学習会「新型コロナ対策と自治体財政」

投稿者: | 2021年6月15日

5月22日(土)午後、標記の学習会を大和郡山市市民交流館で行いました。参加者は18名(うち会員17名)でした。講師の平岡和久・立命館大学教授は、昨年より「人口減少と危機のなかの地方行財政」「新型コロナ対策と自治体財政」(共著)を出版したが、情報は日々更新されている。近日中に「新型コロナウイルス感染症と自治体の攻防」を出版するので、ぜひ読んで活動の参考にしてほしいと話してから講演を始められました。以下、講演の概要を報告します。

学習会「新型コロナ対策と自治体財政」の様子

ウィズコロナではなく、ゼロコロナ対策を

 日本ではゼロコロナを目指す対策がとられず、ウィズコロナ対策による社会経済活動抑制 → 緩和 → 感染再拡大 → 社会経済活動抑制の繰り返しと財政・資源の逐次投入により、社会経済が疲弊した。ゼロコロナ対策・徹底した押さえ込みをした国は経済回復が早かったが、日本は多額の財政支出をしているのに経済は良くなっていない。コロナ禍でのバブル膨張と営業・生活破壊、格差拡大、2020年度の実質経済成長率は▲5.46%、消費支出の悪化、失業者、休業者の増加・・・。

コロナ禍は災害、政策災害のコロナ禍

コロナ禍を災害として捉えれば、政策の枠組みは次の点を考慮する必要がある。
① 被害の実態を総合的に把握する  健康被害、経済的被害、社会的弱者へ  の被害集中等
② 被害の原因と責任の所在を明らかにすること  災害への備えの不備、政策的対応の遅れ、失敗等
③ 被害者へのケア、補償と生活・経営の維持再建を行うこと
④ 感染拡大防止、収束のための規制や行政手段、公民協力などの展開
⑤ 災害に対する備えや予防を重視すること  公衆衛生、自治体組織体制、医療提供体制、産業基盤等

政策災害としてのコロナ禍
・インバウンドの推進(中国の春節など)による感染拡大(武漢型)
・空港検疫対応の不十分(3月欧米からの帰国)による感染拡大(欧米型)
・PCR検査抑制策による感染拡大
・画一的な自粛、補償なき休業要請策による社会経済活動の破壊
・画一的なソーシャルディスタンス政策による社会経済活動の破壊
・非科学的な指標設定と政治利用
・収束なきGoToキャンペーンによる全国への感染拡大、第3波への対応の遅れ

3次にわたる補正予算、新型コロナ対策費は71.6兆円

 2020年4月、6月及び12月の3次にわたる補正予算の一般会計歳出総額は73兆円、うち新型コロナ対策費が約71.6兆になった。71.6兆円のうち、感染拡大防止・医療確保等が約9.2兆円で13%であり、雇用維持・事業継続・生活対策等は43.3兆円で60%、地方創生臨時交付金は7.9兆円で11%、経済活動回復・ポストコロナの経済対策は10.6兆円で15%である。

 平岡先生は、各補正予算、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の概要、問題点を次のように話されました。
・検査と隔離・保護及び医療提供体制に対する予算措置はいまだ不十分
・休業要請に対する補償の不在、経済支援の不十分性、その遅れがさらに被害を深刻化させた
・地方創生臨時交付金の位置づけ、補助裏への充当制限、配分方式
・第2次補正では10兆円もの巨額の予備費の計上 憲法の財政民主主義の原則に違反
・GoToキャンペーンやアベノマスク等のニーズや時宜にあわない予算が見直されない
・持続化給付金の再委託問題に見られるように、不透明な委託費の流れや特定事業者に利益が集中する問題
・自治体の財政需要の増加、職員体制強化も含め、自治体が安定した財政運営を行われるよう、地方一般財源の拡充が行われていない
・感染症緊急包括支援交付金は1次補正ではわずか1490億円、2次補正で2兆2370億円と大幅拡充し、10/10補助、介護福祉分野の支援を追加した。3次補正で1兆3011億円を追加した。しかし、事業メニューや補助対象が限定的で補助基準上限が定められる等、地域に応じた柔軟な対応が困難である。PCR検査の運営費、検査費用等について、交付金の充当が認められない。都道府県に膨大な事務量の負担がある。
・感染症対応地方創生臨時交付金は、1次で1兆円、2次で2兆円、3次で1.5兆円。単独事業(10/10)と補助事業(地方負担額)があり、ソフト事業を対象とし、それに付随するハード事業も対象。

