「第3回連立政権合意書合同研究会」が6月15日に開催され、6名の奈良研会員が参加しました。【憲法改正】を山口真美氏(弁護士)、【エネルギー・原発政策】を大島堅一氏(龍谷大学教授)が報告されました。
憲法改正を検証する ― 山口 真美 弁護士
政権合意書の概要
総論(前文)では、両党は、「国家観を共有」し、「国難突破」「日本再起」を目指し、・・・・戦後最も厳しく複雑な安全保障環境を乗り越えるためには、日本列島を強く豊かにし、誇りある「自立する国家」・・・、日米同盟を基軸に、極東の戦略的安定を支え、世界の安全保障に貢献する・・・。
各論では大きく分けて3点、①可及的速やかに、衆参両院の憲法審査会に条文起草委員会を常設する、②9条を改正する、③緊急事態条項を導入する。
政権合意書の分析評価 1 前文(前提となる国家観、安全保障にかかわる情勢認識の問題点
・国家観共有とは、政治の目的を社会福祉や国民生活よりも「国家の強化」として設定。・中朝露の脅威を一方的に強調し、日米同盟及びアメリカの要求に追従 際限のない軍拡競争に陥る軍事力強化以外の選択肢を検討しない 国連の役割の否定、国際法や外交、多国間協力の役割の過小評価 憲法9条を含む平和憲法の意義を否定
政権合意書の分析評価 2 起草委員会の常設
・起草委員会とは、憲法改正案の具体的な条文を作成するための組織・機関として、自民維新などが主張しているもので、憲法審査会法や国会法で設置が明文化されたものではない。
・起草委員会の常設は、実質的な改憲発議に向けた最終段階への移行で、次の理由により危険
①改憲の流れが既成事実化する 改憲するかどうかではなく、どのように改憲するかになる
②少数会派の意見が排除される恐れ 多数派が議事運営を主導するため、起草委員会で案が固まった後は修正が困難になる
③密室化の恐れ 憲法審査会本体は公開だが、起草委員会は公開されない恐れがある
④国民投票への流れが加速 改憲の有無の検討段階から発議準備段階へ移行 ⑤個別論点の議論が後景化する 起草段階となると、審査会での議論が尽くされたことが前提となり、「各党(実質的に改憲派の主要会派)が妥協できる文言」の調整が中心となり、改正そのものの必要性や危険性の議論が後景化する。
政権合意書の分析評価 3 9条改憲
・自民党改憲4項目素案 9条1項、2項を残したまま、9条の2に自衛隊を明記する
①自衛隊を明記するだけなら何も変わらないは「ウソ」 変えたいから改憲する、変わらないなら政権の命運をかけて改憲する必要はない。成し遂げたいのは「戦争する国」
②平和や人権、民主主義より軍事が優先される社会になる 憲法の理念が変わる 戦争するための憲法へ 軍事的公共性の優先 徴兵制、軍事機密の横行、軍法会議社会保障より軍備拡張に偏った予算へ
③歯止めとしての9条2項の死文化、9条の2が優先する 築き上げてきた「平和ブランド」の崩壊、中国との軍事的緊張の高まり
④名実とともに「軍隊」となる自衛隊
必要最小限という限定はない 実力部隊であればよい
敵基地攻撃能力の保有も合憲となる 青天井の軍事費の増大と社会保障の切り捨てへ
・維新21世紀の国防構想 自民党日本国憲法改正草案(2012年)とほぼ同じで、正面から平和憲法を否定し、平和国家から軍事国家への完全な転換を図るもの
政権合意書の分析評価 4 緊急事態条項の創設
・自民党改憲4項目素案 大規模災害時の議員任期延長、内閣の緊急政令等 ①緊急事態条項の特徴は、執行権力に権限を集中させ、国民の権利を包括的に制限するもの
緊急事態条項の本質は、憲法停止条項、立憲主義の制約を緊急事態の際に解除するものであって、濫用の危険が本質的に内在する
内閣への権限集中、選挙の延期は政権の独裁を引き起こすもの
一つの理念(立憲主義)、三原則(基本的人権、国民主権、平和主義)の否定 ②任期の特例(延長)は明らかな「選挙の制限」国民の参政権の侵害
議員の身を肥やす改憲
③恣意的な発動、濫用の危険
定義が曖昧、判断するのは内閣、国会は事後承認であって濫用を妨げない ④必要性はない 現行法(公職選挙法、災害対策基本法)で対応可能・「緊急事態条項」のイメージ(案) 中立公正であるべき衆議院法制局に自民などの一部会派がつくらせたもので、議論が尽くされたと既成事実化を狙うもの。自民党素案を具体化した内容となっている。
