三重県台高山系巨大風力発電計画、 奈良県内のメガソーラー計画の現状

投稿者: | 2023年1月17日

前 圭一(奈良県勤労者山岳連盟)

1)三重県松阪風力発電計画

三重県松坂市に全国でも五指に入るとされる巨大風力発電計画が進められている。業者は最初台高山系の白猪山で風力発電を計画したが、地元の猛烈な反対で現在この計画は凍結状態にある。同じ業者が今度は大規模な計画を台高山脈の東側で計画している。

上記は事業者の計画段階環境配慮書を元に由良が作成

計画の概要(計画段階環境配慮書より)
事業者の名称  :  合同会社三重蓮ウインドファーム
事業の名称  :(仮称)三重松阪蓮ウインドファーム発電所 
  風力発電所総出力 : 最大251,000KW  
  風力発電機の単機出力 : 4,200〜5,500KW程度  
   風力発電機の基数 :  最大60基  
  事業実施想定区域の面積 : 約7,434ha 
   風力発電機の概要: ブレード数:3枚、ローター直径:117〜157m、ハブ高さ(ブレード中心の高さ):85〜110m、ブレード上端:144〜183m 

 事業者は上図台高山脈の高見山から池木屋山の東側(三重県側)の尾根上に羽根の直径117m〜157m、羽根先端の高さ144m〜183mの巨大な風車約60基を設置しようとしている。
  事業者は環境影響評価法に基づき「計画段階環境影響配慮書」を2021年7/30〜8/30の期間に事業者HPで公表及び三重県・松阪市・大台町の各所で縦覧した。

三重県知事意見書

 三重県知事は、事業者の同配慮書に対し、2021年9月28日付で意見を事業者に送付している。
 この知事意見書の中で「事業想定区域は全域が自然公園区域であるほか、広い範囲に鳥獣保護区、保安林、希少野生動植物主要生育地(ホットスポットみえ)、重要野鳥生息地(IBA)などの重要な自然環境のまとまりの場が存在しており、自然的・文化的な観点から保全優先度が極めて高い地域である。」「計画段階環境配慮書の趣旨である、『事業計画を検討する早期の段階における重大な環境影響の回避、低減の検討』が自然環境保全の見地から十分実施されているとは言い難いため、事業の実施に伴う動物・植物及び生態系への重大な影響が懸念される。事業計画を中止するか事業実施の想定区域の抜本的な見直しが必要である。」と述べている。この他に「また、登山者をはじめとする利用者等幅広い関係者から意見を聴取し・・・」とも述べている。

 個別的事項として、大気質、騒音及び風車の影、水環境、地形・地質、陸生動植物、水生生物、景観、人と自然のふれあいの活動の場の問題点について懸念を述べており、各々の個別項目について「詳細に調査、影響の予測を行い、影響を回避又は低減すること。」と述べている。指摘されている問題点について、いくつかピックアップする。

3 水環境 「事業実施想定区域には水源涵養保安林及び三重県水源地域の保全に関する条例に基づき水源地域に指定された地域が存在する。このため、風力発電設備等の配置等にあたっては、改変を最小限に留め、土砂の発生や濁水による水環境への影響を回避又は低減すること。」 

4 地形・地質 (1)「事業実施想定区域は全国的にも降雨量が多い地域であり、開発によって降雨後に土砂の流出が増加することが懸念される。また、砂防指定地と隣接している場所も多く、土砂災害の危険性が高い地域でもある。」(2)「事業実施想定区域は、日本最大の活断層である中央構造線の近隣であり、構造線を境として表層地質や地形が大きく異なっており、複雑な地形・地質を示していることから」「整備個所における土地の安定性について、詳細に調査を実施し、影響の予測・評価を行うこと。」(3)「想定区域周辺には、—14か所の滝、「香肌渓」、「領内渓谷」等8か所の峡谷・渓谷地形が認められ、また計画地Dエリア北方の高見山に連なる尾根線上には奇岩怪岩である「高見山周辺の流紋岩質トア」が存在している。—-こうした優れた地形・地質を損うことのないよう、これらに十分配慮した計画とすること。」

5 陸生動物 環境省レッドリストにおいて「紀伊山地のカモシカ」「紀伊半島のツキノワグマ」として絶滅のおそれのある地域個体群(LP)として掲載、ヤマネの生息、イヌワシの生息確認、オオダイガハラサンショウウオ(希少両生類)、サシバ(三重県指定希少野生動物種)等の希少猛禽類の渡りルートとなる可能性が高い、クマタカ、コウモリ類の生息情報 

8 景観 「想定区域及びその周辺は、国立公園、国定公園、県立公園として指定されている」「重要な自然景観が複数存在しており、本事業による景観への影響が懸念される。」

