第42回自治体セミナーin東京報告

投稿者: | 2020年2月4日

( 2019.02)清家 康男(弁護士)

2019年2月2日、3日の両日、東京・水道橋で第42回自治体政策セミナー「地方自治をめぐる運動の焦点 ―「2040構想」とその対抗軸を探る」が開催されました。

「徹底解明!『自治体戦略2040構想』のねらいと対抗構想」

2日は、岡田知弘京大教授(自治体問題研究所理事長)が「徹底解明!『自治体戦略2040構想』のねらいと対抗構想」と題する講演でした。

「自治体戦略2040構想」(以下、「2040構想」)とは総務省の「自治体戦略2040構想研究会」(以下、2040研究会)により昨年4月、7月に出された第一次、第2次報告で打ち出された構想で、この構想を踏まえて昨年7月に第32次地方制度調査会が発足し、「人口減少が深刻化し高齢者人口がピークを迎える」のが2040年であり、ここから「逆算し顕在化する諸課題に対応する」との研究会の課題設定を踏まえた議論がなされることとされています。

2040構想は、いわゆる「増田レポート」による将来人口減少予想を前提として、
①AIやロボティクスを使いこなし、従来の半分の職員で自治体が本来担う機能を発揮できるようにする。そのために自治体の情報システム等の標準化、共通化を図る。
②自治体はサービスの供給者から公共私の協力関係を構築するプラットフォーム・ビルダーへ転換する。
③個々の市町村がそれぞれ全ての行政をフルセットで供給するのではなく圏域単位での行政単位をスタンダードにする。二層制を柔軟化し圏域の核となる都市がない地域では都道府県が市町村を補完する。
④東京圏では市町村合併や広域連携の取組が進展していないので、早急に近隣との連携やスマート自治体への転換を図ることが、「新たな自治体行政の基本的考え方」として打ち出されています。

これに対して岡田先生は、2040研究会の委員には自治体関係者が全くおらず、委員会の議論が山﨑重孝前自治行政局長(かつての市町村合併政策の主唱者、現内閣府次官)の主導で進められたこと、研究会が前提とする人口減少は自然的趨勢ではなく90年代の不安定雇用政策の採用が生み出したものであり、自治体の取組が奏功し人口増を果たしている自治体もあることを無視していること、これまで推し進められてきた公共サービスの産業化政策をさらに強化しようとするものであること、「圏域」行政は形を変えた市町村合併であり、周辺部の衰退等の市町村合併への反省がないこと、住民自治の視点が全くないこと等様々な観点から批判を展開されました。そして、第1次安倍政権で目論まれた「道州制」の導入は未だ断念されておらず、2040構想も道州制導入の地ならしの一つであると指摘されました。

そして先生は、地域が豊かになるとは住民1人1人の暮らしが豊かになることであり、そのためには地域への投資が回転ドア式に東京の大手資本に流れてしまう政策ではなく、地域内再投資力を作り地域内経済循環を生み出す政策を取ること、住民1人1人が見る目を持った主権者となるべきであり、そのためには「住民自治組織」を各自治体が活用すべきことを説かれました。 当日はさらに播磨圏域連携中枢都市圏の事例報告があり、姫路駅周辺に大規模開発が進んでいるものの、都市圏ビジョンは姫路市が策定して他の市町村と締結するのでどうしても姫路中心となり、周辺部自治体の衰退が心配されていました。

「自治体戦略2040構想と社会保障改革 
安倍政権の社会保障総改悪に対し住民生活守る自治体施策を考える」

3日は、芝田英昭立教大教授による「自治体戦略2040構想と社会保障改革 安倍政権の社会保障総改悪に対し住民生活守る自治体施策を考える」と題する講演でした。

芝田先生は、2040構想では自治体が行政サービスの供給に責任をもつのではなく公共私の協力関係を構築するだけの役割に後退させ、他方で営利企業の活動の余地を広げ、儲からない部分は住民に負担を押し付けることが目論まれていること、このような2040構想の考え方は既に厚生労働省が2016年7月に設置した「我が事・丸ごと地域共生社会実現本部」で先取りされており、そこでは社会保障が必要となった背景を工業化社会・核家族化などの進展に伴い地域・家庭の果たした役割の代替に求めており、やはり地域課題解決の責任を政府や自治体ではなく地域住民や故人にすり替えることが目論まれていると指摘しました。

芝田先生は、資本主義社会において大多数は労働力を売って生活を成り立たせねばならないところ、この労働生活のリスクをカバーする労働者の生存の条件として社会保障が勝ち取られてきたという社会保障の基本に立ち返って考えられるべきであり、さらに日本国憲法では生存権が憲法25条で保障されていることに立脚すべきことを訴え、シドニー・ウェッブの「繰り出し梯子理論」(あらたな支援方法を常に追求し公的機関の低水準のサービスを上回るサービスを実践することで、結果的に公的サービスを健康で文化的な水準に押し上げる)を援用して、老人医療無料化の沢内村の運動などのように、住民共同の運動・実践によって私的サービスを公的サービスに押し上げ、政府・自治体の公的責任の強化を果たさせるべきであると説きました。