歴史の教訓に逆行する 戦前の大日本帝国憲法の「緊急勅令」「緊急財産処分」 帝国議会で廃案になった死刑を導入する治安維持法改悪案が「緊急勅令」で成立した 侵略戦争遂行のための戦費調達に「緊急財産処分」を乱発した 1941年、挙国一致のためとして任期を立法措置で1年延長し、太平洋戦争に突入した 日本国憲法が緊急事態条項を否定したのは、侵略戦争遂行と戦争に反対する国民の弾圧に利用された歴史への反省からだ。
分析評価を踏まえた提言
・かってない改憲の危機
圧倒的多数の改憲派の議席が現出した 高市 「時が来た」「発議に何とか目処が立ったといえる状態で来年の党大会を迎えたい」 自維連立政権が合意書に基づく起草委員会を立ち上げ、4月17日に初会合した
・改憲をめぐる攻防は今どこに位置しているのか
現段階は、国会による発議の第一段階
= 改正原案の作成(条文の起草)をめぐる攻防の段階 起草委員会を常設しようという議論は、参議院の憲法審査会では話題になっていない状況 9条と緊急事態条項の議論は、改憲派の足並みがそろっていない状況
・会見をめぐる世論
改正の進め方は、慎重な政党も含めた幅広い合意形成を優先すべきが73% 9条改正の必要性は、拮抗している イラン攻撃を批判する世論の高まり 支持しない82% ⇒ 自衛隊明記については好意的 危険性が周知されていない! 防衛力強化は望むが、平和志向であり、戦争・侵略に対しては否定的
・衆参両院で提出・発議させないたたかいが大切
自衛隊明記や緊急事態条項の危険性、改憲で何が起こるかを知らせる 抑止力論を含む安全保障戦略の危険性を語る 戦争がもたらすもの、戦争のリアルを語る ウクライナ、イラクの教訓 終わらせられない、いのちと暮らしの破壊 南西諸島の現状、継戦能力の強化の動きが意味するもの 陸自と全日本葬祭業協同組合連合会との連携・協力に関する協定 衆参両院の憲法審査会で条文の起草をさせないたたかいが重要 国民投票をしても改憲派が勝てない、政権が崩壊すると思わせることが大切 街頭での宣伝や学習活動を広げよう
参加者から、自治労連は署名活動を重視して一人5筆集めようと頑張っている。公務員を予備自衛官に強制するなと運動しているとの発言があり、また、国民投票の仕方、有料公告、SNSの利用についても検討すべきだとの意見も出ました。
| エネルギー・原発政策を検証する ― 大島 堅一 龍谷大学教授 |
政権合意書の検証する視点
合意書では次のように書かれている、電力需要の増大を踏まえ、安全性確保を大前提に原子力発電所の再稼働を進める。次世代革新炉および核融合炉の開発を加速化する。地熱などわが国に優位性のある再生可能エネルギーの開発を推進する。国際海洋資源開発(エネルギー資源および鉱物資源)を加速化する。
これに対し、つぎの5つの視点から検証する。 ①福島原発事故後のエネルギー政策の転換をどう反映しているのか。 ②「電力需要増大」は原発再稼働の根拠になるのか。 ③「安全性確保を大前提」と言いながら、何が書かれていないのか。 ④原発推進は費用とリスクを誰に負担させるのか。 ⑤自治体は、原発依存ではなく、省エネ・再エネを軸にどう対応できるか。
福島原発事故後のエネルギー政策の転換をどう反映しているのか
原発再稼働は単なる電力供給の問題ではなく、自治体と住民の安全、生活再建、財政、地域社会の存続にかかわる問題である。合意書は、福島原発事故の悲惨な経験を無視している。 事故後の「原発依存度低減」と「再エネ最優先」の柱は、2022年7月以降のGX実行会議を契機に原子力回帰へ、原子力事業者が安定的に事業を行えるよう国が事業環境を整備する責務を負う方向へ転換し、そして「再エネ最優先」の文言は削除された。合意書はこの方針転換を後押しするものだ。 東電旧経営陣は刑事責任を逃れ、2022年6月の最高裁判決によって国の損害賠償責任は否決された。もうどんなことでもできる状況だ。
「電力需要増大」は原発再稼働の根拠になるのか
電力需要は2007年度をピークに減少傾向が続いている。これには省エネの進展、産業構造の変化、人口減少がある。AIの普及によってデータセンターの電力消費が増えると言っても限定的だ。
世界的には、再エネは既に主要電源になり、近い将来全世界の90%以上を供給すると考えられている。日本は世界の動きに逆行している。
「安全性確保を大前提」と言いながら、何が書かれていないのか
