「住民と自治」6月号は、豪雨災害と避難・生活再建特集

投稿者: | 2020年6月18日

梅雨の時期となりました。近年、豪雨災害は巨大化し、被害は広範囲に及んでいます。しかし、わが国の現状は、このような被害から命を守り、速やかに生活を再建するための備えが整っているとはいえません。自治体は避難と被害者支援のために何をなすべきか。改善への取り組みや新しい技術も含めて考えますとして、8名の方が論じています。

豪雨災害と避難・生活再建
     塩崎賢明 神戸大学名誉教授

塩崎先生には昨年9月奈良研で講演していただきました。(「ならの住民と自治」319号で概要報告)

 災害の被害を抑えるには、事前対策と発災時の緊急対応が重要であるが、同時に災害が過ぎ去ってからも危機が継続し、命や健康が損なわれることを軽視してはならない。これらは自然の猛威そのものが原因ではなく、継続する危機に対する人間側(社会)の対応の欠陥が原因である。こうした復旧・復興過程の災厄を「復興災害」と呼んで対応策を提言されています。

 近年の災害では関連死が多発している。その直接の原因は避難にあり、避難問題の抜本的解決が急がれる。避難所の現状は戦前の状態と基本的には同水準であり、体育館等での雑魚寝状況である。雑魚寝はエコノミークラス症候群を引き起こすだけでなく、様々な弊害・病気を引き起こす。新型コロナウイルスのパンデミック状態にあって、密閉・密集・密接の回避が強調されているが、雑魚寝はそれに全く逆行している。こうした感染症が流行する下で災害が起きた場合に避難所をどう確保するか、今すぐに改善策を準備しなければならない。

 日本の避難所の劣悪さは世界的に見て際立っており、国際期な経験から学ぶ必要があるとして、スフィア基準、アメリカ疾病予防管理センターのアセスメント項目を順守することが大切。また、清潔で快適なトイレ(T)、現場で作られた温かい食事の提供(K)、簡易ベッド(B)の導入が死活的に重要であると提唱されています。
 最後に、災害時の対応は第一義的には市町村が行うこととされているが、現実には市町村にそれを担うだけの財政力、人的資源、ノウハウがあるとは思えないとして、災害時に国民を守るナショナルミニマムを確保する体制が必要。国内外の経験を系統的に蓄積し素早く対応するためには、国の常設機関が不可欠であると提言されています。

● 広がる「災害ケースマネジメント」 
                   菅野拓 京都経済短期大学専任講師

災害によって被災者は様々な困難を抱えてしまう。家族を失った、住んでいた家が壊れた、失業した、普段利用していた医療や福祉サービスが利用できなくなった、借金を抱えてしまったなど、その困難は暮らしの全般に及び、しかも、一人ひとり多様なものです。しかし、現行被災者支援の基準は、たまたま住んでいた家の壊れ具合である罹災証明書区分が基本的なものであり、被災者一人ひとり異なる多様な困難には適切に対応できるようには設計されていない。

このような状況に対して、東日本大震災以降の災害では「災害ケースマネジメント」と呼ばれる仕組みが広がりました。その発端は仙台市の取り組みです。①個別世帯の状況に応じて伴走型で必要な支援が行われる、②多様な主体が連携し平時施策も含めた多様な支援メニューが組み合わされるという特徴を持っています。仙台市において先行的に取り組まれた災害ケースマネジメント型の被災者支援は、その後の災害対応において、岩手県岩泉町、熊本県、熊本市・・・と広がり、鳥取県が危機管理条例を改定することで災害ケースマネジメント型の被災者支援を全国で初めて制度化しました。大阪北部地震では、高槻市が鳥取県スキームを参考に実施しました。

これらの動きをサポートするように、厚生労働省は「被災者見守り、相談支援事業」を2019年度の当初予算に計上し、実際に2019年台風19号では、長野県をはじめとして、この事業を用いて災害ケースマネジメント型の被災者支援の取り組みがスタートしています。

 市民に寄り添う、伴走型の災害時対応  岡山県総社市の取り組み
                     新谷秀樹 総社市市民生活部長

2018年7月西日本豪雨災害時、現地で支援活動にあたられた被災者支援の経験を語られています。
 災害対応にあたり「寄り添う」という気持ちで対応し、一軒一軒訪問し、被災者の顔と名前を覚え、個々の被災状況を把握し、顔と名前を覚えてもらうことから始めた。被災した現地は東日本大震災をきっかけに自主防災組織が結成され、毎年避難訓練を実施していたことが、甚大な被害が発生しながら数名の負傷者だったことは準備の賜物だった。「即断即決」が現地での原則。「支援力 = 受援力」被災地を支援することは、逆の立場になったときに必ず活きると語られています。

● 豪雨災害の教訓とハザードマップつくり
              梅原孝 (災害時)宇治市志津川区長

 2012年の京都南部豪雨災害で被災した宇治市志津川地区は、被災後「命を守る防災活動」について模索してきたが、その一つが「ハザードマップづくり」でした。ハザードマップつくりこそが「自助」である。自分たちの住んでいる地域の状況、置かれている現状を自分の頭にインプットさせておき、事ある時に自ら行動がとれることにつながるからです。
 災害後二度とこんな犠牲を出さないと取り組んだのが、①地区内を流れる河川流域の調査と、②豪雨災害記録誌の発行とハザードマップつくりでした。ハザードマップづくりには41名が作成作業に参加し、地域の危険個所、過去の災害履歴、自主防災の避難所及び班長と班構成、避難ルート、ダム決壊時の不安も出され、検討内容も含めてマップに記載、作成したとのことです。

