地域医療構想の現状と私たちの命・健康

投稿者: | 2020年10月18日

<第29回奈良県自治体キャラバンプレ企画>

10月3日、第29回奈良県自治体キャラバンプレ企画として、長友薫輝先生(津市立三重短期大学教授)の講演がありました。長友先生の専攻は、社会保障論、地域医療論、地域福祉論で、地域医療構想について多くの提言、執筆をされています。

講演する長友氏

長友先生は、地域医療構想は医療費を抑制するための手段、入院できるベッド数をコントロールする、医療だけでなく介護、福祉全般にわたって影響を及ぼすと話して、講演を始められました。

 昨年9月26日、「再編統合について特に議論が必要」として、公立・公的病院424病院のリストが発表された。これは、全国各地で行われている議論を無視し、「診療実績が特に少ない」「類似かつ近接」という地域の実態に合わない基準を用い、地方自治体、地方議会を無視して国による方針の徹底を図るものだ。

地域医療構想と必要病床は、医師需給推計、看護師需給推計に連動している。病床削減、入院ができなくなるにとどまらず、医師、看護師、働く人を減らすことに繋がる。国は医師が増えると医療費が増えるという幻想にとらわれている。医師が増えると早期発見、治療に繋がり、逆に医療費が減るのだ。 国は1980年代から公的医療費抑制策をしてきた。新たに、都道府県に医療費抑制の管制塔の役割を担わせ、需要と供給の2側面から医療費のコントロールを目指している。データをもとに地域で医療費削減を競わせる、予防健康づくりの部分的市場化、インセンティブ(誘導型報奨)の展開・・・。

地域の医療保障・介護保障をつくる視点

・ 医療・介護の情勢を理解し、地域でできることを考え行動する。医療保障、介護保障の社会保障の活動は、経済活動そのもの、地域経済に貢献する持続性のあるもの。
・  医療と介護は一方通行ではない。医療と介護を分断せず、トータルにとらえることが重要。
・ 儲かる部分は産業化、そして自己責任化へと進める国の政策動向を把握する。
・ 日本の医療保障の特徴は、「公的医療保険による皆保険体制」と「医療の提供体制」である。2015年5月成立した医療保険制度改革関連法はこれらを一体的に改革するもの、「地域包括ケアシステム」と「地域医療構想」が登場した。
・ 地域で医療・介護をつくる。地域の医療・介護需要や住民の生活問題を科学的に分析・把握し、住民とともに地域づくりを進めることが社会的な役割。住民どうしで支え合う仕組みを展開する。地域の人が支える医療機関は働きがいのある職場になる。
・ 「地域包括ケアシステム」は住民本位の地域づくりに再編成できる。予防・健康の拠点づくりは楽しい。医療で働く人々と地域住民との日常的な交流が不可欠。地域の拠点がどうなるかは、これからの地域のあり方を決定づける。

新型コロナウイルス感染症対策から

・ 1997年の地域保健法の全面施行以降、保健所機能が低下した。保健所数を減らし、人員を減らした。
・ 感染症病床を持っている367病院のうち、346病院が公立・公的病院。主に感染症病床を担っているのは公立・公的病院だ。
・ 感染症病床は367病院、1869床。国は病床数の増加を依頼したが、都道府県によって差が大きい。
・ 各医療機関で軒並収入減となっている。緊急対応として、地域別診療報酬の導入ではなく財政出動が必要。
・ 地域医療構想の推進を中断すべき必要性があるが、国は従来方針を崩さず、引き続き推進する。
・ 医療か経済かではない。医療崩壊のリスクを減らすことが最優先。感染拡大を抑えることが経済活動の前提となる。

病院は地域経済、地域の雇用の拠点

・ 医療は地域の重要な産業の一つ。雇用面での貢献も大きい。
・ 地域包括ケアシステムを構築するため、在宅医療、在宅介護の充実を図るうえで病院は必要。
・ 地方自治は危険水域にある、地方統制が強化されていると認識する。
・ 医療関係者だけの議論ではなく、テーブルを重層的に設ける。まちづくり計画に位置づけて、地域で考える。
・ 近年、政府によるデータの偽装、改ざん等が相次いで信用が失墜している。数字、データを無批判に信用してはいけない。

 長友先生の講演後、会場から奈良県内の状況報告があり、一般病院が介護病院へ転換した事例、国保の統一保険料の導入で国保料が1.6倍になる自治体がでる、地域医療構想で一般病床△1697床、精神病床△600床となると話されました。