奈良県広域水道企業団発足1年で見えてきた課題

投稿者: | 2026年6月20日

井上昌弘(理事・前奈良市議会議員)

全国で初めて料金統一を伴う事業統合として出発した奈良県広域水道企業団(奈良市・葛城市を除く26市町村及び県が参加)が発足して1年が経ちました。しかし早くも基本計画の見直しや想定していなかった事態も起きています。

(1)想定していなかった大滝ダムの渇水

大滝ダムが完成すれば20年に一度の渇水でも対応できると言ってきたのに、記録的少雨でダムの貯水率は一時5%台にまで下がり、企業団は3月31日から5月29日に解除されるまで約2か月間給水制限を行いました。その一方で浄水場の廃止は計画通り進めるとして北郡山浄水場を4月1日から廃止させ、今後天理市や桜井市の浄水場など5つが廃止される予定です。「渇水なのになぜ自己水源を減らすのか」と怒りが広がっています。

大滝ダム 2026.5.16撮影 城

 県営水道と26市町村営水道を統合し、主要水源を大滝ダム+室生ダムに集中させる一方で地下水浄水場の廃止方針が掲げられ、大和郡山市・北郡山浄水場(地下水)は 2026年4月に廃止されました。これにとどまらず、企業団の基本計画では今後浄水場を13施設から8施設に削減することになっています。その削減予定は生駒市・山崎浄水場(以下「浄水場」記載略)、天理・豊井、天理・杣之内、桜井・外山、御所・櫛羅の5施設です。自己水から県水への転換を進め、その究極の姿である県域水道一体化=水道統合がもたらしたものは、地下水という「リスク分散機能の喪失」と言えます。

当初の県域水道ビジョンでは、奈良市緑が丘浄水場以外のすべての市町村自己水源を廃止し、桜井・御所・奈良市緑が丘の3浄水場に統合する計画でした。その反映で2017年に策定された「新県域水道ビジョン」や企業団の基本計画でも、経済効果ばかりが強調され、渇水リスクへの備えは全く記述がありません。老朽化対策や管路の耐震化が主な内容であり、渇水への備えは視野にすら入っていない状況です。
 こうした渇水リスクの認識が乏しい背景に「大滝ダムの完成で渇水は起きない」といういわば「大滝ダム神話」のような認識があるのではないでしょうか。その「大滝ダム神話」の具体例を2つ挙げます。

その1― 2018年2月「ニュース奈良の声」より引用した県水道局幹部の発言

県域水道一体化問題を取り上げてきた「ニュース奈良の声」の2018年2月4日の浅野詠子氏の記事では、当時の県の水道局幹部が「大滝ダムが完成して以来、渇水という言葉を聞いたことがない。大きな効果を実感している」と発言したことを紹介しています。

その2―「奈良モデル」のありかた検討会報告書の平成29年版
「奈良県の水需要に対して、これまでダム開発などにより水源開発を行ってきたが、平成24年度末の大滝ダムの完成により、今後10年あるいは20年に一度発生すると予想される渇水時においても、安定的に水道用水を供給することが可能となった」との記述があります。

今回の企業団の給水制限は、地下水という“ダムとは別系統の水源”を削減することで ダム依存度が上昇し、そのダムが記録的少雨で枯渇に近づくという構造であることを示しています。「渇水に強い構造」であるどころか、「渇水に弱い一極集中構造」へと変化しつつあります。つまり、統合は渇水に対する耐性を下げたとも言えます。

(2)早くも赤字の見通し

3月31日に行われた企業団議会では、人件費・物価の高騰と金利の上昇により、厳しくみて、来年度の2027年度から赤字になり、5年間で約70億円の黒字という当初計画が逆に11億円の赤字となる見込みであることが示されました。

また学識経験者などで構成する企業団の水道事業審議会は、持続的な水道事業のための料金改定の審議を主目的としており、4月22日に行われた初会合でも料金改定の問題が議論されました。審議会では企業団から「一体化にあたっては構成団体に料金引き下げの効果をもたらすことに注力した。一方で近年の物価上昇の影響で収支見通しは厳しくなっている」との認識が示されました。一体化への参加を促すために189円/㎥という低い統一単価を設定し、これより低いところは現行料金のままでスタートさせており、給水量を増やさない限り料金収入は減る構造です。5年ごとに料金を見直すというのが当初計画ですが、昨年度決算の状況次第では料金値上げの前倒しや想定以上の値上げが行われる可能性が高まってきました。審議会に示された「今後のスケジュール」では令和7年度決算を踏まえた収支見通しの検証を行い、今年の10月にも料金値上げの要否を判断し、要検討の場合は値上げ案を作成し、来年の企業団議会に提案するとしています。審議会資料では、このスケジュールも「状況により前倒しも想定する」としており、さらに早まる可能性もあります。

ちなみに奈良市は前回の値上げは1998年で、28年間据え置いています。市の水道中期計画でも2031年までは少なくとも現行水準を維持するとしています。

(3)水道料金の減免は企業団ではやらない。やるなら市町村の財源で

企業団議会で議員が料金減免制度の創設を求めても、山下企業長(知事)は「企業団の役割は良質な水を安定して供給することであり、福祉減免は市町村の仕事」と答弁し、水道法の目的である「清浄にして豊富低廉な水の供給」に背を向け、効率第一の姿勢です。

企業団に参加していない奈良市と葛城市では、各議会の議決を経て昨年度、国の交付金を活用して水道の基本料金を3か月~4か月減免しました。一方、国から市町村に交付される財源を使って企業団として一斉の減免をしようとすれば構成団体すべての議決が必要となり、一つでも反対団体があれば実施できず、容易なことではありません。個別に各市町村議会の議決を得て財源を企業団に繰り入れすることができれば可能と答弁がありましたが、実務的には減免の財源確保、減免対象者の抽出、料金システム改修に費用と時間がかかり、企業団としての具体化は今後にゆだねられています。

水道のくらしにかかわる施策の具体化という面でも、県域水道一体化によって小回りが利かなくなっている課題も浮き彫りとなってきました。

(4)事業所の集約で住民サービスは維持されるか

企業団の事務所は市町村ごとに現在26ありますが、これを5事業所にし、当初計画では全体5エリアに再編する予定であったものをさらに減らして3エリアに縮小する予定であることも明らかになってきました。住民の相談が遠くなる、漏水の対応が心配だという首長の懸念も出されています。

(5)職員採用において予定を大幅に下回る人数しか確保できず、

特に技術職の採用が困難

昨年度、企業団は、職員採用については20人の募集をかけても3人しか採用できず、事務職ばかりで技術職は採用できませんでした。人材確保できることがメリットと説明を受けてきましたが、この採用状況が続けば技術の継承ができないことも明らかになりました。

結局、大滝ダムの渇水も想定していなかったたこと、来年度から赤字が想定されていること、事務所の大幅削減で住民サービスが後退しかねないこと、職員採用が進まないことなど、効率優先で進めてきた県域水道一体化の問題点が早くも露呈してきています。

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