「避難所の景色を変える」災害関連死を防ぐ段ボールベッドの取り組み
                   水谷嘉浩  Jパックス代表取締役

 平成の時代に多発した災害関連死、主に劣悪な避難所の環境が原因であったと考えられる。具体的には、①冷たい床の上に薄い毛布1枚敷く、②避難所の出入り口付近にいたため足元のホコリにより不衛生な環境だった、③寒いため布団の中にいることが多くなり、体も動かなくなり、食事も水分も取らなくなってきた、④断水でトイレを心配し、水分を控えた、⑤避難所で狭いスペースに詰め込まれ、精神的・体力的に疲労困憊の状態になった。

 そこで段ボールベッドの活用が不可欠である。段ボールベッドの特徴は、安価で、加工しやすく大量生産に向いており、同じ品質の製品を提供でき、ものを安全に運ぶことができる。寸法は、たて190cm、よこ90cm、高さ35cmで、セミシングルに相当し、寝返りができる、腰掛けた際に足が着く高さ、車椅子からの横移動が可能等を考慮して設計されている。現在40道府県400以上の市町村と防災協定を締結しており、東日本大震災を含めて25000床以上が避難所に導入された。

 人は被災することで精神的ダメージを受けてしまうが、雑魚寝の避難所でさらに肉体的なダメージを受けてしまう。しかし段ボールベッドを使用することで、肉体的なダメージが和らぎ、精神的にも前向きになり復興復旧の意欲が出てきたという話が出てきている。避難所生活であっても、少しでも人間らしい生活に近づけることが健康を守るために段ボールベッドは重要である。

● 仮設住宅の新技術としてのムービングハウス
                    長坂俊成  立教大学教授

 応急仮設住宅は、主に、公営住宅の空き室利用や民間賃貸住宅の空き室を借り上げて被災者に供与する「みなし仮設住宅」や、被災後に現地で職人がプレハブや木造の仮設住宅を建設する「建設型応急仮設住宅」が利用されてきた。プレハブ住宅は応急仮設住宅の中核的な役割を担っているが、断熱性、気密性等、住環境として多くの課題があり、また、建設に時間を要し、結果として被災者に長期間劣悪な避難所生活を強いることになる。

 そこで、「仮設」という発想を捨て、恒久住宅を被災地に移動させて被災者に提供する方式、移動可能な木造住宅(ムービングハウス)を第三の応急仮設住宅、災害公営住宅にすることを提案している。ムービングハウスは恒久住宅として設計製造されており、速やかに運送設置することができる。2019年台風19号で被災した茨城県常陸大宮市では発注後7日後に入居者に鍵を渡すことができた。2~3階に積層することができるし、コストはプレハブと比べて3分の1から2分の1と高い経済性が実証されている。利用後は解体せずにそのまま移設して再利用することができる優れものだ。
 ムービングハウスを平常時はホテルなどの宿泊施設、保養所、キャンプ場のロッジ等として使用し、災害時には被災自治体に有償でレンタルするような形で、社会的防災備蓄を推進することが大切だ。

● 災害時のトイレ事情と課題 
           加藤篤  日本トイレ研究所代表理事

 災害時のトイレ問題は命と尊厳にかかわる。
 水洗トイレは、電気設備、給排水設備、汚水処理施設等のすべてが機能してこそ成り立つシステムで、どれか機能が停止すると水洗トイレは使用できなくなる。しかし、排せつは待ったなしなので、機能が停止しているのを気づかず使用して便器が大小便で満杯になり、劣悪な状態となってしまう。それで排せつを我慢して健康被害が出てしまう。これがトイレ問題の本質だ。

 避難所でのトイレ対策は、時間経過に応じて災害用トイレを組み合わせて対応することが効果的で、先ず、室内で使用する①携帯トイレ(既設トイレの便器に取り付けて使用する袋式タイプ)、②簡易トイレ(和式便器を洋式化したり、トイレ数が不足する場合に新たなスペースに設置できるタイプ)、次に、屋外での③マンホールトイレ(事前に整備された下水道管路や貯留槽にあるマンホールの上に、備蓄した便器や小便器を設けてトイレとして開発されたトイレ)、④仮設トイレを状況に応じて調達する。
 水害時のトイレ対応として、浸水時は屋外に出られない、トイレからの汚水が流せない。また、水が引いた後の泥かき作業時にはまちなかに仮設トイレを配置し、し尿処理業者に維持管理してもらうことも検討しておくことが大切だ。

ぜひ、「住民と自治」誌6月号をお読みください。また、右の「豪雨災害と自治体」も合わせて読むといいです。

今、「住民と自治」誌には「再生可能エネルギーと環境問題」として太陽光発電の生活環境への影響等が連載されています。県内でも、山添村や平群町でメガソーラの設置をめぐって争いが起こっています。 この連載も参考になると思います。

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