「緊急対談 パンデミックが変える世界 〜海外の知性が語る展望〜」を見て

投稿者: | 2020年5月15日

GWの連休中にNHK ETV特集があり、3人の識者(歴史学者、国際政治学者、経済学者)が新型コロナウイルス感染症のパンデミックがもたらす世界の変化について語っていました。実に興味深い内容でした。 次のような内容です。nhketv特集の動画も見られます。(事務局 城)

1. 人類はコロナから生き残れるだろうが、今とは異なる世界に住むことになる。~結末を選ぶのは私たち、より良い世界に変わるチャンスとしよう。

・コロナウイルスの2つの危険
発展途上国は経済、医療がぜい弱で、グローバルな支援が必要だが、世界は支援ができる状況にない。発展途上国が潰れば世界全体が沈むことになる。
コロナウイルスが変異して致死率の高いウイルスが世界に拡散する恐れがある。100年前のスペイン風邪は第2波が大惨事をもたらした。

・ウイルスの流行だけに関心を持つな。政治状況にも関心を持て。
歴史的に世界が根底から変わる壮大な社会的政治的実験の場にいる。オンライン化、雇用喪失、組織労働者の弱体化、ギグエコノミー・・・、政治経済社会を根本から変えるチャンスと危険が広がっている。

・民主主義の危機
都市封鎖、外出制限、これまで民主主義国ではありえなかったことが起こっている。ハンガリーでは首相の権限を拡大し、非常事態を無期限延長できる権限を与えた。批判的な者を威嚇し、コロナ独裁となった。
 民主国家は緊急時に崩壊する。緊急対策は必要だが、民主的な監視、チェック&バランスが必要。

・非常事態に潜む危機
 ウイルスによる生命の恐怖と経済的な不安、こんな時は賢くて力のある者に権力を掌握してほしいと望んでしまう。緊急事態には権力を集中すれば効率的に迅速に行動できるからだ。しかしこれが危険だ。独裁者は間違いを起こしても隠そうとする。そして間違いを重ねる。責任を他者に転嫁する。さらに権力を集中し、大きな間違えを起こしてしまう。
民主主義なら間違いを自ら正せるか、又は、権威ある別の力がそれを正せる。

・テクノロジーと監視 コロナは監視の歴史を変える分水嶺
 中国、台湾、韓国等で監視技術が向上している。移動履歴から感染者、接触者を割り出した。
 民主国家でも多くの国が大規模監視システムを導入した。非常事態が終わっても次のウイルスに対処するためとしてこの監視システムは続くだろう。

・監視の内容が変わった。
 今までは誰と会ったかが監視の目的だったが、今は体の内部・感情、思考、内心まで知ることができる、監視することができるようになっている。生体情報が収集できるようになっている。政府は国民を監視したいものだ。もし全国民に生体情報を収集できる指輪やブレスレットの着用を義務付ければ、内心まで知られてしまう。心まで覗かれ、統制されてしまう。これはもう全体主義国家だ。

・テクノロジーによって収集される膨大なデータは悪用される。監視システムが悪用されている。
 2016年アメリカ大統領選挙時、FBのアカウントが盗まれて、それをトランプ陣営が利用した。
イスラエルでは生体情報が警察・治安機関に渡され、行動履歴、接触者履歴が把握されて感染者、接触者の収容隔離をさせている。
 一般市民の膨大な情報を治安機関に渡すのはダメだ。疫学と情報収集の独立した機関が処理すべきだ。パンデミックと闘うには国民100%の協力が必要だが、治安機関では100%の協力は得られない。

・市民に力を与える エンパワーメントが必要
 新しい技術の利用、監視した情報は市民にも与える。自分の体の状態が分かれば政府の行動が正しいかどうか分かる。データは透明で双方向に。十分な知識で自分で判断できれば、警察も強制も不要だ。

 信ずべき科学的情報を慎重に吟味し、科学に基づいた情報を信頼すること。
 緊急時に独裁的な手段をとる必要はない。大学や医療関係者など信頼に足る科学的組織から出された指針を忠実に守り、不確かな情報に惑わされないことが大切だ。

