構想」を着想し、地域資源としての森林の利活用による内発的発展をめざす道をとったことにあるといいます。

 100年の森林構想とは、「50年前に子や孫のためにと、木を植えた人々の想い。その想いを大切にして、立派な百年の森林に育て上げていく。そのために村ぐるみで挑戦を続けようという理念にもとづくもの」で、その中心となる協定が「役場が森林所有者から森林を預かり、村の予算で効率的な森林整備を行い、10年を区切りとして長期に管理していくもの」「美しい森林を守り、限りある自然の恵みを大切な人たちと分かち合える上質な田舎づくりを目指す」(西粟倉村HPより)ものです。   参照:西粟倉村HP

 村は百年の森林事業で森林を整備しながら、切り出した木材を直接、村内の製材所、木工加工所、工務店などに販売します。また、製材にできない材木や間伐材などは薪、木質チップなどに加工し販売、活用をすすめています。このようにCO2削減だけでなく、地域資源の利活用から村内で新しい循環型地域経済システムが構築され、新会社の設立、新しい雇用が創出されるなどの好循環が生まれているのです。

森林を利活用した自然エネルギー生産と地域熱供給網

 村内の3か所の温泉施設は薪ボイラーを導入し、森林資源による熱エネルギーで運営されています。ただ注目すべきは、西粟倉村では、点的な温泉施設への熱供給というレベルから、地域熱供給網を構築した線・面への木質バイオマスによる地域熱供給へと村の考え方が発展していることです。熱エネルギーセンターから地下に熱導管(60℃の湯をセンターから送り、暖房と給湯を行い、40℃でセンターに戻し、温めなおす循環)を設置して、保育所、役場、高齢者施設、小中学校への熱供給を実施しています。将来的には、村営住宅、農業プラントなど面的に熱供給を行う計画であるとのことです。このように村全体で新しいインフラ整備が計画的に行われていることは重要な点だと思います。

 このほか、村では小水力発電所を2か所、太陽光発電を6か所設置して自然エネルギー生産を行っています。外部資本によるメガソーラーはなく、ここでも内発的事業として展開されているようです。

 多様な人材と新たな人材養成

 「百年の森林構想」を事業化していく「村の総合商社」と紹介されている「西粟倉 森の学校」の活動も魅力的です。総務省の地域おこし協力隊制度も活用しながら多様な人材の受け入れ、移住・企業支援をしながら、人材養成と新たな事業と雇用を創出するさまざまな取り組みがおこなわれています。
  参照(株式会社西粟倉森の学校)

 レポートで井内氏は、自然エネルギー生産には、地域に新しい企業、人材、雇用を創出することと新しい制度インフラを整備する課題があると提起しています。西粟倉村の取り組みに学ぶべき多くの教訓があるように思います。

環境省が「国・地方脱炭素社会実現会議」で、100か所の脱炭素先行地域づくりをすすめ「脱炭素ドミノ」を起こすとしています。「バイオマス産業都市」「環境モデル都市」に選定された西粟倉村は、まさしく先行地域と呼ぶにふさわしいモデルであるように思います。日本全国の地域で、それぞれの地域に合った形で、同様の取り組みが広がっていくことを願わずにはいられません。

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