大和高田市学童保育事業の民間委託を考える

投稿者: | 2021年8月28日

中村 篤子(理事、奈良自治労連)

2021年4月から大和高田市学童保育事業が、「㈱シダックス大新東ヒューマンサービス」(以後「シダック」という)に委託されました。大和高田市学童保育指導員労働組合(以後「組合」という)の取り組みを中心に、明らかになった問題点について考えてみたいと思います。

18年冬、保護者を中心に結成された「留守家庭児童ホームをよくする会」が、開所時間延長「授業のある日:放課後~19時、授業のない日:7時30分~19時」を求めて、2,604筆の請願署名を集め大和高田市へ提出されました。19年3月市議会において全会派一致で可決されました。3月の交渉時には、組合は「導入するのであれば、大幅な人員増と基本給の引上げ」を求めました。民間委託の方向は示されませんでしたが、11月の交渉で「人材確保が困難で、選択肢の一つ」との姿勢に対し、「もっと工夫し、賃金も上げて指導員募集すべき」と求めました。

20年2月交渉で市教育委員会は「相当数の指導員が必要。民間のノウハウを活用したい。シフトも組まないといけない」、6月交渉で「外部委託の方向性が決まった。指導員の雇用継続、昇給はそのまま」と通知しました。「民間企業であれば指導員不足を解消できる」保証はどこにもありません。すでに営利企業へ委託した所では、「指導員が3年契約で全員が入れ替わった」「補助金が企業の利益に回された」「保護者との個人的な会話が禁じられている」「英会話教室がオプション」など、多くの問題が起きています。指導員と学校との直接のやり取りはできなくなります。現在の指導員の雇用継承問題だけでなく、今後の委託契約先の変更などに伴う解雇・雇止めや労働条件の引き下げが発生することはめずらしくありません。株主利益を第一に考えなければならない営利企業と、住民の権利を第一に考えなければならない自治体では、その立場が全く異なります。

また交渉のやり取りで、新たな制度設計に必要な市教育委員会の人員確保が不十分なため、以前はできていた「広範な募集実務・全体研修」ができなくなっており、「シフト制導入」などもできないことが明らかになりました。市民の願いを制度設計する正規職員の大幅な増員なくしては、“今後市民から新しい制度提案が出てきても民間委託でないと実現できない”事態ではないでしょうか。危機感を感じました。2月の組合主催学習会で講師は、「大阪府下では、43自治体中32自治体で19時延長実施。その内21自治体は自治体直営。指導員の賃金引上げ・人員増を行なえば、市直営で19時保育延長は可能」と語りました。奈良市でも数年前から19時延長を実施していますが、直営堅持で運営しています。保護者が求める開所時間延長は直営でもでき、民間委託の条件ではありません。

組合は、7月仕様書作成時と10月「シダックス」契約調印前、委託直前の3月に、それぞれ要求書を出し、交渉しました。要求項目の数点が仕様書に盛り込まれ、希望者の全員の雇用継続、現行水準の賃金・経験加算給制度、有給の特別休暇の確保などが実現できました。「問題が起これば直営に戻すこともできる。労使協議を尊重するよう依頼する」との答弁も引き出しました。これは9月、“守口市学童保育指導員雇止め裁判から学ぶ「学童保育が民間委託されたら何が起こるのか」学習会”から学んだことを反映しています。12月16日指導員説明会にあたり、14日に組合と懇談したいと「シダックス」から申し入れがあり、市教育委員会が同席する中、組合員が様々な疑問や要請を行ないました。良好な労使関係が持てそうだと確認できました。3月の交渉で市教育委員会は、委託後「指導員の意見を聞く会」開催・県本部書記長との意見交換を認めました。組合は、実施主体である市当局の恒常的な責任の体制、受諾企業の監視について強く求めました。「月額指導員の退職補充は時給指導員」との「シダックス」方針に、「月額指導員中で運営を仕様書に書けば応じてくれる業者はない」との市教育委員会の判断であったことが判明。自ら「月額指導員・堅持」を放棄した結果であることが分かり、民間委託の弊害の一つが明らかになりました。今後、主任・副主任を含め時給指導員中心の運営へと変容していきます。

12月に申請したプロポーザル入札情報開示請求は、「シダック」との「調整」が難航し、2月の開示となりました。「営業上の秘密」「内部管理に関する情報」を理由に、人件費・教材図書購入費・特別な配慮を必要とする子どもへの対応・付加価値サービス・キャリアアップ・安全衛生などが不開示です。税金で運用される公的サービスであるにもかかわらず、労働者・保護者・市民が知りたい内容を知り得ることができない実情が明らかになりました。市直営であれば開示される情報が非開示です。行政には求めていける説明責任を、受託企業へは求めることができません。透明性・公的説明責任・公的監視が困難です。民主的な説明責任の追及を通じてサービスをよくする保護者・住民の力が無くなります。

審査委員会の議事録では、「㈱共立メンテナンス(以後「共立」という)もプロポーザルに参加する意欲があったが、雇用条件や昇給の条件を付けたので、最終的には金額で辞退したのかと推測できる」趣旨の発言がありました。「共立」は、守口市学童保育事業を19年4月に5年契約で受託しましたが、委託直後から労働組合を認めず団体交渉を拒否した上に、1年後20年3月には指導員13人を雇止めしました。団体交渉拒否には大阪府労働委員会からの不当労働行為救済命令が出されたもののこれを無視し、雇止め事件は大阪地裁での法廷闘争へ突入しています。21年4月中央労働委員会で、不当労働行為であると断じた救済命令が出され、6月「共立」が取消訴訟をしなかったので確定しました。自治体の入札参加資格停止は、5月13日大阪府以降、大阪市、守口市、京都市、門真市、富田林市、柏原市、堺市、寝屋川市、豊中市、枚方市に広がりました。しかし、守口市は実施主体責任も「共立」への指導も行なっておらず、今に至っても誠実な団体交渉も雇止めされた指導員の復職も果たされていません。

従事する職員の多くが非正規雇用である場合、民間委託しても財政上の効果はほとんど期待できません。むしろ膨らんでいるのではないでしょうか。問題が起これば直ちに是正し、子ども・保護者・地域住民・労働者への多大な負担があれば、再公営化・再直営化を視野に入れた取り組みの展開も求められていくと考えています。

今回の民間委託問題を考える基礎に、「行政サービスのインソーシング‐『産業化』の日本と『社会正義』のイギリス‐」(榊原秀訓・大田直史・庄原勇人・尾林芳匡:共著/自治体研究社)を大いに参考にさせていただきました。

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