・パンデミックはグローバリゼーションが主因ではない。
コロナに対する人間の最大の強みは、ウイルスと違って人間どうし協力できることだ。協力と情報共有、中国とアメリカが協力することはできる。
  国境を封鎖し、移動を制限する必要があっても、そのためにも協力と情報共有が不可欠。中国、韓国の情報や教訓を全世界のものに。グローバル化を反映して情報の共有と連帯、団結が必要。

・リーダーシップの不在 
アメリカファースト、敵意や分断がエスカレートし、誰もアメリカを信頼していない。 集団でリーダーシップをとるしかない。

・ウイルスとの闘いは戦争ではない。国際的な協力だ。
 戦争とは武器をもって人間同士が殺し合うこと。今重要なことは人のケアだ。いかなる人も敵ではない。ウイルスからも経済的苦境からもすべての人を救うこと。同胞を救うのは国際的な協力しかない。

・人類はコロナを乗り切るだろう。どのような結末を選ぶかは自分たちに係っている。自国優先の孤立、独裁を選び、科学を信じず陰謀論を信じるようになったら、その結果は歴史的な大惨事になる。

 グローバルな連帯や民主的で責任ある態度、科学を信じる道を選べば、たとえ死者を多数出したとしても、後になってみれば人類にとって悪くない時期だったと思えるはずだ。人類はウイルスだけでなく、自分たちの内側に潜む悪魔に打ち勝ったのだ。真実を信頼して強く団結した「種」になれたと思えるだろう。 自分の心をいたわること、科学を信頼することが大切。科学は理性的だ。

2. 人間性を失ってはいけない。人間は社会的動物、つながりが大切、孤立したらダメ

 今は世界を指導する指導者はいない。バラバラになった各国がバラバラで対応している。9.11同時多発テロ、リーマンショック時には指導者がいて、世界がそれにまとまった。今は分断孤立が進み、協調がない。

 サプライチェーンを自国へ移す、グローバル経済が縮小している。それによって貧しい国は深刻な影響を受け、社会不安を引き起こす。民族主義、ポリュリズムがはびこり、国際社会は重大な局面に立っている。アメリカにはリーダーシップはなく、中国の存在感が確実に大きくなっている。

コロナ以後の世界秩序は、世界の格差が拡大し、貧しい国には支援もない。アメリカ国内での格差もEU内での格差も拡大している。貧しい国は大きな打撃を受けるだろう。

3. 利他主義、合理的利己主義への転換が人類のサバイバルの鍵

2009年にパンデミック発生の危険性を警告したが、発生の確率が低くてもそうした声には耳を傾けるべきであり、リスクが高いと判断したときには行動を起こすべきだった。今多くの人が医療や運送・・等の任務に就いていることに感謝する。スペイン風邪の時は、病気が治まったとして外出した時に襲った第2波の方が被害が甚大だった。今回も早く外出するのは危険だ。

この危機を乗り越えられず、コントロールできないと証明されれば、市場と民主主義は崩壊するだろう。最悪のシナリオは、世界的な恐慌、失業、インフレ、ポリュリストへの迎合、長期不況、暗黒時代だ。ハンガリーではパンデミック独裁になった。

民主主義の下でも安全か自由かを選べば、安全を選ぶだろう。しかし、強い政府と民主主義は両立する。

利他主義への転換、他者のために生きるという人間の本質に立ち帰ることが大切。協力は競争よりも価値がある。人類は一つだ。利他主義とは合理的利己主義だ。自分が感染にさらされたくないなら、他人も感染にさらされたくない。これが確実に感染を防ぐ方法だ。他者を守ることが自分も守ることになる。他の国が栄えれば自国も栄える。利他的なことは自分の利益になる。バランスのとれた連帯が必要だ。
ポジティブに生きる。自分が参加して最善を尽くす。これは楽観主義ではない。

経済を新しい方向に向ける。戦争中、自動車から戦闘機や弾薬に切り替えたように、今は、生きるのに必要な医療機器、病院、住宅、水、食糧生産に切り替える。良き方向に進むには今の状況をうまく生かすしかない。

人類は負の遺産、嫌なことは忘れてしまって、元の生活に戻ってしまうことがある。そうではなく、生き方を変えることが大切だ。利他的な経済社会、ポジティブな社会、「共感のサービス」と呼ぶ方向に進むために、次の世代の利益になるよう行動すべきだ。                       (城)