9 人と自然との触れ合いの活動の場
 (1)「事業実施想定区域内及びその周辺は、樹氷が見られる高見山、シロヤシオで知られる三峰山、ブナが群生する迷岳、明神平、—-優れた自然景観を形成している。」「人々が多数利用する登山道の直接改変やハイキングコースからの眺望が阻害されないよう、風力発電設備の位置・規模等について検討を行うこと。」(2)「現在、松阪市では、香肌峡県立自然公園を中心に周囲の山々を「まつさか香肌イレブン」、大台町では、松阪市界との尾根部を中心とした登山道を「大熊三山(迷岳、白倉山、古ケ丸山)とそれぞれ名付け、観光資源として位置付けている。これらの山域に風力発電設備が設置された場合は、観光資源へ与える影響が懸念されることから、松阪市及び大台町と十分に協議を行ったうえで、風力発電設備の位置・規模等について検討を行うこと。」 その他として、「想定区域は奈良県側から約1kmの距離であり、奈良県に対して環境の保全の見地から意見を求めるよう努めること。」と述べている。

③ 経済産業省意見

経産省は、2021年10月12日、配慮書に対し、以下の意見を述べている。1. 総論として、(1)対象事業実施区域等の設定 (2)環境保全措置の検討 (3)事業計画の見直し 「上記のほか、「2.各論」により、風力発電設備等の配置等の再検討、対象事業実施区域の見直し及び基数の削減を含むあらゆる環境保全措置を講じてもなお、本事業の実施による重大な影響を十分低減できない場合は、本事業の取りやめも含めた事業計画の抜本的な見直しを行うこと。」 (4)関係機関等との連携及び地域住民等への説明 「本事業実施想定区域及びその周辺には、自然公園法に基づく室生赤目青山国定公園等が位置することから、本事業計画の今後の検討に当たっては、関係機関等と調整を十分に行い、方法書以降の環境影響評価手続きを実施すること。また、地域住民等に対し丁寧かつ十分な説明を行うこと。

2.各論として、 (1)騒音に係る影響 (2)水環境に対する影響 (3)風車の影に係る影響 (4)土地の改変に伴う自然環境に対する影響 (5)鳥類等に対する影響 (6) 植物及び生態系に対する影響
(7)景観に対する影響 「想定区域は、全域が自然公園法に基づく室生赤目青山国定公園の第2種特別地域及び第3種特別地域並びに三重県立自然公園条例に基づく香肌峡県立自然公園及び奥伊勢宮川峡県立自然公園に指定されている。当該国定公園は、奈良・三重の県境にまたがる室生火山群の地形・景観、布引山系の丘陵景観及び高見山地の森林景観等を理由に指定されており、本事業の実施により、当該国定公園の高見山地の森林景観等への重大な影響が懸念される。」「眺望景観への影響を回避又は極力低減すること。特に、「国立・国定公園内における風力発電施設の審査に関する技術的ガイドラインについて」(平成23年3月31日付け環自国発110331001号)に基づき、当該国定公園区域の主要な眺望点からの景観を著しく妨げ、眺望の対象に著しい支障を及ぼす風力発電等の配置等を回避することができないと判断される場合は、対象事業実施区域の見直し及び基数の削減を含む事業計画の大幅な見直しを行うこと。

④ 地元の動き

 ・松坂香肌環境対策委員会(飯高町3つの住民自治協議会と有志の集まり)業者に98項目の質問状
 ・2021年7月末~8月30日 意見書2,007通 
 ・2021年 業者の住民説明会(9月まで4回)
 ・計画反対署名 change.orgなどで集める
   2022年5月20日 松阪 市長・三重県知事に提出 36,675筆

2)奈良県山添村馬尻山メガソーラー計画

奈良県山添村は、奈良県東北部の大和高原の一角を占める山村である。1990年代にゴルフ場が計画されたが、業者が撤退した山林を買収して計画が進められている。

①計画の概要 
地区面積81ha 山林60.7ha 原野16.2ha 農地(荒廃農地)1.08ha   
発電量50メガワット フィット制度による電力売電先:関西電力 
事業主体:合同会社山・添 実質的な事業者:株式会社Kエナジー 
着工予定:2022年9月1日~2023年9月30日 
事業費:1100億円 資本金:1万円

地元住民が反対している理由
1.飲料水の水源地
予定地は公共水道の水源地 大規模な造成計画が予定されており、水源涵養の森から流れ出す水は、造成により汚濁や水質・水量に大きな影響が及ぶ。この飲料水は、地元住民のみならず、小・中・高校や給食センター、村役場などの公共施設にも供給されている。
2.大規模森林伐採に伴う災害リスクの高まり
森林の樹木を広大に伐採し裸地とし、山を切り崩し、谷を埋め立て、造成地末端部では高盛り土が計画 計画地の下流域のは住民の住居や農地がたくさんある。強降雨による濁流や、高盛り土による土砂崩れなどの災害のリスクが高まる。
3.豊かな自然環境の消失
馬尻山は、針葉樹と広葉樹が混生する自然豊かな涵養の森。クマタカを始め数多くの絶滅が危惧される動植物が生息。

③ 業者の動き
2014年3月20日 経産省へ事業申請
2019年7月17日 春日、広代、菅生区に役場からメガソーラーの事業説明
     8月15日 事業者から提出済み「開発事前協議書」を村から県に提出  
2020年11月4日 地元説明会