3次補正は感染防止よりポストコロナ対策に重点的に予算計上

 感染拡大防止策4.4兆円、ポストコロナに向けた経済構造転換等に11.7兆円、国土強靭化等に3.1兆円。
・感染拡大防止の肝である無症状者へのPCR検査大幅拡充への財政措置や医療機関への減収補填が盛り込まれていない。予算措置が不充分。
・デジタル化、GoToトラベル、サプライチェーン強化、マイナンバー普及促進等、コロナ禍で苦しんでいる中小事業者への支援とは直接関係のない事業に多くの予算配置。このままでは中小事業者の淘汰が促進される。
・国土強靭化等は本来次年度当初予算で講ずべきもの。
・感染症対応地方創生臨時交付金は1.5兆円。地方単独分の配分方式は、緊急事態宣言実施都道府県への傾斜配分より、一次二次と同様に、財政力が低く人口規模が小さい県への傾斜配分が強い。
飲食店の時短要請にかかる協力金等の「即時対応分」が0.2兆円。その後、予備費から1兆6220億円等が追加された。

 自治体の税収減による財源不足と対策

 2020年度における税収減に対しては、法人事業税、道府県民税法人税割・利子割等については、減収補填債の対象。それらに加えて所得割・特別とん譲与税については、減収補填債で措置されない分について、翌年度以降の普通交付税の精算措置に。さらに2020年度に限って、減収補填債の対象を拡大し、地方消費税、不動産取得税等も減収補填債の対象とした。さらに、「特別減収対策債」「特別減収対策企業債」を創設した。
 2021年度も特別減収対策債、特別減少対策企業債を引き続き措置することにした。
京都市のように、税収減を機にリストラを進めようとするのは誤っている。

 自治体首長のやる気が重要

 世田谷区では、昨年10月より介護事業所等を対象にPCR検査(社会的検査)を実施した。保健所に負担をかけないよう民間委託し、プール方式をとった。検討時には国の財政措置はなかったが、国の第二次補正により感染症対応地方創生臨時交付金を使えるようになった。検査した事業所としなかった事業所ではクラスターの発生が違った結果になった。
 広島県でも感染症対応地方創生臨時交付金を使って大規模な社会的検査を行い始めた。自治体首長の一般財源を使ってもやるぞという姿勢が大事だ。

2021年度地方財政対策・通常収支分  最低限の財源は確保した

2021年度政府予算は106.6兆円で過去最高額。前年度当初予算と比較して、増加した要因は新型コロナ対策の予備費5兆円。

 2021年度地方財政対策・通常収支分の歳入は、地方税・地方贈与税は40.1兆円(▲3.4兆円)、地方交付税は17.4兆円(+0.9兆円)、臨時財政対策債は5.5兆円(+2.3兆円)で、一般財源総額は63.4兆円(▲0.1兆円)となり、地方交付税不交付団体の水準超経費を除くと62.2兆円(+0.5兆円)と若干増加した。

 同歳出の給与関係費は20.2兆円で、保健所の人員体制の強化(保健師2021年度450人増員、2022年度450人増員)が図られ、小学校35人学級への移行が開始されるものの、教職員体制や自治体職員体制を抜本的に改善するにはほど遠いものになっている。

 同歳出の一般行政経費単独分は14.8兆円で、会計年度任用職員制度の平準化による経費増650億円を除けばほぼ横ばい。まち・ひと・しごと創生事業費は前年度に引き続き1兆円、地域社会再生事業費は4200億円、地域デジタル社会推進費は2000億円が計上された。

地方交付税算定の留意点 基準財政需要額が増加

基準財政需要額のうち、個別算定経費(地域デジタル社会推進費、公債費等を除く)は、道府県分+2.5%、市町村分+2.0%で、包括算定経費は道府県分+4.0%、市町村分+4.0%程度が見込まれている。地方税収減のなかで地方一般財源総額を確保する必要から基準財政需要額が増加した。

 なお、2021年度交付税算定から2020年国勢調査人口等が反映される。
特別交付税総額は前年度当初比+5.1%となる。

 感染拡大防止と社会経済活動の両立をどう図るか

・「膨大な検査 → 隔離・保護・追跡と治療」が感染拡大防止の基本 
 無症状者を含め検査を抜本的に拡大するとともに、隔離・医療体制の整備が喫緊に必要。
・医療機関の経営危機に対しては、政府による経営支援が不可欠。
・社会的弱者やコロナによる被害を受けた事業者、個人への支援の継続、拡充が必要。(雇用調整助成金、持続化給付金、家賃支援給付金、税・保険料等の減免・徴収猶予・・)
・ワクチン接種の取り組み

国による地方財政対策の課題

国と地方の大幅な税収減の中で、新型対策に係る財政需要の増加、職員体制強化も含め、自治体が安定した財政運営が行われるよう、地方一般財源総額の確保、拡充が必要。
・医療機関への減収補填を含む経営支援
・PCR検査の抜本的拡充のための予算措置
・休業要請を行う場合の国による補償金の制度化と財源保障
・緊急包括支援金の柔軟運用、対象拡大及び増額
・地方創生臨時交付金の年度間流用、柔軟運用、配分基準の見直し及び増額・制度継続
・災害対応の財政措置の適用(特別交付税、交付税措置のある地方債発行など)
・市町村におけるワクチン接種の取り組みへの財源保障

