住民の足をこれからどうするか

投稿者: | 2025年2月18日

奈良自治体問題研究 所第26回総会記念講演
      講師 近藤 宏一氏(立命館大学経営学部教授)

近藤宏一氏

 総会記念講演には、会員24名、非会員9名の計33名が参加しました。近藤宏一先生は交通システム論が専門で、交通運輸政策研究会の会長をされています。運転手不足が深刻であり、「バスを増やして」、「元に戻して」、では通らない現状にあると話して講演を始められました。

1. 誰の、どんな移動のニーズかを調査する

  まず、交通とは何か。交通とは、人(または組織)が自らの要求や必要を満たすために、それに必要な移動を行うこと。交通には目的があり、目的があってはじめて移動のニーズが生まれる。したがって、交通を考える場合、誰の、どんなニーズを満たすための交通なのかを意識しておく必要がある。これによって、優先度、財源、交通手段、運行形態等が異なり、多様な交通の組み合わせによって、効率的に多様なニーズに応えることを考えられる。バスや鉄道などの「交通手段」からの発想ではなくて、「移動のニーズをどう満たすか」から発想する必要がある。

 地域の中心的な移動のニーズに焦点をあてることで、どのような交通が必要になるかが分かる。 武蔵野市は、高齢者の外出促進という政策目的に対して、高齢者の外出の目的、移動実態を調べ、それをより効果的にサポートする交通手段として、コミュニティバスを初めて成功させた。路線も新しく組み替えた。

 京都市醍醐では、病院、ショッピングセンター、地下鉄駅、住宅地を結ぶルートを軸に、従来の市バス運行に縛られないルートで自主運行をしている。費用はこれらの施設から支援を受けている。

 2. 地域交通の現状とこれから

モータリーゼーションは持続する

 人口減少が自動車依存に拍車をかける。人口減少⇒公共交通の利用者減少⇒公共交通の削減⇒自動車依存の強まり⇒公共交通の利用者減少の悪循環に陥っている。公共交通への多少のてこ入れでは、自動車依存は解消しない。

 自動車の利便性は否定できず、現在の自動車の抱えている問題の一部 ―交通事故、大気汚染― は、中長期的には改善される可能性がある。マイカーから公共交通への移転が一般的に望ましいという考え方が、今後も持続するとは限らない。

コロナ以前から、地域公共交通の経営は苦しかった

 大都市部ではバスの利用者は微増しているが、若干の景気回復と外国人観光客の増加のためである。公営はほとんど赤字だ。地方では人口減少以上のペースで乗客が減っている。コロナ以前も9割近い事業者が赤字で、経営的にもはや成り立たない現状にある。

 京王バスは史上最高の利益を出したが、それはインバウンドに支えられた高速バス部門の利益。奈良交通は黒字回復したが、バス事業は赤字。コストに占める人件費の比率は平均で4割以上であり、労働条件改善の原資に乏しく、給料が上がらないので、運転手も増えず人手不足になる。人手不足のために現役運転手の労働時間が延びる悪循環となっている。

人口減少と運転手不足

 人口減少によって交通機関の担い手が減少している。人の命を預かり、早朝深夜にわたる勤務、さまざまな利用者への対応、求められる高度な操作技術・・・、多少給料が上がっても魅力的な職場とはいえない。

 予算を増やしたからと言って、現在のような公共交通が維持できるとは限らない。特に地方では、人口の減少によって、そもそもバスや鉄道といった集約的な交通機関の効率性が大幅に低下しており、限られた労働人口の配置としても優先度が低くならざるをえない。

人々が移動する目的を満たすことを保障するための、「持続的な地域交通」の課題

 代替不可能な移動のニーズを満たすために、できるだけ効率的に交通手段を確保する。そのニーズは、その手段でないと満たせないのか、もっとよい他の方法はないのか、という問いかけが必要。安全確保は当然のものとしつつ、自動化やITを活用した省人化を排除しない。

