「県域水道一体化」の広域行政の問題点

投稿者: | 2021年6月15日

中尾 一郎(理事、元奈良市水道局長)

奈良県は市民の生命と暮らしに直結する市町村の水道事業を廃止し、県営の用水供給事業と大和郡山市を除く県内の11市、15町、明日香村1村の水道事業及び一部事務組合の水質検査事務を一体化する「水道事業等の統合に関する覚書」を本年1月25日に締結し、(仮称)奈良県広域水道企業団を設立しようとしています。

 締結された「覚書」には、水道の置かれている現状を「水需要減少に伴う給水収益の減少、増大する老朽化施設の更新及び職員の減少による技術力の低下等により、水道事業の経営環境が厳しくなる中」と言っていますが、これらのことは十数年前から常に言い続けられてきたことにもかかわらず、今日まで積極的な対策を怠ってきた結果です。特に、職員の減少による技術力の低下は、職員の定員適正化計画のもとに、退職する技術職員の技術継承を補うための職員補充をすることなく、不採用で削減してきた結果だと思います。

「水道事業等の統合に関する基本方針」での組織体制
         (参照表)広域行政の組織・機構

 企業団の意思決定機関として企業団議会を置き、定数、選出方法及び任期等については企業団の規約で定めることとし、運営に際しては予算・決算等重要事項の協議を行うため、関係団体の長で構成される運営協議会を設置することにしています。
既に県内では、広域行政として奈良市、生駒市を除く10市、15町、12村の37市町村で組織されている奈良県広域消防組合が運営されています。その規約では組合会議会の議員定数は25人とし、別に定める区分と定数を定め、区分内の市町村の長又は議員の中から選出することになっています。

また、奈良市を除く38市町村で組織されている奈良広域水質検査センター組合の規約でも組合会議会の議員定数は7人とし、別に定める地区ごとに市町村の長を互選により1人を充てるとしています。

大阪府の大阪広域水道企業団は、大阪市を除く大阪府下の42市町村で企業団の共同処理として水道用水事業、水道事業、工業用水事業等を行っています。企業団規約で議員定数を33人と定め、市町村議会の議員の中から選挙することになっています。

兵庫県の神戸市、尼崎市、西宮市、芦屋市、宝塚市は阪神水道企業団を組織し、水道用水供給事業を共同処理しています。企業団規約で議員定数を議会の議員から神戸市8人、尼崎市3人、西宮市2人、芦屋市1人、宝塚市1人の15人としています。

企業団議会では住民の意見が反映されない

 以上のように、県域水道一体化の企業団になれば、住民が選挙で選んだ議員が市町村議会で水道事業について議論することなく、企業団議会で一部の市町村の首長と議員だけの協議となり、予算、決算等、重要事項の協議と意思決定を行います。

 市民から負託されている議会が行政のチェックする権限を活かし、住民の意見や要望を議会で議論し、情報を市民に発信することによって初めて分かることがたくさんあります。しかし、企業団議会となると、水道料金を含め水道事業に対し住民の意見が反映されず、市町村議会で議論できないのは地方自治体の議会制民主主義や二元代表制になじまないと思います。

職員の身分、労働条件も激変

 企業団で働く職員については当初、統合前の職員数を派遣又は身分移管で確保することになっていいますが、順次、身分移管又は企業団採用を進めていくとしています。市町村で働く水道局職員にとっては業務範囲の広域化に伴う職場環境の変化や対応、労働条件等様々な問題点を何時の時点で誰と取り決めるのか課題があります。

事務所と窓口業務は当初、現在の場所となっていますが、一定期間経過後、(仮称)ブロック統括センターに集約され、統廃合によって住民の利便性が悪くなります。

浄水場を3箇所に集約する問題点、自己水源は宝

 施設・管路整備については、県営水道区域内にある浄水場を順次統廃合を進め、連絡管の整備等を新たに設置し、御所浄水場、桜井浄水場、緑ヶ丘浄水場の3ヶ所から供給を受けることになっています。給水エリアが広く、水需要量も異なり、配水末端までの到着時間に差があり、残留塩素濃度が偏在傾向(浄水場に近い市町村の濃度が高い傾向)となって、追加塩素注入設備の整備が必要となります。

 市町村の自己水源は、市民にとって宝です。多様な水源を確保することは災害時に相互に能力を保管することが可能となり、大災害時の断水を考えると市町村の浄水場を活用する必要があります。複数の水源を持っていることは、個々の施設における災害対策と共に、特に災害時にはその威力が発揮されます。

水は私たちの生活や暮らしにとって一日も欠かすことのできない不可欠なものです。住民の声も聴かずに県域水道一体化を進めることは市民不在で許されることではありません。

「県域水道一体化」の広域行政の問題点」への1件のフィードバック

  1. 木村正孝

    元一部事務組合職員として、大変納得できると思います内容です。危惧されていることばそのとおりです。わたくしも、身をもって知っています。
    住民から遠くなることは、住民はもちろん、事業者にとっても大変だ不幸です。日常的に、住民を意識しないことは、誰のための事業か、を、忘れることになります。その先にある結果は明らかです。

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