”直言”…自治体問題研究所HPより

投稿者: | 2022年4月14日

終身無料乗車券+「ドアからドア」の効用

西村 茂(にしむら しげる)
自治体問題研究所理事・金沢大学名誉教授

( 自治体問題研究所のホームページには、多くの直言、論文・記事が掲載されています。 <直言>欄に、西村茂先生の「終身無料乗車券+「ドアからドア」の効用」論文がありました。住民の外出を支援する自治体の施策が紹介されています。なかなか気づかなかった新しい発想での取り組みです。住民の足をどう確保しようかと運動されている方々、ぜひお読みください。 また、自治体問題研究所のホームページには他にも多くの直言、論文・記事が掲載されていますので、ぜひご覧ください。 以下、「自治体問題研究所ホームページ<直言>」より許可を得て転載させていただきました。 )

終身無料乗車券+「ドアからドア」の効用

公共交通サービスを「無料」にして、住民の外出を支援するという政策があります。この問題を、「ドアからドア」のデマンド交通*と運転免許証返納への支援策との関係から考えてみたいと思います。

現在、日本では運転免許証返納者に限定して、終身無料の乗車券を提供している自治体があります。たとえば栃木県の例では、鹿沼市(「リーバス・予約バス」終身無料乗車券、県内初)、小山市(「おーバス」終身無料乗車券)、真岡市(デマンドタクシーとコミュニティバスの共通無料乗車券・無期限)が該当します。特筆すべきは、デマンド交通が生涯無料になることです。マイカーを手放しても、市内全域で「ドアからドア」までの移動が保障されているのです。自分で運転して出かけるときのように駐車場を探す手間もありません。

この自治体交通サービスのポイントは、「無料」という点よりもむしろ「ドアからドア」にあります。自分の住む自治体内ならば、直接自宅から域内のどこでも行けるのです。マイカーの便利さとほぼ同じなのです。
 人口密度の低い地域では、車は手放せない移動手段です。そこでは高齢者から運転免許証を取り上げるのは普通の生活を諦めろというのと同じです。自分で運転するのと同じくらい「自由な」移動手段が確保されてはじめて「自主的な」返納を促すことができます。

ただし3つの市のオンデマンド・サービスは定時で便数も限られています。タクシーではないのですぐ出発というわけにはいきません。 しかし無料がこの欠点を補ってくれます。運転免許証を返納し、車を捨てるとさまざまな維持費がなくなります。軽自動車でも税・保険・車検・ガソリン・駐車場などで年間平均43万円との試算があります。これをなくせばかなりの節約になります。緊急時や遠方への外出ではタクシーを利用する余裕が生まれます。つまりほぼ毎日、買い物・通院・余暇・友人訪問など目的を問わず、死ぬまで無料で移動の自由が保障されているのです。

栃木県内では、たとえば市貝町でも全域がオンデマンドでカバーされています。しかし無料乗車券ではなく、各年度に22枚(300円×22)の乗車券提供なので、年間11往復しかできません。矢板市では7路線の市営バス「ともなりバス」の無料乗車券が提供されますが、オンデマンドではないので自宅には来てくれません。大田原市では無料乗車証を提供していますが5年間の期限付きです。

私の住む石川県では、終身無料乗車券を発行している自治体はありません。多くは利用券(5000円から2万円)を1年間だけ提供するという支援策です。これではマイカーは手放せません。

 デマンド交通で自宅からどこでも行ける交通サービスが実現し、加えて無料で後押しするなら、安心して運転免許証を返納できます。「お金がかかる」との批判が当然でるでしょう。しかし導入自治体が特別豊かだとか、巨額の支出をしているとは考えられません。他方、この交通サービスが高齢者の健康とマイカー抑制に及ぼす大きなプラス効果を考慮するなら、検討に値する政策なのではないでしょうか。

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