 そのために、交通手段に投入できる地域の多様な能力を活用する。既存交通事業者を基盤としつつ、多様な主体を活用していく。国も既に通学バスへの一般便乗を認めるなどしている。財源も多様に考え、予算の枠組みにこだわらない。

ドイツでは移民労働者が運転手をしている。

 日本では2種大型運転免許保有者が年々減少しており、特に若者が少ない。将来、バスだけでなく、トラック運送もできなくなる。(2種大型運転免許保有者のうち、60歳未満が36万人、全体のわずか43%しかいない。)

. 変化しつつある国と地方の地域公共交通政策

地域公共交通活性化再生法 

 自治体が公共交通の維持・活性化に主体的に取り組むことを規定した法律で、2007年に制定された。従来の事業者任せから自治体が交通政策の主体となることを要求し、それを国がサポートするという画期的な法律。LRT新設などの積極的政策もあれば、路線バス事業者撤退後の代替措置のような緊急避難的政策、鉄道の「再構築」など消極的政策もある。要は、「公共交通の維持」が主目的で、何によって、どのように維持するかは「地域が選択する」建前となっている。

 その後、2014年、20年、23年と3回改正され、まちづくりとの連携、都道府県の関与、過疎地では地域の輸送資源を総動員(自家用有償、福祉運送、スクールバスなども利用)、鉄道では上下分離を提起、エリア一括協定運行事業も可能とした。

①「自立採算原則」の転換へ

 地方では事実上自立採算原則は崩壊している。もともと過疎バス補助はあったが、地域公共交通活性化再生法のもとで国のバス補助制度は拡大充実してきている。多くの第三セクター鉄道やローカル私鉄に自治体財政から補助金が投入されている。コミュニティバスのほとんどは事実上公費での運営。

 大都市部でも変化がみられ、京都市では民間バス路線維持のための補助を出している。市バスもありながら、民間への補助は重要。

②財源についての考え方の多様化 クロスセクター効果

 交通に費用をかけることで、ほかの費用が節約できるのなら、その費用は予算の視点からも正当化されるという考え方。国土交通省も近年推奨している。

 例えば、公共交通機関が不便なために医療機関への通院が抑制されると、病状が悪化してから初めて来院することが増え、手術や入院などの医療費がかさむ。このため、コミュニティバスなどに自治体予算を投入しても、それで自治体の医療費負担が抑制できるのなら「採算がとれている」と考える。この考え方からすれば、コミュニティバスだけではなく、民間バス、住民自主運行等への補助金も正当化されうる。

③多様な交通手段の導入 「歩行支援」という考え方

 家からバス停などを含む、近距離の移動手段を確保することで、公共交通の利用促進、QOL向上をめざす。
・グリーン・スロー・モビリティ 小型・低速の乗物、近距離・少人数の移動を効率的にサポート、条件次第で無人・自動運転も可能(実験中)
・斜面移送システムや斜行エレベーター
・自転車タクシー、電動車いす、ゴルフ場のカートの活用等
 南山城村は、関係者の合意を経て自家用有償旅客運送として「村タク」「月ヶ瀬ニュータウン線」の運行を開始した。

4. 住民主体のまちづくり、交通づくり

①住民自身に求められるもの -「移動のニーズ」の突っ込んだ検討を

 現在および将来のクルマに頼れない移動を保障することを優先として、「バスを残してほしいか」と問えば、ほとんどの人が「残してほしい」と答えるが、実際には利用しない人が大半という現実がある。これが住民の意向を無視して廃止する根拠となっている。しかし、なぜそれでも「残してほしい」になるのか、という理由を突っ込んで検討し、その根本的なニーズをどう満たすのか、という視点から「バスを残す」以外の方法も含めて人々の足を守る方策を考える必要がある。

この地域では、誰のどんな目的での移動をどのようにサポートする必要があるのか

 いつ、どんな人が、何のために、どこへ向かっているのか。通勤、通学、通院、買い物やその他の移動も、クルマに頼れない移動を重視する。

 買い物、通院などはみんなどうしているのか。生協などの宅配と、大型ショッピングセンターに二極分化したりしていないか。病院の送迎バスが活躍していないのか。移動を支えるのに必要な条件整備は何か。乗物自体か、ダイヤか、ルートか、運賃か。