原発再稼働に必要な具体的条件が書かれていない。次のような論点が欠落している。
・老朽原発の運転延長、 ・地震・津波・火山リスク
・避難計画の実効性、 ・複合災害時の対応
・立地自治体、周辺自治体の同意、 ・使用済み核燃料の保管
・核燃料リサイクル政策の行き詰まり、 ・事故時の損害賠償と費用負担
安全性確保という言葉は常套句であり、具体的な制度設計を持ち合わせていないのではないか。
原発推進は費用とリスクを誰に負担させるのか
合意書では「次世代革新炉および核融合炉の開発を加速化する」とだけ書かれている。しかし、原子力小委員会で、この方針が原発再稼働だけでなく、原発の建て替え、新増設を国策として進める構想として具体化されている。しかし、それは次の点で批判されるべきものである。
①大型原発は投資決定から運転開始まで最短でも15~20年を要するもので、建設スケジュールとして成り立たない。
②サプライチェーン、人材、規制、立地同意、建設費、訴訟リスクが制約となり、実現可能ではない。
③電力自由化と矛盾する。市場競争できない電源を国家が制度によって延命・拡大することになる。
④市場原理として成り立たないものを、最終的に電力消費者や納税者に転嫁されるおそれがある。
⑤地方自治と住民合意の問題が軽視されている。
⑥規制と推進の分離を後退させる恐れがある。
次世代革新炉は高コストであり、規制、立地、使用済み燃料、廃棄物、事故リスクの問題が残る。核融合については、核融合反応の長期継続すら実現性がなく、ましてや発電が商用化されることはない。
自由化された電力市場の中でも、原子力を特別扱いし、必要な投資や事業継続を支える制度を構築することを意味する。安全対策費、廃炉費用、使用済み核燃料対策、再処理費用、事故時の賠償費用は、最終的に電力料金や税財政を通じて国民負担となる。
※ 次世代革新炉とは、革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉
自治体は、原発依存ではなく、省エネ・再エネを軸にどう対応できるか
原発再稼働は国のエネルギー政策であると同時に、地方自治に深くかかわる問題である。事故時の対応は立地自治体にとどまらない。周辺自治体、避難先自治体、医療・福祉施設、学校、交通、地域経済にも広がる。したがって、原発再稼働を検討する際には、少なくとも次の点が不可欠だが、合意書にはほとんど書かれていない。
①立地自治体だけでなく周辺自治体の同意をどう扱うか。
②避難計画の実効性をどう担保するか。誰がそれを検証するか。
③要配慮者、病院、介護施設、學校の避難をどう確保するか。
④事故時の自治体負担をどう考えるのか。
⑤地域住民の意思決定参加をどう保障するのか。
合意書では、再エネについて「地熱などわが国に優位性のある再生可能エネルギーの開発を推進する。」と書かれており、太陽光や風力等は書かれていない。メガソーラーに法的規制の動きがあり、太陽光等による乱開発を防ぐことは重要であるが、問題は再エネそのものにあるのではなく、問題はこれまでの開発行政にある。必要なのは再エネを抑制することではなく、地位合意、環境保全、ゾーニング、地域還元、住民参加を制度化した地域主導型再エネを進めることである。
自治体が省エネ、再エネに取り組む意義は脱炭素だけにとどまらない。
①省エネは自治体財政の改善につながる。公共施設の断熱改修、LED化、高効率空調の導入は、光熱費を削減し、経常経費を低減する。学校、庁舎、公民館、福祉施設などを多く持つ自治体にとって、省エネは即効性のある財政対策となる。 ②住宅の断熱改修は住民の負担を軽減する。工事を地域の建設業者が担えば、地域経済の活性化にもつながる。
③地域主導の再エネ事業は、エネルギー費用を地域内に循環させる。発電施設の所有、議決権、便益配分を地域が担う「コミュニティパワー」の考え方が重要である。
④地域主導の再エネは住民参加の道を開く。原発再稼働の判断では住民参加が閉ざされがちだが、地域の省エネ、再エネでは、住民が計画、出資、所有、利用、便益配分に関わることができる。
合意書のエネルギー政策は、福島原発事故後の「原発依存度低減」と「再エネ最優先」から、「原発の最大限活用」へと転換する流れを政治的に追認するものである。世界は一気に再エネに動いているのに、日本は原子力、石炭に固執している。
(文責 城)