8月24日、大和郡山市市民交流館で、講演会「こども誰でも通園制度にどう対応するか」を開催しました。奈良県保育運動連絡協議会との共催で、多くの保育士、市町村議会議員の参加があり、46名(うち奈良研会員20名)の参加者でした。
こども誰でも通園制度にどう対応すべきか
中山 徹 先生(奈良女子大学名誉教授、自治体問題研究所理事長)に講演していただきました。中山先生には、昨年は「地域から築く自治と公共」、一昨年は「デジタル田園都市国家構想の概要、問題点、展望」と、3年連続の講演です。
★制度の概要と今後のスケジュール

この制度は、異次元の少子化対策として国が推し進めているもので、2026年4月1日から全市町村で開始しなければならない。実施主体は市町村。ただし、全保育所等で実施するわけではなく、ニーズを調査したうえで、対応できる定数を確保する。民間保育所については法人で実施するかどうかを判断し、公立保育所では市町村が判断する。
対象者は、0歳6月以上3歳未満で、保育所等を利用していない子供。利用可能時間は月10時間。保護者の自己負担額300円/1時間。直接契約方式で、利用は保護者が事業者に直接申し込む。市町村は利用調整などを行わない。固定した事業所、曜日・時間帯に利用する固定利用と、別々の事業所、固定していない利用時間に利用する自由利用がある。(別紙講演資料参照)
★こども誰でも通園制度の問題点
①低い基準、短い利用時間、無理な利用方法等による保育上の問題
こども誰でも通園制度は一時預かり事業と同じ基準で、0歳児3対1、1~2歳児6対1、1/2以上が保育士であれば可能、1日3人以下なら保育士ゼロでも可能となっている。
自由利用で、月10時間で複数事業者を使うと、一事業者当たり月1回程度の利用となる。それで子どもの性格、発達などを理解できるのか。0~2歳児は最も慎重な対応が必要な年齢であり、重大事故が発生しないのか。一時預かり事業よりもその子供を預かる時間が少なくなる月10時間で、その子どもに適切な保育が提供できるのかが大きな問題だ。
②不十分な財政措置による事業者の弊害
2025年度の予算措置は、0歳児1300円、1歳児1100円、2歳児900円、これでは、保育者の人件費は最低賃金並みにしかならない。試行的事業、一時預かり事業でも、担当保育士の1名はベテランにしているところが多かった。それは通常保育よりも難しいためだ。予算的に難しい場合は、適切な保育ができない。
③通常保育等への支障
保育に慣れていない子供がクラスに入り、通常保育がきちんとできるのか。在園児に支障が出ないか。
④障害児、配慮の必要な子供に対応できるのか
⑤公的責任の後退につながる危険性
国はこの制度で築いた総合支援システムを保育そのものに展開する予定。入所申請だけでなく、利用調整も視野に入れており、保育が直接契約に移行する危険性が大きい。
⑥新たな国民負担による実施
こども誰でも通園制度は異次元の少子化対策の一環。必要な予算は、3.6兆円。財源は、既定予算の組換えが1.5兆円、歳出改革が1.1兆円、子ども子育て支援金制度が1兆円である。
この支援金制度は、新たな国民負担で増税と同じ、毎月700円~900円を健康保険料に上乗せする。
歳出改革の具体例は「高額療養費負担上限額引き上げ」である。「がん患者が必要な医療を受けられないようにすることで、それで浮いた予算を子育て支援の財源に充ててほしい」と考えている人がどの程度いるのか。
⑦一時預かり事業の拡充が本筋だった
現在、一時預かり事業は待機児童解消の役割を担わされているため、保護者が就労していない家庭が利用しにくい状況になっている。就労している方は通常保育を利用できるように保育所の整備を進め、一時預かり事業は本来の趣旨に沿った利用にすべきである。そうすれば、新たにこども誰でも通園制度の条例をつくったり、新たなシステムを整備する必要はなかった。新たな制度をつくる前に、既存の制度、事業の改善・拡充で対応できないかを考えるべきであった。
★本格実施に向けてタイトなスケジュール
2026年4月1日に向けて市町村は、事業計画の策定、認可基準条例の議決(12月議会?)、事業者の認可、システムの準備、事業説明会、広報、予算要求、研修等、多くの業務をこなさなければならない。

★市町村は何をすべきか
①制度改善を国に要望するように 市町村に働きかける
・こども誰でも通園制度を通じて、子どもに適切な保育ができるように基準等 を引き上げること。
・事業として成立するように、保育単価を引き上げると同時に、基礎的な経費を保障すること。
・地域全体の子育て環境を改善させることができるように、市町村に対する補助制度を充実させつつ、市町村の権限を保障すること。
・こども誰でも通園制度、一時預かり事業の再整理を進めること。
・総合支援システムを公的保育制度解体につなげないようにすること。
②民間事業者、園長等を含めた検討会の設置
これを契機として、地域の子育て環境を少しでも改善する、事業者との連携を深めるような視点に市町村が立つべき。
③適切な保育が提供できるような条例・規定の制定
この制度の基準を決めるのは市町村 市町村の判断で国が示している基準を上回ることができる。
職員配置 新潟市は0~1歳児を3対1、2歳児を6対1に、 北九州市は1歳児を5対1、 神戸市は保育従事者を全て保育士配置に
利用対象 練馬区は満3歳になった年度末まで利用可能に
利用時間 練馬区は月48時間に
保護者負担 練馬区は275円に
利用方式、実施方法 定期利用が基本、一人一園がよい
広域利用 里帰り出産などを除き、市町村内の家庭を優先し、広域利用は限定的にすべき
④事業者に対し適切な補助額を保障する
国の補助額は国が決めるものの、実際に事業者に支給する額は市町村が決める。練馬区は、時間に対する補助とは別に、利用枠に対する補助を設定している。増えた財政負担は市町村の負担になるが、そこに都道府県が援助できないのか。
⑤一時預かり事業との整理
一時預かり事業をしている保育所等では、両者を一体的に運営できるよう要望すべき