 対策の誤りが明確に  感染拡大防止策の転換は待ったなしに 方針の変化も 

・政府の縦割りの弊害が明らかになった。PCR検査を広くすれば医療崩壊に繋がるというPCR検査の抑制、国立感染研の情報独占(ゲノム解析等)、緊急包括支援交付金の目詰まり…。
・地方自治の総合調整機能の発揮を
・国の指示待ち、都道府県の指示待ちではダメ。
広島県が大規模PCR検査実施を打ち出す。ノーベル賞学者4名の声明(2021.1.8)。経済財政諮問会議における新浪剛史の発言(2021.1.21)・・・。
分科会、対策本部の方針変化(2021.2.2)  幅広いPCR検査等を実施していただきたい。

当面のコロナ対策と地方財政の動向

・2021年度政府予算を受けた自治体の予算における新型コロナ対応は、①政府の3次補正予算や2020年度予備費執行を受けた2月補正予算と2021年度当初予算の一体的編成による対応と繰越明許費の活用、②地方創生臨時交付金の自治体繰越分及び本省繰越分の2021年度における活用、③国の新型コロナ対応の予備費5兆円の執行への対応が中心となる。
・地方創生臨時交付金の本省繰り越しの動向と各自治体の2021年度実施計画がどうなるか。
・2021年度の新型コロナ対策予備費5兆円をどう使うか。

 4月以降の緊急事態措置・まん延防止等重点措置の対象地域に対する財政措置

 協力金の一律支給をあらため、中小企業には売り上げに応じて1日3万円から10万円(但し、5月5日までは下限1日4万円)、大企業iには売上減少額に応じて1日最大20万円を支給。まん延防止等重点措置の影響により売り上げが半減した中堅・中小企業への支援として、個人で月10万円、法人で月20万円を上限に一時金を支給することになった。しかし、宣言や措置が繰り返されたり、延長されたりすることによって、協力金の支給が遅れている。また、協力金の額は経済的損失への補償とは著しく乖離したままであり、休業・時短要請への補償とは程遠い。

 地方創生臨時交付金・事業者支援分(交付対象は都道府県、予算額5000億円であり、先行分は3000億円、残りの2000億円は緊急事態宣言終了後の経済活動回復、強靭化に対応するため留保)の創設。

 コロナ禍での自治体財政運営の課題

・緊急包括支援金や地方創生臨時交付金などの国の財政措置のフル活用を
・職員体制の整備、強化、医療機関への財政支援、地域経済対策、雇用対策などの課題に対して国の財政措置が不十分な場合に、自治体独自の財源確保が求められる。
・補正予算でいかに既存事業を見直し、減額補正することで、独自事業の財源を確保できるかが鍵。
・コロナ禍のなかで、これまでの自治体行財政のありかたを見直し、優先すべき必要な事業の積み上げと既存
事業の見直しを総合的に進めるプロセスを確立する。

 休業・時短要請のみに頼るのではなく、当面する次の緊急対策を

① 飲食を伴う施設、オフィス、学校等のリスクのある施設の感染防止対策の徹底とそのための財政支援
② 入国者への指定施設での一定期間待機を徹底するなど空港検疫の抜本強化
③ 医療機関・高齢者施設、保育士・学校等の定期的頻回検査の明確な方針確立に基づく実施と全額国庫負担による財源保障
④ モニタリング検査や下水検査などから感染集積地の特定と集中的な面的大規模検査・感染防止策の徹底
⑤ 変異ウイルスの全数遺伝子解析とそれに基づく対策強化
⑥ ワクチン接種計画と体制づくり
⑦ 地域における医療機関と行政との連携に基づく役割分担と病床確保などをスピード感をもって進める
⑧ 持続化給付金、医療機関の減収補填、雇用調整助成金の特例措置などの経済支援の6月以降の継続など、事業者や国民が先を見通せ、安心して感染防止を行えるような経済支援
⑨ オリンピックの中止

 講演後、平岡先生は会場からの国債増発の心配について次のように答えました。
いくらでも国債を印刷して増発すればいいという学説もあるが、そのようには考えない。日本はEU並みに財政出動しているが経済はダメな状況にある。経済が落ち込み、税収減になっている現状では、財政出動は必要だ。今のところ国債は国内の貯蓄で賄っており、海外から借りていないので大丈夫。
ただ、資産格差が拡大している。累進税の強化等所得格差の是正が必要だ。

(文責 城)

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