市民の運動が水道の自治を守った!~県域水道一体化学習会

投稿者: | 2023年2月18日
県域水道一体化学習会の様子

1月15日、奈良県文化会館において、奈良自治労連等主催の県域水道一体化の学習会が行われました。昨年8月9日~10日に自治労連・地方自治問題研究機構による奈良県、奈良市、大和郡山市、葛城市に対するヒアリング調査が行われましたが(「ならの住民と自治」2022.年9月号、No.354号に同行記を記載)、調査団の代表者である平岡和久先生(立命館大学教授)が最終の調査報告をされました。また、運動の強力なアドバイサーの武田かおりさん(NPO法人AMネット事務局長)が経過報告をされました。参加者は50余名でした。学習会の内容を一部紹介します。

県・奈良市・大和郡山市・葛城市ヒアリングから見えてきた水道自治と奈良モデル

平岡先生は、①日本は、食料(種子、化学肥料等も含めて)自給率が低い、エネルギーもほとんど輸入している、原発が攻撃されれば終わりだ。軍事力を増強して戦争の準備をしている状況ではない。②世界で水の争奪戦が起こっている。外資メジャーが水道事業を狙っている。③大規模集中型か、地域分散型か、どちらを選択するのか。エネルギーは原発依存でいいのか。水も巨大なダム水源か地域分散型の水資源か、自己水の確保が重要ではないのかと先ず話されて、水道の歴史・自治へと進みました。

「水道の自治」は市町村自治の重要な構成要素  奈良モデルの危険性 

講演する平岡和久氏

人間は歴史的に水源が得られる場所で集落(地域共同体)が生まれ、集落を基盤として自治体が形成されてきた。地域共同体による地元水源の開発・維持管理が行われ、地域共同体を基盤として自治体が成立してきた歴史的な背景を見れば、「水道の自治」は市町村自治の重要な構成要素である。
「水道の自治」の内容として、①水利権を含む水源の確保を自治体において図ること、②水道施設のあり方についての自己決定権(地域分散的な自己水源の維持)、③水道の料金体系についての自己決定権である。
 自己水の補完として県水が必要であるが、この県域水道一体化は自己水を放棄して県水に頼れ、弱い者は強い者に従えというパワハラのように見える。奈良モデルは「県と市町村は対等な立場に立つ地方公共団体である。」「上下・主従関係にはなく、対等の関係」という基本的な考え方に依拠しているが、「人口減少・少子高齢社会に立ち向かう県と市町村の総力戦」となると、県の指示どおり動けと地方自治の否定にもつながる。市町村は県のパワーに押されて渋々従っていないのか。

水道の危機への対応と問題点 

施設の老朽化・更新費用の増大と経営悪化、人口減少による水需要減少・収入減と経営悪化、自治体職員体制の弱体化と事業の持続可能性へのリスクという水道の危機に対して、料金引き上げ、コスト削減がとられ、コスト削減策として広域化、官民連携が推進されている。しかし、それは水の自治権、水循環、災害リスクの軽減などとバッティングするおそれがある。

水道サービスにおける効率性とは何か  広域化、民営化が効率性を上げるのか

費用効率性(規模の経済、密度の経済によるコスト低減効果)とともに、社会的効率性・社会的純便益(水質、渇水・災害リスク軽減、環境負荷軽減など)の最大化も検討しなければならない。安かろう悪かろうではない。広域化により効率性を上げるというが、それは水源や浄水場等の統廃合を行って初めて可能性がでてくるものであり、「水道の自治」の縮小・喪失を伴い、バックアップの確保などが課題となる。業務委託や民営化を行えば、水道行政を担う職員の専門性・ノウハウの継承が困難になり、長期的に安定的な内部効率性が確保できなくなるリスクが増す。また、災害時において迅速かつ適切な対応ができるのかという懸念もある。加えて、業務の民間委託等が当該年度の純利益を発生させる要因として機能していないという水道統計のデータ分析もある。

次に、平岡先生は、奈良県における県域水道一体化計画の背景と経過、計画案の概要、及び、奈良市、大和郡山市、葛城市のヒアリング調査から明らかになったことを説明され、県域水道一体化の問題点へと進みました。

県域水道一体化の問題点

①県域水道一体化計画案が、県内各市町村・地域の自然的社会的条件を十分に考慮したものになっているか。②「水道の自治」の喪失  水源の確保、水道施設のあり方、料金体系の自己決定権を保持できなくなる。③国・県による財政誘導と県による市町村自治に踏み込んだ「積極的」なスタンスが市町村にとって「脅威」となり、県民・住民との十分な情報共有にもとづく熟議を妨げ、計画案を受け入れざるを得ない状況をつくりだしてきた側面がないとはいえない。④県域水道一体化の物理的、経営的な持続可能性の問題  依存するダムは長期使用されるものとみられるが、いずれ堆砂や老朽化から撤去、あるいは再開発の課題が出てくる。その際、大規模ダムから分散型の地域水源へ回帰した方が持続可能性が高まり、効率性も確保される可能性がある。今、一体化に際して自己水源を廃止してしまえば、そのような可能性は閉ざされてしまう。⑤災害リスクへの検討が不十分であり、リスクの評価と対策に不透明感がある。

県域水道一体化に関して検討すべき課題

①県域水道一体化に伴い、各市町村の高料金対策に対する財政措置額が減少若しくは皆減する可能性がある。国は激変緩和措置を講じているが、統合後6年後から段階的に縮減となり、11年目には激変緩和措置はなくなる。この点が十分検討されているのか。
②広域水道企業団設立後の運営についての不透明性。特に、包括業務委託、建設事業における一括発注などが行われた場合の影響。コンセッション事業への移行や民営化は行わないとされたが・・。