⑥配慮の必要な子どもへの対応
⑦保育士に新たな負担を発生させない
⑧保育課内にこども誰でも通園制度の担当者を配置すべき
★保育所はどうすべきか
①保育所内での検討会を設置すべき
この制度が適切に実施できるのか、通常保育や一時預かり事業に支障が出ないか、保育士に負担が発生しないか等、様々な観点から、園長や担当者任せにせず、構成員全員で検討すべき。
②利用方式は定期利用に限定すべきであり、実施方法は余裕活用型を避けるべき。
③保育時間、保育内容の検討
午前、午後の2回体制(1日2時間半)にするとか、一時預かり事業に近づけるなら5時間の受け入れも。利用者が少ない場合は在園児との合同保育も可能。
④適切な面談が重要
オンライン面談は避ける。保育所が初めての子どもは原則として親子面談を設けるべき。
⑤子どもの適切な受け入れについて
どのように受け入れる子どもを決めるかは非常に重要。一時預かり事業等の経験が豊富な保育士を確保しておく必要がある。そのような体制が組めるよう、私立保育所の場合は市に予算要望し、公立保育所の場合は職員配置を保育課に要望する。
⑥保育計画、記録の作成を勤務時間内に行えるよう、勤務体制の整備
★保育士の視点
①保護課や園長に任せるのではなく、保育士として積極的に議論に参加すべき
②労働条件の悪化につながらないか
③子どもに対して適切な保育を提供できるか
④保育士自らの成長につながる取り組みになっているか
★今後の展望
保育制度、政策で重要なのは、最低基準の改善、0~2歳児の保育料無償化、一時預かり事業(こども誰でも通園制度)の拡充、保育士の処遇改善だ。
就労している保護者で、週3日程度一時預かり事業を利用している方は、通常保育を利用できるようにする。リフレッシュ利用は、一時預かり事業(こども誰でも通園制度)を使う。ただし、月10時間ではなく、月40時間程度(8時間×週1回、4時間×週2回など)にすべき。0歳6ヶ月から3歳未満児ではなく、0歳3ヶ月から3歳になった年の年度末まで使えるようにする。0歳~2歳児の保育料無償化を求めつつ、一時預かり事業(こども誰でも通園制度)の無償化も求める。
子どもの減少、育児休暇の充実が進めば(?)、通常保育の利用者は当分減り続ける。そうなれば、最低基準の改善、一時預かり事業(こども誰でも通園制度)の拡充は政府がやる気になれば比較的容易にできる。保育所は、通常保育に加え、障害児・配慮の必要な家庭の子どもの保育、保育を必要としない家庭の子どもの保育(0歳~2歳で家庭で保育されている子供、育児休業中の子ども等)に取り組み、保育所の新たな展開をすべきだと、中山先生は話されました。
「一時預かり保育」子育てサポートを目指して!
淺野嘉代子園長(社会福祉法人香久山会 生駒ピュア子ども園園長)が一時預かり保育「ゆめ」の実際を紹介されました。
一時預かり保育「ゆめ」は、0歳~5歳が対象で、定員10名。利用料金は、どの年齢も同じ料金で半日1,600円、1日3,200円。利用する子供は、1~5名、ほぼ0歳~2歳の利用が多い。毎日、子どもの人数や年齢構成が変わるので、年齢や発達段階に応じた遊び、活動の提供をするため、ベテラン保育士2名を配置している。どんな状況でも慌てず、丁寧な保育と保護者の心のケアを心がけ、誰でも安心して利用できる体制を維持している。子育てひろば事業との連携を重視し、配慮が必要な子ども・家庭への一時預かりを通した支援に心がけている。
一時預かり事業の課題として、需要と供給のバランスに苦慮している、環境面で部屋の面積がなく多くの乳児の受け入れが困難、性格や家庭の背景を深く知らないまま預かるため保育の難しさ、面識のない初日からの長時間保育は子どもにとって不安が大きい、子どもが不慣れな場での長時間の預かりは危険性が高まる、体制確保のための補助金額が不足している。

今後の展望と課題として、①子どもの減少により地域で子ども集団がない、コロナ禍の中で親同士のつながりが減少するなど子育てしにくい状況の中で、地域に事業を啓蒙し、利用を促進する。②いつでもすぐに利用できる「ひろば事業」と「一時預かり保育事業」を増やし、安心して子育てできる地域づくりをめざす。③利用申込者の申込受付、利用者の利用調整、利用希望者の募集、利用者の認定・登録、利用料の徴収、5~7割は事業者が担当している現状のなかで、行政の役割を明確にし、子育て応援を具体的なものにする。④「こども誰でも通園制度」が、子どもの安全と子育て応援を行政の責任のもとに実施できるような制度にすることを話されました。
お二人の講演・報告の後、会場から、奈良市の試行状況の報告、国の基準を準拠するという条例案が出てきたとの発言がありました。市町村の判断で国が示している基準を上回ることが可能なので、適切な保育ができる条例・規定をつくる努力をすべきと話されました。 (文責 城)