 現在のバスのあり方は適切なのか

 バス停への移動に問題はないのか。傾斜地の移動は高齢者にとって必ず問題になる。バスルート以外への移動需要はないのか。「交通空白地域」という場合に居住地が問題になるが、病院や公的施設、商業施設、福祉施設などの配置はどうなのか。

 路線バスが本当に便利なのか。「鉄道への乗り換えが不便だから、直行するバスが必要」という意見の最大の理由は駅の階段だったというようなことはないか。住民自主運行やタクシー会社への委託などによる、補助的な交通手段の運行は考えられないか。

住民自身の主体性 ―住民自身による運営も

 住民が運営し、事業者に運行を委託するケース  京都市醍醐の「醍醐コミュニティバス」、奈良県内でも運行されている⇒成果と課題を精査する必要がある。

住民自身がハンドルを握るケース  人口減少と高齢化で持続性に課題がある。

行政にもサポートを求める

住民自身による運営に対する自治体のサポート   
交通計画策定へ実質的な住民の参画を求める。肩書や「公募委員」などの形式的な参加ではない。

②行政の役割

第26回総会記念講演の様子

行政、住民、事業者などの話し合う場をつくることが必要。ワークショップや円卓会議、公共交通基本計画策定の部会の設定など、住民の参加機会を増やす。

住民の移動調査などについての突っ込んだ調査を行うことも必要。

そのうえで、有効な移動サポートを政策化していく。その時に、クロスセクター効果の発想を持つ。従来の交通機関だけでなく、斜面移動システムなどいろいろな移動手段を検討する。

地域公共交通計画をコミュニティバスやデマンド交通に矮小化しない。
住民の生活実態、移動実態に基づき、必要なサポートは何かに基づいて、交通手段の計画をつくる必要がある。

数値目標や採算ではなく、「移動を支える必要があるかないか」を議論の出発点にする。それと、自治体トップの姿勢はかなり重要だ。

③事業者との話し合い(≠交渉)

単純なバスの増便や路線維持は困難 

 限られた運転士をより乗客の多い路線に回し、閑散路線を廃止・減便することを非難できない現状にある。将来的に自動運転の導入を視野に入れたとしても、既存バス事業者を存続させることは必要。

知恵を出し合って、現状の条件のもとでお互いにとってプラスになるやり方を考える

 現状では、利益を出さなくていいとは言えない。交通事業者がどこまでできて、住民はどこがどうしても必要で、行政はどこまでサポートできるかを出し合う。キャッシュレス化なども頭から否定しない。利用しなければならない人にとってどうなのかを具体的に検討する。

交通事業者だけでなく、病院なども含めた利害関係者と広く話し合う必要がある

いろんな送迎バスの並走を避ける。ショッピンセンターを交通結節点にする仕組みは始まっている。 バスなどを活用した地域づくりに、公民のいろいろな施設、活動を巻き込んでいく。
  利用者増は掛け声だけでは進まないし、人手不足の状況のもとで、利用者が増えても支えられるとは限らない。本当に必要なニーズを支えることをきちんと位置付ける。

終わりに、見通しは厳しい。人口減少と高齢化、需要は増えるが、担い手は減る。全産業分野での労働人口の奪い合い。財源の減少が進む。

厳しいからこその展望、可能性がある。せめぎあいの状態だが、国の政策が抜本的に変化しつつある。「自民党政治」もこれまでと変わらざるを得ない。道路から公共交通へ。 企業の競争の焦点も変化している。
トヨタがモデルタウンを造っている。
広範な人々、勢力との協働を作ろうと話されて、近藤先生は講演を終えられました。

 講演後、参加者から各地域での報告がありました。また、元バス運転手から、労働条件も悪かったがカスタマーハラスメントがひどく、事業者が守ってくれなかったとの発言があり、厚労省と国交省にカスハラ対策を促すとともに、労働組合の確固たる運動が必要と述べられました。 

(文責 城)

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