④ 反対の動き
組織:馬尻山のメガソーラーに反対する会(直下流の4区で結成)
山添村森は命の会(山添村の住民で結成)
2019年 8月15日  4ケ大字、事業反対の意志確認
     12月15日  メガソーラー反対講演会(130人参加)
     12月17日  山添村村議会「大規模太陽光発電」反対決議 (全会一致)
2020年10月25日  メガソーラー反対講演会(110人参加)
2021年 3月31日  水道水源保護審議会の結論を村長に提出
      7月 4日   シンポジューム(180人参加)平群、南山城村の会報告
     10月11日   野村新村長と会の話し合い、村長「大規模開発は反対」
2022年  9月      10,937筆の署名を奈良県知事に提出
(村の総人口3,300人の過半数1,730筆の村民の署名)

3)奈良県平群町メガソーラー計画 

奈良県西北部に位置する平群町(人口約1万8千人)は、農村地域だが大阪のベットタウンともなっている。メガソーラー計画地の直下には3つの団地がある。この住民の命をさらす計画が進行している。計画地ではすでに樹木が伐採され、はげ山の状態になっている。現在、奈良県が工事中止命令を出し、工事は中断されている。

①計画の概要
1 事業者の名称 協栄ソーラーステーション合同会社 
2 事業の名称 平群生駒ソーラー発電所建設工事 
3 太陽光発電総出力 DC24.08MWパネル数 52920枚 (生駒平群太陽光発電所事業説明会資料による) 
4 事業実施想定区域の面積等 敷地面積 48.1557ha(甲子園球場約12個分)用地 33.5% 16.113ha、残存森林 30.5% 14.859ha、造成森林 2.3%  1.118ha、 緑地 25.7% 12.4168ha、調整池 2.8% 1.3249ha、道路 3.9% 1.8848haその他 0.9% 0.4387ha、 緑地合計 28.3943ha 
                  (2021.2.16の「開発計画の概要」より)

計画の問題点
1 住宅地への土石災害の危険増大 直下の住宅地に1500戸、3000人超が暮らす(緑ヶ丘・椿台・若葉台団地)。計画地は、非常にもろい地質(真砂土主体とする風化花崗岩質)であるため、土壌が流れやすく造成工事そのものが困難な場所。
2 開発許可申請書の虚偽記載 計画地下流の勾配を実際は7%程度なのに全ての計測地点で18%と表記し、下流河川の流下能力を過大に見せることで、計画地内調整池の規模を縮小しようとした。
3 景観利益の侵害 計画地は条例により「平群谷環境保全地区」に指定され、緑化の推進に務めてきた地域。現在里山の樹木が大規模に伐採されはげ山の状態。摩崖 仏を切り取り、別の場所に変形して設置。
4 2万2000ボルトの高圧送電線ルート→電磁波障害の危険性

計画をめぐる動き
2020年1月12日 平群のメガソーラーを考える会結成 
2021年3月 8日 平群町のメガソーラー建設差し止めを求める裁判(原告980人)   
      6月       奈良県、虚偽記載の報告を受けた奈良県の工事停止命令→  
       工事停止、事業者は開発許可申請の変更を余儀なくされている。 
 2022年8月27日 考える会の集会(110人参加)
     8月28日 業者、住民説明会を強行   
     9月 5日  奈良県、防災工事で「30年確率で防災工事を認めた
       のは法令違反で、50年確率で工事を早急にするよう業者へ指導
       していく」と住民団体に回答  
     9月17日 住民説明会で、業者は30年確率の説明 
     10月 4日 オールへぐり・人と緑の会結成集会(11月15日の
       平群町長選挙に出馬表明した平群メガソーラーを考える会の代表
       世話人須藤啓二氏の支援組織)

その他の動き
2021年12月12日、「メガソーラーを考える奈良の会」結成。山添村と平群町で計画されているメガソーラー建設に反対する住民や、市民連合のメンバーによって結成。

 「第21回全国登山者自然保護集会(主催、日本勤労者山岳連盟 2022年11月12日~13日)予稿集より転載」

(事務局追記 11月以後の動き)
・ 11月15日に平群町長選挙の投開票が行われ、「自然環境を破壊するメガソーラーはいらない」と主張して立候補した須藤啓二氏は3945票、得票率44.9%を得て大健闘するも及びませんでした。
・ 県は12月17日までに、策定作業を進めている県太陽光発電施設の設置及び維持管理に関する条例案をまとめ、公表しました。併せて同発電施設を対象事業に追加する県環境影響評価条例の改正案も明らかにしました。地域環境を守る観点などから発電施設の設置に対する規制を強化する。設置条例は全国6県で先行事例がありますが、県条例案は施設規模と規制区域の両方を知事の許可対象とするなど、より実効性の高い精度を目指し、両案ともに同日から2023年1月11日までパブリックコメントを行った上で、2月の定例県議会に提案する予定です。
・ 林地開発の変更申請について協議する県森林審議会林地開発部会が12月23日開かれ、事業者に住民説明会の履行などを求めた上で、申請通り議決しました。これで審議手続きは終了となり、今後、知事が同部会の答申などを踏まえ、申請を承認するか判断することになりました。

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