 奈良市の不参加を踏まえて奈良県広域水道事業団基本計画案が見直され、「事業の運営は企業団が主体的に公営企業として実施するものであり、コンセッション事業への移行や民営化は行わない」と明記された。これは市民運動の大きな成果だ。
(悪く言えば条件闘争をしていた)大和郡山市は参加を表明した。葛城市は不参加を表明して「水道の自治」を守った。葛城市長の発言は、見識のある立派な発言だった。

県域水道一体化に参加する市町村の課題

企業団の執行機関について  執行機関は正副企業長会議、企業長は知事、副企業長は市町村長及び行政実務経験者から選出するとしており、市町村長以外の者が執行部を.構成することは民主的正当性の問題がある。
② 企業団議会について 構成市町村からの議員定数が市町村の人口に応じて増減すれば、小規模自治体の意見が反映されにくくなる。
法定協議会の位置づけについて 奈良県は任意の協議会で基本計画案を出してきた。本来は法定協議会である準備協議会で出すべきものである。順番がおかしい。広域化をした香川県の場合は、準備協議会は法定協議会だった。
情報公開や住民からの意見聴取等はこれから検討なのか。
外部の有識者等によるチェック体制については検討されていない。
市町村が一部事務組合(企業団)から脱退する場合、地方自治法上、当該市町村の議会の議決を経て2年前に関係地方公共団体に通告すれば可能だが、その場合に検討すべき事項は整理されていない。

最後に平岡先生は、広域化の前に民営化を行った宮城県の事例を話されました。

<補論> 宮城県の上工下水道の民営化 

 宮城県の水道用水供給事業、工業用水道事業、流域下水道事業が一括してコンセッション方式で民営化された。
2022年4月事業開始  契約期間は20年で、20年間は更新投資を抑制し、修繕に重点を置く。
SPC(特別目的会社)は、㈱みずむすびマネジメントみやぎ、代表企業は国内企業 
OM会社(維持管理会社)は、㈱みずむすびサービスみやぎ、実質支配者はヴェオリア・ジェネッツ  運営会社の提案では、20年間で事業執行額は337億円削減、運営権者は92億円の利益を得る。

問題点

①グローバル水メジャーによる実質的な事業サービスの提供と依存 ②人件費削減と更新投資抑制により、コスト削減と運営権者の利益確保 ③20年後から大規模更新投資が必要になり、住民負担増、市町村の浄水場の統廃合の可能性もある④県の人材喪失により、水メジャー優位となる契約更新のおそれ ⑤水質の安全性の確保や災害への対応への不安 ⑥情報公開の不十分さ、ブラックボックス化⑦需要の変動や物価変動があった場合は料金に反映される仕組みのため、運営権者の利益は確保される仕組み

宮城県の事例から何が学べるか

①世界的に貴重な水資源をめぐる紛争が多発するなかで、「水道の自治」を手放してはならない。②県が市町村自治を支える補完機能・支援機能を発揮するのか、時の政権の集権的な政策の執行機関として、地域の住民にとってマイナスとなる政策を押しつけるかが問われている。③県が政権の政策の執行機関として、地域と住民にマイナスとなる政策を推進する際には、地方自治の「抑制機能」(悪政からの防波堤機能)を発揮することが求められる。

市民が動いて、勝ち取った!

経過報告をする武田かおり氏

武田さんは、奈良市、葛城市、生駒市で行われてきた市民の運動、街頭宣伝、署名、議員まわり、陳情、請願、学習会、地域交流会、タウンミーティング、シンポジウム、懇談会傍聴等を説明した後、次のように話されました。

市民が動いたからこそ、出来たこと

①水道一体化の問題を可視化させた。県は情報を公開していなかった。生駒市しかホームページに載せていなかった。多くの市民が気付かないうちに一体化を進めることが不可能になった。
②奈良市、葛城市が一体化から離脱した。
③生駒市、大和郡山市の水源を半分残せた。真弓浄水場、昭和浄水場を残せた。 ただし、一体化のメリットは交付金と施設の廃止による更新費用削減であるので、一体化に参加すれば、浄水場を残すかどうかの決定権は企業団に移る。
④企業団の水道事業全体の民営化リスクを下げた。「事業の運営は企業団が主体的に公営企業として実施するものであり、コンセッション事業への移行や民営化は行わない」と明記させた。ただし、「区切れる部分」ごとの民営化が可能であるし、国は広域化後に民営化を狙っていることも考えられるので、企業団議会が機能することが重要だ。   

今後に向けて、次の取組みをしよう

①3月議会に向けて、各自治体で一体化不参加の取組みをする。
②水道自治のために、10月27日奈良市に提出した「奈良市の水道に関する協議会設置の要望書」の実現。 一体化不参加が決まったが、そこで終わりではない。③法定協議会・企業団の民主化の要望書を12月13日提出した。市町村議会への事前説明、情報公開、市民説明会、企業団議会の年4回開催、副議長、経営審査委員会の設置を求める。

 大規模企業団で民主的な運営をされた成功事例はない!

 最後に、主催者は閉会のあいさつで、奈良東部の水を奈良西部の人々は飲ませてもらっている。この水のつな がりを地域のつながり、人のつながりにしていきたいと熱く話されました。

(文責 城)

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